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子々孫々まで祟りたい 〜転んで祠を壊しちゃったら怨霊が子々孫々まで祟りに来たけど「俺で末代」と言ったら怨霊が困り始めて子孫を残させようと奮闘しだした件について〜  作者: zingibercolor・種・がくじゅつてきあかげ
第8シーズン

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寂しい気持ちを紛らわせたい

 千歳がいなくて二日目。俺一人しかいない部屋。

 千歳との会話、千歳が家事をしてくれている気配、なにもない。寂しすぎる。千歳の存在がこんなに大きかったなんて……。

 食事を作っといてくれたのはありがたかったけど、一人の食卓がこんなにわびしいなんて思わなかった。

 千歳と会ってから二年。もう、千歳のいない生活なんてできなくなってしまった……。

 折悪しくも世間はゴールデンウィーク。寂しさを追い払うように仕事に打ち込んだら予想以上に早く終わってしまい、でも萌木さん属するグリーンライトは暦通りに休むので追加の仕事が回ってこない。狭山さんの原稿もまだ上がってきてない。富貴さんのところの当座の仕事はもう出来ちゃった。うわー、時間を持て余す!!

 俺はしょぼくれてスマホを手にした。Discordの狭山さんサーバー、【茶の間大海】に向かう。未読があるチャンネルをざっとチェックして、それから気付いた。

 あ、ボイスチャンネル行ったら、誰か雑談してくれるかな? そしたら、寂しいの紛れるかな?

 休日の夕方。オンラインの人はそれなりにいる。俺はボイスチャンネルの付属チャンネルに「1時間くらい雑談希望です」と書き込んでから、ボイスチャンネルに入った。

 誰か来てくれるかなあと思いながら待っていたら、見覚えのある男の娘キャラのアイコンが来た。埼玉9号さん。狭山さんの妹さんの、狭山咲さん。


「あ、こんばんはー!」

「こんばんは、来てくださってありがとうございます!」


 割と本気でお礼を言う。千歳いないし、ずっと家で仕事してたし、今日始めての会話じゃないか、俺?


「和泉さん、ボイスチャンネルに来るのそんなになくありません? どうしたんですか?」


 茶の間大海のボイスチャンネルではちょいちょいマーダーミステリーをしているのだが、俺は文字ベース以外のマーダーミステリー以外参加していないのを指しているのだと思う。


「いや、ちょっと事情がありまして……十日くらい同居人が泊まりでいないんですけど、そうするとずっと誰とも喋らなくて、寂しいなと思って……」

「あー、和泉さんも家仕事の人でしたっけ」

「そうです、Webライターやってて」


 そして、俺は思いついた。そうだ、俺、富貴さんの仕事関係でメンズメイクの初歩を履修しておきたくて、メイク詳しい人に話を聞きたかったんじゃん。ちょうどいいチャンスじゃん!


「そう言えば、狭山さんに聞いたんですけど、埼玉9号さんは誰かにメイクするのお好きとか」

「あ、そうですね、大好きです!」


 弾んだ声が返ってきた。


「あの、私ですね、仕事の関係でメンズメイクを勉強したくて、でもどこから手を付けていいのか全然わからなくて。なんか、まったくの初心者におすすめのサイトとかご存じないですか?」

「えー! メイク興味あるんですか!?」


 すごく嬉しそうな声だな、本当にメイク好きなんだな。

 埼玉9号さんは弾んだ声のまま言った。


「それだったら、今YouTube一択ですよ。おすすめコスメ紹介動画もメイク指南動画も、たくさんありますんで!」

「あ、そうなんです?」

「ちょっと待ってください、サブチャンネルにおすすめ動画張ります」


 しばらく待っていると、ボイスチャンネルの付属チャンネルに五個くらいアドレスが貼られた。おお、こんなにあるんだ!


「ありがとうございます、助かります!」

「いーえー! メイク布教するの大好きなんで!」

「いや本当に助かります、基礎化粧品はそこそこ詳しいんですけど、それ以外はあんまりなので……」

「へー、でもメイク経験ないのになんで基礎化粧品は詳しいんです?」

「えーと、大学が化学系で、新卒で入ったのが化粧品成分のメーカーだったからですね。その前にも、基礎化粧品のメーカーの手伝いとかしてて」

「へー、でもメイク経験はない?」

「ないです。……あ、でもあれだ、してもらったことはずっと前に少し」


 俺は、高校の時の女装メイド喫茶のことを思い出した。だいぶ塗られたな、あの時は。


「高校の時、文化祭で女装メイドと男装執事喫茶したんですけど。そのときに女装メイド立候補したら、クラスのギャルたちがノリノリになって、すごくメイクされちゃって」

「えー! どんなふうに仕上がりました?」

「いや、自分でもびっくりするくらい、いい感じに仕上がっちゃいましたね」

「へー、見てみたかったなあ」


 俺は、思いついた。埼玉9号さんに、俺の女装メイド写真見せようと思えば見せられるんだよな、写真まだスマホにあるし。

 狭山さんの妹さんなら身元は確かだし、高校の時の写真くらいなら送ってもいいかも。ウケるかもだし。


「流石にサブチャンネルには貼れないんですが、当時の写真ありますんで、フレンド申請してくださったら送りましょうか?」

「え、本当ですか!? すぐ申請します!」


 マジですぐフレンド申請が来た。埼玉9号さんへのメッセージに女装メイド写真を貼り、「こんなです」と送ったら、ボイスチャンネルから「きゃー!!」と黄色い悲鳴が聞こえた。


「すごい! すごくいい! えー、和泉さん、メイク映えするんじゃありません!?」

「そ、そうなんですかね……いや、今はただのアラサー男ですけど……」


 予想以上にウケたな……。


「今メイクしても映えますかねえ、もし本当に仕事でやるなら、ビフォーアフターが映えたほうがいいので」

「和泉さんの顔、正面と横顔送ってくれたら判断できますよ!」


 うーん、まあ、狭山さんの妹さんなら、顔バレしてもいいか。


「じゃあ、撮って送るのでちょっと待ってください」


 俺は、すこし表情を引き締めて自撮りを二枚撮り、また埼玉9号さんに送った。


「今でも映えますかね?」

「映えますよこれは! 最高ですよ!」


 そ、そうなの? 容姿を褒められたことないから、よくわかんないな……。

 その後、狭山さんもボイスチャンネルに来てくれ、同居人がいなくて寂しいと話したら、兄妹で大いに慰めてくれた。あと、埼玉9号さんは「機会があったらぜひ和泉さんにメイクしたいです!」と鼻息が荒かった。

 俺は「仕事でやるって本決まりになったら、お願いしたいです」と社交辞令でなく言った。

 時間持て余してるし、教えてもらった動画、見るかー!

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