3話 開かずの密室に潜る その3
【夜道には気をつけたほうがいいかも】
階段を降りていくと、仄暗い書庫へと行き着く。
縦並びにいくつもの本棚が連なるように部屋を埋め尽くしていました。
「すごい量じゃねえですかこれ、やはりスーちゃんのお母さんってただ者じゃないんじゃねえですか? あのグリモア様以上の腕があるんじゃ」
「それは大げさですよ、母はそんなに大したことは。……昔すごい師匠の元で修行していたと聞いたことがありますけど」
魔法で辺りを照らしながら歩く。
私もこの部屋に来るのは初めてなんですが、家にこれほどまでに続く図書館のような大部屋があったとは正直驚きです。
グリモア協会が管理している図書館が、街の一角に建っているのですけどそれに負けないぐらい度合いでした。
私が軽く、近くの本を見ると。
「『悪用御法度! 最強魔法特集初級編』……なんですかこれ、こっちは錬金術の本。グリモア様の本までたくさんありますね」
アンコさんと暗い部屋を歩いていると、いろんな魔法に関する本が出てきました。
中には我が国の創設者であるグリモア様の本まで。ここにある本の数々には私の欲しがっている情報源がたくさんありました。
「スーちゃん、あそこに妙な……開けた場所がありますよ? なんでしょうかね」
「大きいテーブル……じっくり本を読む場所でしょうが……フラスコがたくさんありますけど」
母が読書するためのスペース。……みたいですが周りにはよくわからない魔導具を中心に大・中・小のフラスコが整列されているように置かれていました。
中には人間サイズの物まで、種類はさまざまです。
中身は魔法の液体……これはまだ私にはよくわからない分野です。どんな用途があるか不明……母には悪いですしうかつに触るのはやめておきましょうか。
「へへ。ここに来たらズバリ……リーシエさんが持ち出したすっごい本を探して最強の魔法を手に入れるんです! そうすれば……ふふ」
「アンコさん、顔が笑いすぎです」
彼女がなにか計りをしていましたが、あけすけと感じた私は遠回しに少しからかってみました。
持ち直した彼女は私と一緒にその部屋にある本を探しだしますが……一向に見つかりません。
「そっちはどうですか? っぽい物ありましたかね」
「……いえ特に、中に合成レシピや研究ノートが挟まれている程度でしたが」
母のノートがたくさん出てきました。
ですがどれも、錬金術だったり日記まで……悪趣味な私を溺愛するような内容で少し気が引きそうにもなりました。
「……えぇと他には……」
「スーちゃん、あぶない!」
ドスン!
不意に一冊の分厚い本が棚の上から落ちてきました。アンコさんが私に飛び込んできたのでセーフでしたが…………これはいったい。
「だ、大丈夫ですか?」
「えぇなんとか、だいじょうぶですよ。分厚い本みたいですが……これはいったいなんなんですかね」
「……これは。一部古代グリモア文字で書かれていますね。内容はわからないのですが、教科書でみたことあります」
「古代グリモア文字ってあの? ……グリモア様しか読めない言葉じゃねえですか」
「……怖いですがちょっと開いてみましょうかね」
本をパカッと開いて読もうとしました。
内容はどんなものかと。
が。
「⁉ なんですかこの光は……私たちを……う、うわぁ!」
「す、スーちゃん眩し!」
急に本から眩しい光が発生しました。
光は私たちを包み込むように視界を遮り……やがて目の前が見えなくなりました。
☾ ☾ ☾
「こ、ここは? ……森の中のようですけど」
気がつくと、見知らぬ森の中にいました。
グリモア周辺の森……とはいかず、辺りを見渡しても記憶にない場所ばかりです。
空に浮かぶ……雲の模様が独特です、それから。
「いや、そんなことを考えていては……アンコさん、アンコさんは?」
ふと彼女のことを思い出し、足下を見て四方をくまなく回しながら探しました。
ですが、彼女の姿は見当たらず。
一心になり、森中を駆け回ります。……彼女の格好は目立つのですぐわかるのですが、人影の1つさえ見つからない。
「……! 人、ぶ、ぶつかるッ‼」
ドスン!
急いでいた私は見知らぬ人とぶつかります。
日差しで顔がよく見えませんでしたが……明らかに私より年上の…………日が通り過ぎ素顔を視認できるようになると大人の魔法使いが私を見下ろしていたのです。
その人が私と視線を合わせるように、しゃがむと言いました。
「あなたは? 魔法使いみたいだけど……どこから来たのかな?」
「……す、す、すみません! ぶつかったりして。……と、と、とととと友達とはぐれちゃって!」
「落ち着きなさい、別に怒ってないわよ。だからちょっと頭を冷やして……ほらここに木が」
彼女は手に持つ杖を一振りすると、横倒しになった丸太を出しました。
……言われるがままそこへと座り、今度はよく彼女にも視線が見えるように私はそっちへ視線を移しました。
「落ち着いた? 浮かない顔してるけどなにかあったの?」
長い青髪が特徴的な綺麗な女性でした。
二十代くらいの青年でした。美々たる美しい外套を着装しています。
グリモアの人……でしょうか? どこか母の面影を彷彿とさせる感じが……気のせいですかね。
「友達とはぐれて……よ、よかったら私と一緒に」
「えぇもちろんよ。だって良い魔法使いは嘘をつかないからね。叶えてあげるわ、あなたのお願いを」
私は差し伸べられたその手を取ると、歩きながら事の経緯を話すのでした。
ひたすら話を聞いてくれる彼女の微笑する顔を見て私は感じました。
ただ者ではない、強い魔法使いという魔法使い共通の直感をしみじみと感じて。
(この人はいったい何者なんだろう……)