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同じところで眠りたい

 微妙に熱はひかないが、とりあえず起きられる状態にはなった。三日間何もできなかったので、今日はできる限り仕事をする日とする。


『なあ、もう起きてて大丈夫なのか?』


 パソコンを立ち上げて、下調べのタブを開いておいたブラウザや使っているテキストエディタをいじっていると、怨霊(黒い一反木綿のすがた)(命名:千歳)が心配そうにのぞき込んできた。


「ダメだったらまた寝るけど。だから布団は置いておいて」

『一週間仕事減らしたんだろ? 朝起きてすぐやらなくても』

「少なくしただけで、ないわけじゃないから」

『でも……』

「いいじゃん、千歳は俺にたくさん稼いで子孫残してほしいんだろ?」


 俺に不労所得なんてものは一切ない。食べるためには働かないといけない身分だ。


『大筋で言えばそうだが、無理して今死んだら全部おしまいだ』

「流石に死なないから。それにダメそうだったらまた寝るから」

『じゃあ早く済ませて早く寝ろ。朝飯作ってくる』

「よろしく」


 千歳はポンと煙を出して女子大生の格好になり、台所に行った。俺は下調べ内容を踏まえて記事の構成案を書き出す作業にしばし没頭した。起き抜けで集中できるということは、今日は割と行けるかもしれない。

 途中で朝食を食べ、食器洗いは千歳に頼んでまた作業に戻った。下調べが済んでいたから記事の構成案を作る材料は揃っていたし、スムーズにすすんだのだが、頼まれている記事全部の構成案を作り終えて受注先に送ったら、やっぱり疲れ果ててしまった。半日しか動いていないが、自律神経イカれっぱなしの俺がまだ熱ある中でやったにしては上出来だろう。


「ごめん、一段落ついたからちょっと寝る。お昼は食べられると思うから、起こしてくれると助かる」

『寝ろ寝ろ。昼飯は遅くしてもかまわないぞ』

「じゃあ起きたら食べる……うなされてたら起こして」

『わかった』


 黒い一反木綿の格好の千歳が枕元に寄ってくる。そういえば、この三日間、俺がうなされていたら、こいつはちゃんと起こしてくれていたわけだが、ずっと俺を見張っていたんだろうか。狭い部屋だから、昼は家事をしつつ俺の様子を気にかけられるとして、夜も見張っていたんだろうか?


「……千歳は、睡眠って必要ないの?」

『ん? 別にいらんな、ヒマな時は寝ることもあるが』

「そう……」


 それから先は覚えていない。直線的に眠りに入ってしまった。別に体を動かしたわけではないが、頭脳労働だけでもやらないよりは疲れるし、やったあと眠くなる。悪夢は、久々に見なかった。


 ……寝返りをうとうとしたら、何かに体が触れて目を覚ました。あたりを見回すまでもなかった。俺の枕の横で、敷布団の端っこを枕にして、毛羽立った黒い一反木綿(厚みは多少ある)が丸くなって寝息を立てていた。なんだか黒猫が丸まって寝ているのと似ていた。

 悪夢を見なかったということは、多分俺はうなされていなかったんだろう。千歳はずっと俺の様子を見ていたが、特に何もないのでヒマで寝てしまったというところだろうか。

 この三日、うなされていたら千歳がちゃんと起こしてくれたということは、三日間、千歳はずっと俺の様子を気にかけていたということだと思う。眠る必要はないとしても、気が張る仕事だったと思う。気が済むまで寝かせておいてやりたいと思った。

 少し前に千歳が出して干しておいてくれた夏用のタオルケットが近くにあったので、適当に広げて千歳にかけた。自分の横で眠る存在は見慣れないし、静かに上下動するタオルケットのかたまりを見ながら自分のもの以外の息づかいを聞くというのも新鮮な体験だったが、なんだか心安らぐ気がした。

 そのまま寝直したら夜まで寝てしまった。千歳も夜までがっつり寝ていたらしく、昼に起きたなら飯を食わせるから起こせと言いながら昼食と夕食の二食分を出してきた。食べ切れそうになかったので、千歳の皿に多めにおかずを分けて食べてもらった。

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