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子々孫々まで祟りたい 〜転んで祠を壊しちゃったら怨霊が子々孫々まで祟りに来たけど「俺で末代」と言ったら怨霊が困り始めて子孫を残させようと奮闘しだした件について〜  作者: zingibercolor・種・がくじゅつてきあかげ
セカンドシーズン

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お前をもっと支えたい

 俺はパソコンの前でうなっていた。このところ、あまりにも不可解なことが続くのだ。


「おかしい……まともなのばっかだ……やり取りがスムーズ……支払いもいい……納期も無茶じゃない……どうなってるんだ……俺なんかだまされてるんじゃないか……」

『どうしたんだ』


 家事が一段落して、お菓子をつまんでいた怨霊(黒い一反木綿のすがた)(命名:千歳)が訝しげに俺の顔とパソコンを覗き込んできた。俺は絶望的な気持ちで言った。


「ごめん千歳、俺そのうち悪いこと起こるかもしれない……」

『おい、どうしたんだ? 説明しろ』


 千歳が俺の方をつかんで揺さぶった。


「うう、あのさ、こないだ俺、仕事の値段上げたじゃん」

『したな、さんざん迷って』

「あれ以降、仕事が向こうから来るんだよ、スキルシェアサイトの募集案件に応募しなくても大丈夫なくらい」

『それの何が悪いんだ』

「来る仕事来る仕事、まともなのばっかで怖いんだよ!」

『は?』

「クライアントからして、まともな人ばっかりなんだ! 返信が早くて的確だし、資料もちゃんとしたのを渡してくれるし、提示してくる納期も余裕あるし! 「資料の内容からして指定文字数でまとめるのは無理があります」って返事したら「増えた文字数分払うのでお願いします」って返ってくるし! 今日なんて納期が短い案件で「無理を言ってるのはわかってるので多少ですが割増で支払います」なんて言ってきたんだ!」

『いや、全然悪いことに聞こえないんだが……』


 俺は千歳を両手でつかんだ。


「今までと違いすぎて怖いんだよ! 前なんて「指定のキーワードでググって、トップ三つのサイトを適当にコピペしてまとめてください」とかあったんだ! 断ったけど! 打ち合わせて記事数とか文字数増やさざるを得なくても、その分払ってもらえないとかザラだったし! 連絡を三日放置とか一週間放置も珍しくなかったのに!」

『ググるってなんだ? コピペってなんだ?』

「そこから!?」

『いや、その、落ち着け。なんというか、値段上げてからの客が、これまでと違いすぎて怖いってことか?』


 千歳に肩を叩かれて、俺はやっと怖さというか、気持ちが少し落ち着いた。


「まあ、うん……。一言で言えばそう。優良クライアントばっかりになって、逆に怖い」


 千歳は首をかしげた。


『お前の仕事はよくわからんが、詳しい奴なら何かわかるだろ。そういう奴に話してみたらどうだ?』

「それは、うん、妥当ではあるな……」


 気持ちが落ち着かなくて騒いだだけなのに、予想外にまともなアドバイスをもらってしまった。一人だと、騒いでも悩んでるだけだっただろう。話し相手がいると、退屈しないどころかアドバイスももらえるんだなあ、と感慨に浸っていると、さらにアドバイスされた。


『あの、お前がちょくちょくパソコンで話してるおっさんとか、詳しいんじゃないのか?』

「おっさん言うな、萌木さんね。うん、そうだな、萌木さんはキャリアあるし、萌木さんの所は俺の最優良クライアントだし、何か見識あるかも」


 ちょうど、午後に萌木さんとリモート会議する予定があった。俺はあらかじめ事情を文章にまとめて、「お時間があれば、ご意見をお聞かせ願えませんか?」と萌木さんにメールしておいた。


〈一言で言うと、これまでの値段設定が悪かったね〉


 萌木さんは、開口一番そう言った。


「え、まずかったですか? 割とお値打ち価格だと思ってたんですが」


〈お値打ちすぎたんだよ。安かろう悪かろうの、悪かろうしか書けないライターだと思われる値段だったんだと思う。当然、まともな人は依頼しにくい〉

「え、あのスキルシェアサイトはクライアントの評価つきますし、私はかなり高評価もらってると思ってたんですけど……」


〈質を期待してないクライアントだと、文字数と納期クリアしてれば、それだけでOKだからね〉

「それは……確かにそうですね……そういうクライアントはものすごくいますね……」

 これまでの経験を思い返して、俺はうなった。

〈和泉さん、自己評価低すぎるんだよ。やったことに見合った評価も金もなしに働き続けるとか、ひとりブラック企業じゃない〉

「…………」


 俺は、なんとも言えない気持ちになった。なかなか自分の能力に自信が持てないのだが、仕事に見合う評価も報酬もないのがブラック企業というのは、正にその通りだからだ。それはもう、身を持って知っている。


「……もうちょっと、身の振り方考えます。条件次第では、もう少し値段上げたりとか」

〈うん、そうしなよ。まあ、体力的に安定した量の仕事受けるのが難しいのは知ってるし、それだと単価上げづらいのもわかるけど、能力的にはもっと単価上げていいからね、本当に〉

「そんなこと言ってくれるの、萌木さんしかいませんよ」

〈今月のうちの仕事、10記事受けてくれるなら、今すぐにでも、うちでの単価上げられるんだよ?〉


 こんな事を言ってくれるのも、萌木さんくらいしかいない。流石、俺の最優良クライアント。ただ、今月は多分無理だ。


「すみません、クライアント層変わってから割と途切れずに案件が来てて……先約順が原則ですし、急ぐ納期のもあるので、今月は、いつもどおり五記事でお願いしたいです。来月なら何とかなるかもしれませんが」

 〈お、ついにいける? 来月ね? これは先約だからね?〉

「な、なんとか頑張りま……」


 返事をした時、台所から大きな音がした。千歳が、食器かなにか落としたらしい。


〈ど、どした? なんか割れた?〉

「す、すみません音拾っちゃって……千歳、どうした、大丈夫? 食器割れた?」


 パソコンから離れて千歳に声をかけると、千歳(女子大生のすがた)が、台所からちょっとあせった顔を出した。


『いや、割れてない、金属のボウル落としただけだ、何もこぼしてないし掃除とかもいらない』

「そう? 任せていい?」

『大丈夫だ、話続けてろ』

「わかった、すみません萌木さん、大丈夫です、問題ありません」

 〈あ、うん、何事もないならよかった……今の人、もしかして、この所食事作ってくれてるって人?〉

「あ、声拾っちゃいましたか? そうです、一応」


 萌木さんは、なぜか感慨深そうな顔になって腕を組んだ。


〈そうか……そうか。体悪いのに当たり屋にまで遭って、どうなるかと思ってたけど、そうか、いい人いてよかったね……〉

「あ、いや、別に彼女とかではなくて」


 萌木さんは、なぜか声を張り上げた。


〈いやあ和泉さんは書けるし、体調さえ許せば書くの早いからね! 体悪いのが足引っ張ってるだけで、Webライターとしてはかなり行けるからね! 食べる物がちゃんとしてれば、体もそのうちなんとかなるでしょ!

「ど、どうしたんですか萌木さん」

〈じゃあ来月は頼むね! その分多く払えるから! だから今後もよろしくね!!〉

「は、はい……」


 それから萌木さんは急にもとの声の調子に戻り、普通に今月分の記事の打ち合わせを初めた。俺は、多少困惑しつつも対応した。

 リモート会議が終わって、千歳が台所から戻って話しかけてきた。


『なんか褒められてたな、お前!』

「うん、なんでか知らないけど萌木さん、よくしてくれるんだよね」


 実は、萌木さんが自分のブログにまとめているライティングのノウハウが、俺のWebライターの基礎だ。萌木さんには世話になりっぱなしなので、本当に感謝しないといけない。


『食い物がちゃんとしてれば、体もよくなってもっと稼げるんだろ? そしたら子孫も繋げるな! これからもちゃんとした飯作るからな!』

「か、関係してないわけじゃないけど、そうすぐには……長い目で見てほしいな……」


 困りながら千歳に答えて、ふと気づく。もしかして、萌木さんが大きな声で喋ったの、千歳に聞かせようとしてか? 俺がイヤホンもヘッドホンも使ってないの、画面を見ればすぐわかるし。


『今日は、みぞれ煮と炒り豆腐と野菜にゅうめんだぞ! ちゃんとした飯だろ? 腹具合にも悪くないだろ?』


 大変にちゃんとした食事であり、普通に消化にもよさそうなので、俺は感謝を述べるしかない。


「いつもありがたく思ってます……今後もよろしく」

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