1話 開かずの密室に潜る その1
【隠しごとは度をわきまえておきましょう】
ここは魔法大都市グリモア。
魔法の経済や技術が人一倍進歩した大きな街です。
「それではテストを返しますね。出席順に呼びますから、呼ばれた方は前に出てきてください」
「はーい」
私はグリモアの学校にて現在勉学に勤しんでいます。
今日はちょうど、この間あった魔法の筆記試験におけるテスト返しでした。周りを一瞥すると、怖ず怖ずと音を上げる学生もちらほら。
ですが私はそんな緊張感に縛られることが全く感じません。なぜなら私はいつもこの学校で成績は1位にくるほどの実力です。
ほんわかとした優しい先生をよそに、窓越しに映るグリモアの景色を眺めていました。
魔法使いが空中を、箒や杖に乗りながら飛び回っています。あれはとても爽快でしょうね。どこまでも遠くへ飛んで行けそうな。
私がそのよう景色に気を取られていると。
「シェスタードさん? シェスタードさん? 聞こえてますか」
パンパン。
手を叩く音。
私はその音に反応し先生の方を振り返りました。
あぁそうだ、必ず全員答えないといけないんでしたね、これは失態です。
「……は、はい! すみません」
「声が聞こえなかったので心配しましたよ。そんなに空を飛ぶ魔法使いに憧れているんですか?」
「あ……いやその」
とことん詮索してきますね、この先生は。
髪の長い若々しく綺麗な先生なのですが、あまり人のことを気にしないでもらえると助かるんですが。
「先生、ステシアさん困ってるし早くテスト返してくださいよ」
「そうよ、今回のテスト私ひっじょうに頑張ったんだから!」
ざわざわと、生徒達の嘆く声が聞こえてきます。
すると先生は杖を使って生徒を黙らせ、棚から魔法を使って紙……テストの用紙を重ねるように寄せ集めます。
……ひとまず助かりましたね。
ほっと一息ついて席に着く私。
気を抜くといつも先生は私をこうして聞いてきますから非常に厄介です。
根はいい先生なのですが……まぁうん神経質すぎな気もなくも。
「スーちゃん? スーちゃん?」
「? ……アンコさんどうしたんですか今先生がテスト用紙を配る準備をしているというのに」
「そんなこと気にしねえでください。今回の点数のほどは…………どうですか?」
隣の席に座る彼女――アンコさんが小声で聞いてきました。
紫色の長髪が特徴的な彼女は、私より背丈が若干高くあまつさえ胸も大きい。解せぬ。
なんだか私を入学してからライバル視するようになっているんですけど……ときどき私に対して照れてくる側面もありますね。
素直に友達になってくるよう言えばいいのに。正直ではないんですよ彼女。
そんな少し照れ屋で私をライバル視する彼女に私は。
「……あぁ心配することありませんよ。だって今回も」
「なんですと? まさかまぁた100点と、そう言い切りたいんですか?」
こくり。
「いやいやいや、今回は絶対100点逃すはずです! えぇ本当ですとも」
「……では私は“絶対にこの口は嘘をつかない”そう宣言しておきます」
「臨むところじゃねえですか。では今回も勝負しましょうスーちゃん!」
テストごときでなぜ勝負したがるんでしょうか彼女は。
因みに断言しておきますけど、確実に100点です今回も。
いままで100点以外とったことないくらいにこの頭は覚えています。
なので心配は要りません。
逆にアンコさんはというと、よく漏らし……未記入部分が最後あったりとドジを踏む少しお茶目な方ですね。
挨次、点呼される度に生徒はテスト用紙をもらう。
中にニヤっと笑う人もいれば、落ち込む人も中にいました。
やはり生徒によってはばらつきがある模様。
そしてアンコさんの番が回ってくると、覇気のある一声を上げながら前に出て行きます。
「はい!」
「どうぞクライアークさん。……そ、その惜しかったですねあと2点あれば100点でしたのに」
「なん……だ……と⁉ 意味が分かんねえじゃねえですか」
彼女は鳩が豆鉄砲食らったかのような顔をしながら、帰ってきました。あ、これは100点逃したかんじですね。
そこまで気にする必要ないと思いますが……まあ更なる高みを目指すのは魔法使いとして微笑ましいことではありますが少し齷齪しすぎなようにも感じられます。
「さらば我が100点……ぐふ」
チーン。
伏したまま彼女は机に顔をつけ少し休みます。
「次シェスタードさん!」
「……あ、はい! 今行きます」
眠りつくアンコさんに目を配りながら私はテスト用紙を取りに向かうのでした。
そうしていく内に時間は一向に過ぎていき気づけば帰りの時間になり。
☾ ☾ ☾
「はぁまた負けましたね」
「……ですからアンコさん、勝負なんて拘らなくても」
「いいや、私は諦めませんよ! そう最強の魔法使いになるまできっと!」
「……アンコさん街歩く人の邪魔ですよ」
「あ……それもそうですね」
帰り道。
返してもらったテストを見ながら比較する私とアンコさん。
……点数は100点でした。
バツ印はどこにも見当たらず、丸い囲みがたくさん紙にあります。
当然の結果と言えば、図に乗っているように聞こえるかもしれません。
でもちゃんと私は他の人より人一倍勉強していますしそれは当然の結果と言えます。
惜しくもアンコさんは98点でしたが、気に病む必要は。これ以上考えるのはひとまず置いといて。私は道歩く人の邪魔になるアンコさんに注意をしました。やっと状況を把握すると彼女は再び歩きだします。
「ときにスーちゃん? 今日から夏休みですがなにか予定はおありで」
「……全くのノープランです。ひたすら魔法の練習です」
今日が1学期最後の学校でした。極めてこの制度がある学校は少ないらしく定期的に長期の休暇があるのはこのグリモア意外他ならないです。
先生からは特に宿題は出されないのですが、よく魔法の練習を怠らないようにといつも言ってくれます。
と申し遅れました。
私の名前はステシア・シェスタード・グリモアといいます。
母は、街でも有名な大物魔法使いで自慢の母親ですよ。
学校に入学してから数か月経ちましたが、やはり楽しいです魔法の勉強は。
それで予定はないと答えましたが、アンコさんが妙です。照れくさいように自分の手元、私の方を交互に見ながら、言いたいことがあるような仕草をとっていました。
急にどうしたんですか。
「……言いたいことあるなら言ってください」
「そ、その……」
次に彼女が言った言葉に私は瞠目して。
「そのスーちゃんのお母さん。凄腕の魔法使いですよね?」
「……えぇそうですよ。なににせよあのグリモア教団の一員。それにSSランクの超大物です。その母になにか?」
「聞いた話なんですが、スーちゃんの家地下ありますよね」
「……はい、洞窟状の巨大な書庫があり、いつも魔法の研究をしているとかなんとかって」
私は一般的な家で育ちましたが、家に妙な場所が1箇所だけあります。リビングの真下には普段家族と言えども立ち寄ることさえ許さない謎の場所があるのですが。
え、なんで知っているのかって? ……昔生半可な気持ちでたまたま入ったことがありましてつい。
その場所を噂程度で広まっているみたいですが、それがどうしたんでしょうか?
「スーちゃんのお母さん、最近妙な本を買ったんだとか。……なんでも強力な魔法が封印されている魔法の本みたいでして」
「……え、それは一体。もうちょっと詳しくお願いできませんか?」
「勿論ですとも……いいですか」
~数日後のある晩~
あれから数日後。
アンコさんによればその書庫に最近妙な本があるんだとか。
強力な魔法が書かれている魔法があるらしく、人によっては興味をひかれたんだとか。
そのことを小耳に挟んだアンコさんは、一緒に例の本を見ようと誘ってきました。
私も本の事が気になりはするんですけど、なんか怖い。
ここで昔の母の言葉を思い出し――。
(スーちゃんいい? 夜中見知らぬ部屋を家で見つけても、そこには決して入らないでね。お母さんの大事な本がたくさん保存されてるから)
そんなこと言われたら逆に入りたくなるのが……人の心理じゃないんですかね。
時間は1日が終わりそうな時間帯。月明かりが街を照らし綺麗な夜景が向こうに広がっています。
と24時丁度になると小さなドアのノックが聞こえてきて、私は玄関に赴きました。
「……スーちゃん来ましたよ」
遅い時間帯にきたのは、アンコさんでした。
「……ど、どうも。それではいきますか」
「合点です」
私とアンコさんは互いに相槌を打つと夜中にしか現れない、家にある妙な開かずの部屋へと向かうのでした。
ですがこれがきっかけで、厄介なことになるだなんてこのときの私は些かも思いませんでしたね。まさかあんな局面になるなんて。