9.<リーダー視点>日雇い冒険者
ඐඐඐ 古巣パーティのリーダー視点の続き ඐඐඐ
俺たちは思わぬ借金を抱えてしまった。
すぐにでもカネを稼がなければならないが、さてどうする? ダンジョンはコンテストで行ってきたばかりだ。なので、できればダンジョン以外の場所で稼ぎたいものだ。しかしギルドに顔を出してみたものの、あまりカネになるようなクエストはなかった。
またダンジョンに行ってくるしかないか。
ギルドの建物から引き返そうとしていたところ……。
「こんにちは。『爆裂ペガサス』の皆さん」
「ん? おう、ご苦労さん」
声をかけてきたのはギルドの受付嬢だった。相変わらず愛想がいい。
ちなみに『爆裂ペガサス』とは俺たちのパーティ名だ。パーティの結成時、弟分と妹分はこの命名に猛反対だった。しかし俺が強引に押し切って決めたのだ。こんなカッコイイ名前なのに、二人はどうして反対したのだろう……。さっぱり理解できない。
「おとといは、ありがとうございました。ホブゴブリンの毛皮、たいへん人気がありましたよ。また狩ってきてくださいな」
ホブゴブリン……。耳にしたくない言葉だ。
実際、ホブゴブリンの毛皮程度で、俺たちの莫大な借金は返せない。仮に需要増により相場が倍に跳ねあがったとしても、返済額にはぜんぜん届かない。だからといって、ホブゴブリンより格上の大物を狩れるかというと……俺たちにはちょっと無理だ。
コンテストのために、借金などすべきではなかった。
「へえ、あなた方はホブゴブリンを倒されたのですね」
見知らぬ若者に声をかけられた。センスの悪いマントを羽織っている。
ギルドにいるということは冒険者なのだろう。
「そうだが、お前は?」
マントの若者が答える前に、弟分がこう言った。
「リーダー。彼については見覚えがあります。きのうのコンテストに出てました。我々と同じ三人組の部で、二位となったパーティの一員です」
なんだと。二位……。気に入らないヤツだ。
そのマントの若者が言う。
「ボクと組みませんか?」
「はあ? コンテストで二位となった仲間はどうした?」
とマントの若者に聞き返した。
「ボクは雇われ冒険者なんです。基本的にはソロで行動してます」
「で、どうして俺たちと組もうと?」
「ホブゴブリンを倒したと聞こえましたので。ボク、大物を狙いたいんです」
大物か。コイツといっしょとなると取り分が減るが、まあいいだろう。
「いいぜ。ただし一回きりの契約だぞ」
「もちろん今回限りのつもりです。ただし組むには条件があります」
「なんだと?」
そっちが誘ってきたんだから、条件を出すのは俺たちの方だろ!
「報酬はボクが半分いただきます」
「馬鹿言え。四人いるんだから四等分だろ」
「四等分というのは、実力が等しい場合ではありませんか」
「だったらお前はどのくらいの実力がある?」
マントの若者はエクボを作って笑う。
「一人でホブゴブリン一体を倒せます。疑いますか? もしダンジョンでホブゴブリンに遭遇した場合、実際にやってみせましょう。もちろん遭遇しても倒せなかったら、取り分はゼロで構いません」
そこまで言うのなら……。
いや、駄目だ。怪しい気もする。
「そんなに強ければ、俺たちなんて不要だろ」
「いいえ、ホブゴブリンが目的ではありませんから。実は借金がありまして……」
「借金?」
俺たちと同じか。
「はい。ですから洞窟虎の牙と毛皮が必要なんです。そいつの強さは一体で、ホブゴブリンの約二体分。しかし得られる金額はホブゴブリンの約十倍。効率よく稼げるのです」
「だったら二位を取った連中を、何故また誘わない?」
「彼らの実力ではどうにもなりません。ボクがいたからこそ二位を取れたのです」
「ほう。言うじゃねえか」
「ええ、事実ですから。ボクは少数で屈強なメンバーのパーティを探しています。洞窟虎は狩りたくとも、警戒心が非常に強いのです。多人数のパーティとなると姿を現しません。せいぜい四人までで組まないとならないのです。なのであなた方でないと」
ふむ、なるほど。
「だが、条件は報酬四等分だ」
「残念ですが、交渉決裂ですね」
立ち去ろうとするマントの若者。
本当に断ってよかったのか? 高額な魔物だぞ……。やはり引き留めた方がいい。カネは欲しいのだ。報酬が半分になったとしても、ホブゴブリンの毛皮およそ五体分になる。借金額に少し近づくではないか。
「待ってくれ。折半で手を打とう」
「では契約成立ですね」
さっそくマントの若者とともにダンジョンに入る。
目的は洞窟虎の捕獲。牙と毛皮を得ること。
入り口付近では、カネにならない弱小な魔物ばかりを倒しながら進んでいった。スライム、ミニゴブリン、バケネズミ……。目的の洞窟虎はなかなか見つからない。
おや?
また洞窟虎以外の魔物が現れた。
ホブゴブリンだ。二体もいる。
「これは準備運動にちょうどいいですね。ボクが右側を倒しますので、あなた方は左側をお願いします」
アイツ、本当に一人でホブゴブリンを倒すつもりらしい。だったら俺たちも負けてはいられない。こっちは三人で必ず仕留めてやる。コンテストでの失敗は、単に皆の調子が悪かったせいに違いない。俺たちには実力がある。今度は必ずホブゴブリンを殺す!
マントの若者はホブゴブリン一体に対し、有利に戦闘を進めている。
それに引き換え、俺たちは……いまにもやられそうだ。
若者の横目が俺たちを睨む。
「ちゃっとあなた方! 本当にホブゴブリンを倒したんですか?」
「あ、当たり前だ……。ギルドの受付嬢も言ってただろ」
「その程度の動きで? なんか信じられませんね」
「嘘じゃない!」
呆れ顔の若者。
「報酬折半の話はナシにしましょう。ボクが九割いただきます……でもまあ、可哀想だから八割でいいでしょう。感謝してくださいね。こっちのホブゴブリンはもう少しで倒せます。それまでそっちのホブゴブリンを、しっかり引きつけていてください」
ぐぬぬぬぬぬぬぬ。屈辱!!!
何が八割だぁーっ、と言いたいところだが、彼と実力差があるのは確かだ。
仮に九割を持っていかれたとしても、文句は言えないだろう。
「やああああああああ! 死ねぇー」
若者は本当に一人でホブゴブリンを倒してしまった。
俺たち三人に加勢する。だがこれでいいのか?
クソっ、クソっ、クソっ、悔しい……。
一体のホブゴブリンに対し、四人で攻撃。
指示を出すのは若者。俺たちは従うだけ。でも仕方のないことだ。
もし彼が立ち去りでもしたら、俺たちは確実に殺されるだろう。
だったら……。
名案が浮かんだ。
いったん剣を腰ベルトに差す。てのひらに炎を生成した。
「ボクはそんな指示は出していませんよ!」
「うるせ、これは俺の必殺技だ。お前はヨソ見してるんじゃねえ」
「まあ、いいでしょう。続けてください」
ふたたび若者がホブゴブリンに集中する。
俺はファイアボールをぶっ放した。
狙いどおりファイアボールが若者に命中。
「わぁー!」
声をあげる若者。この不意打ちに、ダメージを喰らったようだ。
リーダーとして弟分と妹分に指示する。
「俺たちは逃げるぞ!」
この場を走って逃げる。ファイアボールで負傷した若者を囮にしたのだ。
手ぶらで帰りたくないので、死んでいる方のホブゴブリンの斧を拾っておいた。
このままダンジョンを出る。
換金できる収穫物は、ホブゴブリンの斧だけだった。
ほとんど稼げなかった……。
「リーダー。アイツ、たぶんホブゴブリンに食われましたよね」
「だろうな。ざまあ見やがれ」
「俺、なんとなく後味悪いです……」
「まあ、気にすんな」
いま俺たちが気にすべきは、借金返済のことだけだ。
さすがにきょうは、もうダンジョンに戻りたくない。
では別の方法で稼ごう。ならばアレしかないか……。
副業を再開――アクロバットの大道芸だ。
借金返済にはとても足らないが、何もしないよりはマシだろう。
いつもの広場に行った。
爆裂ペガサスは大道芸のパフォーマーとして名高い。
たちまち大勢の見物人が集まってきた。
よーし。シドのヤツはいないが、やってやる!
俺たちは見物人たちの前で、技を完璧に決めることができた。
ほーら、どんなもんだい!!
ところが……。
「あの子がいないわ」
「いつもの男の子がいないのね」
「本当だ。だからつまんなかったのか」
「なんだかイマイチ」
「ああ、ガッカリした」
心ない見物人たちの声。
パフォーマンスは完璧だったはずだ。それなのに見物人たちはしらけていた。かつてのような『投げ銭』の山は築けなかった。
どっと疲れが出てきた。
シドがいなければ、こうも人気が出ないものなのか。まあ、確かに……。ちょっとやそっとの芸では、数多のパフォーマーの中に埋もれてしまう。これまでの大成功が奇跡みたいなものだったのだろう。
こんなときシドがいてくれたら……。
結局、この日はほとんどカネを得られなかった。
翌日もダンジョンに入り、その疲労した体で副業もやった。
しかし十日が過ぎても、まとまったカネは手に入らなかった。
とうとうアパートに借金取りがやってきた。
明日には返すと言って帰ってもらった。
びくびく震える弟分と妹分。
「このまま返せなければ、どうなるのでしょう……」
「こ、殺されることはないわよね、リーダー?」
俺は二人に対して、何も言葉を返せなかった。
まず冒険者の身分が剥奪されるのは間違いなかろう。
そのうえ、ここでは異国にあるような『自己破産』とかの法律はない。
だから借金取りは地獄の果てまでも追いかけてくる。殺されるかもしれない。
仮に殺されなかったとしても、奴隷落ちの可能性はじゅうぶんある。
はあ。胃がキリキリと痛む……。
ඐඐඐ ここまで古巣パーティのリーダー視点 ඐඐඐ
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