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梅でいろいろ作りたい

 一日寝倒したら、翌日にはなんとか起きて活動できるようになった。パソコンの前で昨日できなかった作業を片付けていると、怨霊(女子中学生のすがた)(命名:千歳)が買い物から帰ってきた。


『ただいま、星野さんから梅もらったぞ! たくさん取れたんだって!』


 ビワの時と同じく、千歳はエコバッグ以外にもうひとつ袋を下げている。いや、ビワのときより相当袋でかいな。


「ずいぶんもらったな、そのうち何かお礼返さなきゃなあ」

『この梅でなんかいいのが作れたら、お礼に分けるかもしれない』

「なるほど」


 千歳は荷物を片付け、梅を目の前にして考え込んだ。


『どうしようかな、梅酒か梅干ししか思いつかんが、梅干しだと干すところがないな』


 この部屋のベランダはだいぶ狭い。たしかにものを広げるスペースはない。あと、梅酒は嫌いじゃないけど、俺はなるべく酒は控えたほうがいい身だ、過敏性腸症候群的な意味で。


「酒なしの砂糖だけで漬けて、梅シロップとかじゃだめ?」

『うーん、お前に精つけさせなきゃならんから、にんにくと混ぜて焼酎に漬けようかなと……朝晩に一口ずつなら腹具合にも響かないだろ』

「やめてそんな悪魔合体」


 俺は何を飲ませられるんだ。梅酒というか、甘い酒は嫌いじゃないけど、にんにく混じりの梅酒とか飲みたくない。

 千歳はあっさりと言った。


『元々、なんか精の付きそうな酒は仕込もうと思ってたんだ。お前、熱はよくなったけどそれ以外はふにゃふにゃのままだし』


 ふにゃふにゃなのは否定しようがない。俺は別の方向からの説得が必要だと感じた。と言っても、何が……。

 思いついたのは、自分としてはあまり使いたくない知識だった。


「俺、人参……高麗人参の入った漢方薬、処方されてずっと飲んでるけど、それでこの体たらくだからね?」

『え?』

「にんにくとか、全然効かないとはまでは言わないけど、俺にはあんまり効果ないよ」


 千歳は目をまん丸くした。


『高麗人参って、あの高麗人参か!?』

「そう、江戸時代から有名で珍重されてるやつ」

『お前、どこにそんな金あったんだ!?』

「漢方薬に入ってる分なら、今はそこまでびっくりする値段じゃないよ。まあ自分で買えば高いけど、病院でもらってるから保険効いて安いし、俺は自立支援医療制度でさらに三分の一だし」

『そうなのか……ええー、お前高麗人参飲んでてもそれなのか……どんだけひどいんだ……』


 千歳は呆れた顔になった。しかし、千歳に呆れられていなくなられたら嫌だなと思った翌日に、こんなに呆れられるとは思わなかったな……。

 フォローの必要を感じたので、俺は言い添えた。千歳は別に、いなくはならないだろうけど。


「まあ、飲んでなかったらもっとひどい可能性もあるけどさ」

『うーん、そうか……でもまあ、高麗人参でそれなら、にんにく梅酒じゃ歯が立たないな、やめとこう』

「そうしなよ、梅シロップにしな。作っとけば、これからの季節、水で割ってジュースにしても、かき氷のシロップにしてもおいしいよ」

『かき氷……』


 千歳の目の色が、明らかに変わった。


『かき氷にかける! 梅シロップ作るぞ! 後で砂糖買ってくる!』

「そうしな」

『お前にも、たまになら分けてやらんでもない。あ、でもかき氷だとお前腹こわすか?』

「千歳が作ったら、一口分けてくれればいいよ、それくらいなら平気」


 それから、千歳はタブレットで他にも梅レシピを調べて、『カリカリ梅なら干さずに作れるからカリカリ梅も作る、星野さんにも分ける』と宣言して、午後はずっと梅を漬け込んでいた。

 梅酒なら漬けて寝かせば寝かすほどおいしくなるし、そしたら梅酒がおいしくなるまで千歳がずっといる保証ができるような気がして、やっぱり梅酒を作ってもらうべきだったかなあと思ったが、あれこれ作業している千歳が楽しそうなので、まあいいかと思った。そのうち、そんなに高くないかき氷機を買おう。

過敏性腸症候群の治療には人参湯などの漢方薬を使うこともあります

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