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君とはちゃんと話したい

すっかり春めいてきたが、こたつはまだまだ気持ちいい。そういうわけで、今日もこたつに入って仕事していたら、怨霊(女子中学生のすがた)(命名:千歳)が買い物から帰ってきた。

『ただいま! なー、三件先にいい匂いの花咲いてるぞ! 散歩の時行こう!』

千歳はエコバックの荷物を冷蔵庫に詰めながら言う。

「いい匂いの花? どんな花?」

『白くて小さくて、それがたくさん集まったのがいっぱい咲いてる』

「沈丁花かな? 今の季節だと」

『へー、ジンチョウゲっていうのか!』

「いや、見ないとわかんないけどね」

母親がアロマ狂信者だったせいで、香りのするものに関して、俺は普通の人よりやや詳しい。まあ、母親のことは置いておいて、沈丁花は万人に好まれるいい香りだと思う。

というか、千歳にいろいろ話さないといけないことがあるんだよなあ。

南さんから、今回の事件の顛末について連絡があった。今回の事件は、関係者のみ、悪霊絡みということを共有して、あとは犯人不明の誘拐拉致事件ということになったらしい。かなり無理がある気がするけど、そもそも物理的に影響を及ぼすレベルの悪霊というのはめったにいるものではなく、南さんを始めとした霊能力のある人達は無難な対応に苦慮しているとかなんとか。

拉致されていた両親のシンパは、捕まってる間ずっと悪霊の恨み苦しみを流し込まれていたらしく、混乱している人が多いそうだ。

そして。

悪霊の核は生霊で、今入院していて、俺に会いたがっているとのこと。

彼女の名前は鹿沼もみじ。十三歳の女の子。入院しているのは、母親に毎日新型コロナ予防として与えられていたイベルメクチンで、肝炎を起こしていたからだそうだ。

反ワクチン派では救世主のように崇められているイベルメクチンだが、疥癬によく効く薬ではあるものの、新型コロナへの効果は大規模な試験で否定されている。そもそも、十日から二週間に一回飲む薬だから、それを毎日飲めば、そりゃオーバードーズで体に支障きたすだろう。

母親の虐待とも取れるということで、児相まで出てきているそうだ。

昨日、千歳に悪霊と話したことを話したら、『あいつ嫌いだ! お前をひどい目に遭わせていいのはワシだけなんだ!』とものすごく怒っていたので、悪霊の核の子と会って話しにいく、とは言いにくい……。

でもずっと言わないと、もっと言いにくくなる。観念して、お昼ご飯の時に事件の顛末と鹿沼もみじの希望を千歳に話した。

事件の顛末についてはふんふんと聞いていた千歳(幼児のすがた)だったが、鹿沼もみじの話が出ると眉を吊り上げた。

『あんなのに会いに行くのか!? あんなにひどい目に遭ったのに!!』

「いや、でも……」

俺は鹿沼もみじの事情を話した。母親がヴィーガンのアロマ狂信者の陰謀論者になったことで、入院に至るほど体調に支障をきたした子供であること。その母親をなんとかしたくて事件を起こしたのだから、情状酌量の余地は多分にあること。

「俺はさ、両親の被害者には、刺されたってしょうがないと思ってるし」

『刺されるなよバカ!』

千歳はものすごく怒った。

「いや、自分から刺されに行ったりしないけど。あの子とは、普通に話すって約束したんだ、だから、ちゃんと話す機会がほしい」

『断ればいいだろ』

「…………。俺、あんまりあの子が他人に思えなくて」

鹿沼もみじの立場が他人事に思えない。俺の母親もおかしくて、でも子供の頃の俺は、彼女に目を覚ましてほしかった。

そういうことを、まとまらないながらぼそぼそと話すと、千歳は相当不満顔ながら、鹿沼もみじに会うことを了解してくれた。

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