表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

長束と渡辺次郎

作者: 孤独

オオオォォォッ


ときの声。

兵士達は叫ぶことで士気を高め、敵兵に対して果敢に戦う。

兵士の鍛錬、兵士の数、兵士の武具。兵士達の練度。

戦は一人で動くものではなく、戦は集団で勝敗が決するわけでもない。


「う、う~~む……」


ここに戦下手いくさへたな武将がいた。名を長束といい、文化人としての顔を持ちつつ商人でもあったという者だ。


「怖っ!!死体、怖っ!」


とある支城しじょうを一つ買い叩き、武将となったばかり。彼が考えている商売には、どうしても城を抱えなければならない理由があった。だが、その城を守るための武力・策。共にない。


◇       ◇


「長束は武具の調達、兵糧の確保に関しては優秀だ。しかし、」


主君が長束に対する評価は、文官ぶんかん向き。領地を繁栄させたり、法の整備を強いたり、領民を統率したりする政治的な手腕に関しては文句のつけようがない。だが、武芸に関しては下手クソであり、戦の指揮となるともはやいない方がいい男。


「血や死体を見て、青褪める男よ」

「長束に城を売ったのは良くないのでは?あの支城は流通の拠点として重要なところ」

「分かっておる。だからこそ、長束も蓄えを吐き出してまで城主になった。あやつが護れれば、より大きな商売となるであろう」


周辺の敵国も戦下手な長束が任された城だと知り、弱点とみて、一気に攻勢に出ている。もちろん、それに護れるだけの援軍を送っている。

その事に不満を持つ、家臣はいて当然。しかし、


「ここは長束に任せよ。何かの策……いや、商売をするやもしれん」

「なんと」

「具体的には分からんが」


◇          ◇


自分の買った支城が敵に攻められ続ける。それも強引な力攻め。


「ふふふ、城の包囲は無意味ぞ!私は兵糧の蓄え・武具の蓄えに自信がある!」

「いや、早い者勝ちだからですぞ!!」


長束は自ら戦わず、この激しい防衛戦を観戦していた。戦のことはサッパリ分からず、怖いモノだと思っている。正直、自分は戦じゃ役に立たんと自覚している。


「ならば、とびきり戦の強い奴を雇うまでよ!!」

「だからって自分の城に攻め込ませる人がどこにいるんですか!?危ないですよ!」

「心配ない!主から援軍が来るようにしている!」


自分には戦わせるための資金・調達ができる。ならば逆に、戦いたくても戦えない武将・浪人もいるだろう。腕っぷしの強い者、指揮が上手い者。


「ぎゃあああああ」


銃を恐れず、騎馬と共に味方の兵を蹴散らし。城内に侵入する男。


「我が名は渡辺次郎!長束殿が御守りするこの城!奪いに来た!」


戦下手といえど、兵数が多く、城の防衛戦だ。それを突破し、一番乗りしてきた屈強な武将。


「わ、渡辺次郎!?あれは武勇に優れた逸材ですぞ!……って、長束様!?」


部下の言葉、知識を聞いた長束は飛び出していた。


「あのような男だ!私が欲しかった本当の者!」


すぐに隠していた金銀を用意し、この状況下で交渉を始める。渡辺の方は和睦なのかと思っていたら、


「渡辺次郎殿!!今すぐ、この私に仕えんか!?」

「はぁ?」

「私は噂通りの武芸も戦も下手でな!お主のような男を捜しておった!!思う存分に暴れたいと思わんか!?兵もやる、武具も与える、兵糧もある、知行も与える!行動力ある荒武者ならば、その強みを私の下で活かさないか!?」


長束は、なんとキラキラした瞳。しかし、渡辺次郎は動じない。


「この城を奪い取る。俺にも主がいる」

「いやいやいや!!渡辺次郎殿!!お主は、この支城だけでは収まらん!!価値も分かっておろう!ここは主家の流通を支える場所!分かっている上で、お主がこの支城だけで満足できぬはずだ!!」


城は獲れる。だが、その城以上の価値があると、長束は訴えていた。


「私と一緒なら、ここにある城よりも、ここにある金銀よりも、大きなモノが手に入る!渡辺次郎殿!私の代わりに戦をしてくれ!君の代わりに領地を守ろう!!」

「………………」


◇        ◇



「ははははは、いやぁ。渡辺次郎殿。懐かしいですな」


城を攻められているという中で、初めて出会った。その時の答えは、お断りであった。

しかし、そこから4年の月日が流れ、渡辺次郎が仕えていた家は長束のいる主家に攻め落とされた。その中で渡辺次郎の武勇は轟いており、


「私の下に来て頂けるとは光栄です」

「……ふふっ、もしも私がここで出世するなら、あなたのような戦下手な者の下にいる方が良いと思っただけだ」

「ほう。”あの時”よりも、大きくなって返ってくるような気がする」


捕虜になった彼をすぐに口説きに向かった長束。あの時はまったく逆であり、長束が渡辺次郎の捕虜となり、金銀を支払う事で解放してくれた。今度は


「私にもっと大きい価値があると、早くに教えてくれたのは貴殿。共に出世致しましょう」

「うむ!城1つじゃ足りませんな!」


戦下手な長束に、戦上手の渡辺次郎が配下として加入。

長束は築城の技術をも身に付け、渡辺次郎もまたその城での活躍を見せた。40を過ぎた頃に、とある大戦にて渡辺次郎は獅子奮迅の活躍をし、そのサポートをした長束もこれまた見事なモノだった。

そして、晩年には5万石の知行をもらい、戦乱が終わった世で2人は過ごすのであった。




ファンタジー物とかだと、強い奴が管理職もやってたりしますが。現実だと、管理が向いてなかったり、本人の負担が大きかったりで、あまり良いと思えないんですよね。

もちろん、ないわけではないですが。頼りになると、代わりがいないは話が別ってだけです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ