8.<リーダー視点>冒険者コンテスト
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「イヒヒヒヒ、たんまりと稼がせてもらったぜ」
「やっぱりリーダーは、ダガーナイフ投げの名人ですね!」
褒めちぎるのは、同じパーティの弟分だ。
「なあに。あのくらいは簡単なことだ」
「いやいや、一発でシドに命中させたときにはビックリしました」
「当てる場所は心臓の方が良かった、なんて少し後悔してるがな」
すると今度は、同じパーティの妹分が笑う。
「きゃはははは。リーダーはホント、悪党なんだから」
「そりゃ、カネを多く得るためには、最善を尽くさないとならねえからな」
「最善って。例の王女様、ずんぶんと取り乱してたわね」
「すべてシナリオどおりにいったってことだ」
シドをパーティから追放したので、副業で大金を得ることは今後ないだろう。別にそれはそれでいい。こんなにたくさんのカネが手に入ったことだし、本業の冒険だけでもなんとか食っていけるのだ。
副業については、以前から納得がいかなかった。シドのおどけた芸が大嫌いだった。あれは実にみっともない芸だった。なのに例の王女を虜にしてしまうなんて。何故あんなものに人気が出るのだ!
もうヤツの芸を見なくても済むのだ、と思うと気分がいい。
またダンジョンに行ってみたくなった。俺たちの本業は冒険なのだ。
「お前ら、準備はいいか? きょうも稼ぎにいくぞ」
「リーダー、またきのうのダンジョンですか」
「そうだが?」
すると弟分がチラシを見せてきた。
「それよりもコレなんてどうです? あしたですけど」
「冒険者コンテスト……? また開催されるのか。景気がいいな」
「あら、本当ね。やりましょうよ、リーダー!」
妹分も乗り気だ。
実は前回のコンテストで、俺たちのパーティは八位入賞。払った参加費が三倍になって戻ってきた。さらに上位入賞すれば大金稼ぎになる。それに名誉だって得られる。
「いいだろう。やるからには今度は三位以内……いや、優勝を目指すぞ」
今回も入賞までは堅いだろう。つまり参加費の払い損はない。しかもシドがいなくなったので、競争率が高めの『四人組』ではなく、ライバルの少ない『三人組』の部として出場が可能だ。これでさらに有利となった。必死にあがけば優勝だって夢ではあるまい。
本気で優勝を狙うことにした。
きょう多額の報酬を得たわけだが、さらに増やしてみせよう。
これで一生遊んで暮らせるぞ。
そのためにはまだ元手が足りない。だから金貸し屋に行った。利息のことなど考える必要はない。入賞さえすれば賞金が手に入るからだ。入賞までならば、俺たちにとって難しいものではない。
借りたカネを持って超高級武具店に行った。王族が装備するような最上級の武器や防具を三人分購入。これでグーンと優勝に近づいたことだろう。仮に優勝できなかったとしても、入賞だけならば確実なので赤字にはなるまい。
そして最後は参加費の支払いだ。コンテスト参加費は一定ではない。一応は上限や下限があるものの、参加者が好きに決めて良いのだ。多く支払うほど、受賞したときのリターンが大きくなる。
どうせならばと、上限額を納めることにした。きょう得た報酬すべてを注ぎ込んだ。もう手持ちのカネはほとんど残っていなかったが、最高級の回復薬を買っておいた。
もはや俺たちには優勝しか見えていなかった。
そして翌日――。
冒険者コンテストが始まった。
弟分と妹分がそれぞれ言う。
「三人組の部って、有名な強豪パーティの参加はなかったようですね」
「きゃっ。これはラクに優勝できそうよ! 大金がいただけるわ」
ホントまったくだ。優勝は現実となりそうだ。
「だが油断はするな。二人とも気を引き締めろ!」
「「はい、リーダー」」
参加した各パーティが指定ダンジョンへと入っていく。
ちなみに前回、俺たちが持ち帰ってきたものは、デーモンスネークの牙と角、ミニサラマンダーの卵、ミスリル原石、氷華の剣だった。今回は優勝を目指しているので、もっといい物が必要だ。大物を狙ってやろう!
さて、そろそろ魔物が出てきてくれてもいい頃だが……。
俺たちは最上級の武具を買いそろえている。
最高級回復薬やその他のアイテムもバッチリだ。
凶暴な魔物が現れたって負ける気がしない。
妹分と弟分が騒ぐ。
「何か物音が聞こえたわ」
「あっ、あそこ!」
どうやら魔物を発見したようだ。
弟分の指先を確認する。
いた! ホブゴブリンだ――。
ホブゴブリンといえば、おととい四人で戦っている。
あのとき勝つには勝ったが、シドはまったく役に立たなかった。
だからヤツが抜けても、戦力ダウンにはまったくならない。
今回も軽く屠ってやるぜ。すぐに片づけてみせる!
棍棒を振り回すホブゴブリン。
馬鹿か。大ぶりしやがって。
ヤツの隙を狙って剣で突く。
ところが棍棒で剣を受け流され、逆にカウンターを喰らってしまった。
何故だ。コイツ、ホブゴブリン……だよな? こんなに強かったか。
俺は腹を打たれ、後方へと転がっていった。きのう最上級の防具を購入しておいて良かった。もしこれまでのような安物だったら、即死だったかもしれない。
即効性のある最高級回復薬を飲んで立ちあがる。
さっきは油断していたが、これから反撃だ。
召喚士の弟分が二体の召喚獣を呼び寄せる。
二刀流剣士の妹分は長刀と短刀を構えた。
さあ、皆でいっせい攻撃だ。
えっ、嘘だろ…………?
俺たちの攻撃は、ホブゴブリンにまるで歯が立たなかった。
おかしい。こんなに強い魔物だなんて。前回はどうして勝てたんだ?
なんとかしないと殺される。このままだと俺たちは全滅だ。
「逃げましょう、リーダー」と弟分。
「勝てっこない。逃げるしかないわ」と妹分。
逃げるだと? ホブゴブリンごときに。
ホブゴブリンが咆哮する。俺は恐怖に身を縮めた。
認めたくはないが、俺の体が戦闘の続行を拒否している……。
なんでだよ、畜生!
俺はアイテム袋から煙幕玉を取りだした。
地面に打ちつける。
「お前ら、ここから逃げるぞ!」
煙幕に身を隠しながら三人で逃げた。
くそっ、屈辱だ。悔しくてならない。
どうして どうして どうして どうして……
ホブゴブリンなど、敵ではないはずなのに。
一体全体なんだっていうんだ。
ヤツの足音や気配が消えた。
ふぅー。ここまで来ればもう大丈夫だろう。
どうにか逃げ切れたようだ。
「リーダー。俺たち、なんでホブゴブリンに勝てなかったんですかね」
「知るか!」
続いて妹分が馬鹿なことを言う。
「もしかして前回、シドがいたから勝てたとか?」
ガハハハハハハハハハハハ
アハハハハハハハハハハハ
弟分と二人で、妹分を笑ってやった。
「そんなワケねえだろ。ヤツに何ができたっていうんだ!」
それでも妹分が言葉を返す。
「なら、ちょっと思いだしてみて。前回あたしたちがホブゴブリンに攻撃をしかけたときのこと。あの巨体にシドのファイアボールがすでに着火してたのよ? 実はあれが効いてたとか……」
「あんな極小の炎、効くわけがあるか!」
「でもでもリーダー。ホブゴブリンのことを除いたとしても、最近の戦闘では必ずと言っていいほど、シドのファイアボール着火から始まってたじゃない。もちろん一撃で倒せるほどの威力はなかったけれど、あとからジワジワくるようなものだったんじゃないかしら」
「くだらない妄想だ。弱小魔導は弱小魔導でしかないんだ!」
「だって……。あたしたちって半年くらい前まで、冒険者パーティとして底辺だったのよ。だけどあの子が入ってきたときくらいから、中堅レベル、さらには上位のレベルになれた。これって事実でしょ?」
「偶然だ。俺たちの実力がUPしたのが、たまたまその頃だっただけだ」
「そうかなあ」
「何度でも言ってやるが、あんな糞みたいなファイアボールで、強敵にダメージを与えられるわけがない。ジワジワくるような炎なんてあり得ない。シドは副業でカネを稼ぐだけのヤツだ」
だだしアイツの大道芸は、外道中の外道だけどな。
「リーダーがそこまで言うのなら、そうなのね」
妹分もやっと納得したようだ。
ホブゴブリン以降も、大物と呼ばれる魔物に遭遇した。
しかし狩ることはできず、ひたすら逃げ回るだけだった。
大物にはまったく歯が立たなかった。とにかく負け続けた。
何故だ 何故だ 何故だ 何故だ
どうして勝てないんだ……。
結局、時間切れ。
とぼとぼとダンジョン出口に戻った。
コンテストの優勝はおろか、入賞さえもできなかった。
非常に困ったことになった。賞金を当てにして借金していた。
その借金で最上級武具を購入した。多額の報酬は参加費に支払っている。
ああ、どうやって返そうか。
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