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お前のカフェイン控えたい

 昼食が終わって、食器が洗える程度には調子もよかった。今日は気合入れれば午後もちゃんと仕事できそうだと思いながらインスタントコーヒーを淹れていたら、いつもは食後お菓子をつまんだりゴロゴロしたりしている怨霊(黒い一反木綿のすがた)(命名:千歳)が台所についてきていた。


『おい、たまにはワシにもコーヒーの粉よこせ』

「ん? いいけど、どうしたのさ、いきなり」

『甘いものと一緒に飲んでみたい』


 千歳は、片手に千歳用のコップと、片手に一口タイプのチョコミントの箱を持っていた。合うのか? コーヒーに。


「飲むのは全然いいけど、安物だし、たいしておいしくないよ?」


 コーヒーとチョコとの組み合わせはよくあるけど、コーヒーとチョコミントは果たしてどうなのか。まあ、合わなくても本人の選択だし、人の好みはさまざまだから気に入るのかもしれないけど。

 俺の言葉を聞いて、千歳は不思議そうな顔をした。


『お前、うまくないのにいつも飲んでるのか?』

「まあ、眠気覚ましというか、気合い入れる用」

『飲んで気合い入れても、寝込むときは寝込んでないか?』

「……ダメな時は何してもダメなのは否定できない」


 カフェインは全能ではない、悲しいことに。全能だったら俺は幾日もの会社泊を越えて、まだブラック企業に勤めていたと思う。


『とりあえず、飲むぞ?』

「うん、好きに作って飲みなよ、安いときに買った詰め替えまだあるし」

『熱湯じゃないと溶けないか?』

「水でも溶けるタイプだよ」

『令和は便利だな!』


 千歳はインスタントコーヒーの瓶を手に取り、ラベルを見た。


『ティースプーン山盛り一杯でコーヒーカップ一杯……うん?』


 千歳は首を傾げ、こちらとコーヒー瓶を何度も見比べた。


『お前……ものすごく濃いの作ってないか?』


 俺はギクリとした。いつも後ろめたく思いながらも続けていたことがバレたから。


「それは、その」

『絶対めちゃくちゃ濃いだろ! 見たぞ、粉どさどさ入れてたじゃないか』

「そ、そんなでもないって」

『胃に悪いだろ! ただでさえ腹具合よくないのに、胃まで悪くしてどうするんだ』

「う……」


 空腹時ではないので胃は大丈夫なのだが、実は、カフェインは過敏性腸症候群によくない。この間、千歳に聞かれた時わざと言わなかったので、本当はかなり後ろめたい。相手はかなり俺の体を考えて日々の食事を作ってくれている人なのだ。

 俺が困っているのを見て、千歳は何かに感づいたようだった。


『……ひょっとして、コーヒーって過敏性なんとかにもよくないのか?』


 俺はとっさに嘘をつけなかったし、多分目も泳いだ。


「いや、その、カフェインは人間の生活にもはや必須な物質であって」

『悪いんだな?』


 千歳は俺にぐいぐい迫ってきた。


「た、多少なら平気だろ」

『多少じゃないだろ、そんな濃いの! 飲むな! 体に悪い!』


 千歳は黒い手を伸ばして、俺のマグカップを奪おうとした。めちゃくちゃ力が強い。

  

「待った待った、ちょっと待った!」


 千歳は片手でつかんでるだけなのに、俺の両腕で対抗しきれるかどうかだ。千歳が、俺をかつげると言ってる時点で腕力あるのはわかってたけど、こんなに!?


「いや、本当勘弁して、取り上げないで! せめて朝の一杯と午後一の一杯は! ないと何もできない!」

『薄いのにしろせめて!』

「通常の濃さで勘弁してください! 朝と午後に一杯だけにするから今後は!」


 マグカップに両手でぶら下がりかける形になりつつ、俺はごねた。


『とにかく、これは濃すぎるからなしだ!』

「薄く作り直すから! 飲むなとは言わないでくれ!」


 かと言って、捨てるのももったいない。結局、作ったコーヒーを半分千歳のコップに分けて、おのおの薄めて飲むことにした。安物のインスタントコーヒーだが、千歳は特に問題なく気に入ったようだった。


『やっぱり、コーヒーは甘い物に合うな! これからちょくちょく粉よこせ』

「うん、まあ、気に入ったなら飲みな」


 チョコミントにコーヒーって合うのか? まあ千歳の好みではあるけど。


『また濃いの作ったら、半分取っていくぞ!』

「つ、作らないように努力します……」

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