表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

196/849

番外編 朝霧緑の思うこと

怨霊を生み出したのは、朝霧家の所業のせいだったんだろうと思っている。

〈そういう〉素質のある家は、悪霊、怨霊、神仏その他の存在に何百年単位で対応するために、家を残すこと、血を残すことが大事だ。

「孕むことも孕ますことも出来ない」とみなされた存在。江戸時代、文化文政時代の朝霧家でどういう扱いをされたか、想像に難くない。

本人に何の罪咎もないのに、ずっと異形と呼ばれて閉じ込められていた存在。都合の良いときだけ使われて、ある日いきなり用済みだとみなされて、反撃しようとしたら殺された存在。そりゃ、死んだら怨霊にもなる。

私自身、ずっと子供を作れないことで役立たずとみなされ、周囲からプレッシャーを掛けられ続けた人間だ。子宮と卵巣を摘出した時、十年子供が出来なかった理由の一切合切をぶちまけたのは、確実に子供を作れなくなってしまった私が、このままだとどんな扱いを受けるかわからない、というのがある。

子供はそりゃかわいいし大事なものだけど、いなくたって、それなりに人生楽しくやっていけると思う。好きな飲み物、友達、自分を慕ってくれる人、仕事、面白い本、きれいな景色。それらが、さまざまに人生を彩ってくれると思う。

……怨霊は、祠に封印されるまでに、何十人もの人間を殺傷している。けれど、和泉豊を祟り始めてからは一人も殺めていない。人助けと言えることまでしている。

和泉豊は、いい意味で、ごく普通に怨霊に接している。そして、多分、怨霊のことをとても大事に思っている。

狭山くんが、初めてあの二人と会った時、和泉豊がまず最初にしたのが、怨霊をかばうことだったと言っていた。二人を温泉に行かせた時も、彼が怨霊にごく優しく接しているのが、盗聴した会話から感じ取れた。

たった一人優しくしてくれる人がいたら、それで大人しくなってしまう怨霊。誰一人として優しくしてくれなかったから、何十人も殺してしまった怨霊。

誰一人として優しくしなかった朝霧家にも、相当責任がある気がする。

優しくしてくれる人がいて、それで穏やかに暮らせているなら、二百年以上閉じ込められていたのだから、もう、おだやかに幸せに暮らしていてほしい、と思う。

……そう、そういう境遇の怨霊で、素直で無邪気で、かわいい子だった。会った時の印象が間違っていなかったら、今回のことで、怒り狂って暴れることはないと思う。

ただ、悲しませてしまう、とは思う。

……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。

朝霧家に残った記録では、「朝霧の忌み子はご本家様に強い素質の子供が生まれて打ち捨てられ、その子供を襲おうとしてご本家様に殺された」となっている

朝霧の忌み子本人がどう考えて何をしたかったかとはズレにズレている

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ