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7.呪魔導


 クリルのおかげで朝ご飯が食べられる。


 二人で囲むテーブルには、パンとチーズ。

 孤児院を思いだした。仮年齢が八歳のときまではクリルもいた。

 そんな遠い過去が、いま再現されている。


「こうしてシドといっしょ。夢でも見てるみたい」

「うん。ホント懐かしいね、クリル」


 質素な朝ご飯だったけど、とても美味しく感じた。

 食事中、クリルは僕の目のことにはいっさい触れなかった。


 そうだ。昨晩のことをクリルに話しておこう。『開眼により封印は解かれた 呪魔導を唱えよ』という文字か記号のようなものが、頭の中に浮かびあがったのだ。『開眼』というのが、僕の目の色と関係ありそうだけど……。


 僕の話に首をかしげるクリル。


「不思議な話ね。呪魔導って何かしら?」

「僕にもさっぱりだよ」

「シドの魔導、もう一回見せてくれない?」

「ここで? うん、いいけど」


 てのひらにファイアボールを生成してみた。

 魔導としては基本中の基本だ。


 あっ……。


「嘘みたい。いつもより炎が大きくなってる」

「そうね。ダンジョンで見たときよりも大きいわ」

「これが開眼した結果なのかなぁ」

「きっとそうに違いないわ。これが本当のシドの実力よ」

「だとしても、まだまだ足りないや」


 リーダーの出す炎と同等になったけど、彼は魔導師ではなく剣士。僕は魔導師としてやはり未熟だ。それにしてもこの炎……とても禍々しく感じる。


「シド、別の魔導も見せて」

「いいよ。それじゃ水流魔導にするね」


 室内をぐるりと見回した。花瓶が視界に入る。

 よし。この位置から魔導で花瓶に水を飛ばしてみよう。

 うまく花瓶の口に入ってくれよ。


 指先から水を発射。


「わっ!!!」


 流水はウォーターカッターとなり、花瓶を真っ二つ。いままでならば、水流魔導でこんなことにはならなかった。どうして水流魔導がこんな危険なものに?


 二人でいっしょに驚いた。

 花瓶に花が入ってなくて良かった。


「ところで……さっきのファイアボール、まだ消えてないわね」

「あっ、本当だ。まだ燃え続けていたなんて……」

「いいわ。わたしが水流魔導で消すから。それっ!」


 そんな……。


 クリルの水流魔導は炎を消せなかった。水量はじゅうぶんだったはずだ。炎は依然としてメラメラと燃えながら、宙にプカプカと浮かんだままだった。


 彼女が再度トライする。


「ならば氷結魔導で。それっ! 嘘……おかしいわ。消えないなんて」


 彼女の氷結魔導でも炎は消えなかった。ということで僕と交代。

 炎は僕が出したものだから、自分で消さなくちゃ。


 まずは大きなバケツいっぱいに水を注ぐ。

 次は宙に浮かぶ炎を操り、そのバケツに突っ込ませた。


「まあ、なんてことなの?」


 驚愕の面持ちのクリル。

 水の中でも炎は燃えたままだったのだ。

 もうワケがわからない。


「いいから消えてくれ!!!」


 僕が大声で叫ぶと、パッと消えてしまった。

 水でも氷でも消えなかった炎が、僕の命令で瞬時に消えるとは。


 クリルと顔を向き合わせながらポカンとするのだった。


 やはり僕の魔導、いままでとは何かが違う。

 これが開眼なのか。これが呪魔導なのか。


 確かに、ずっと前から僕の魔導はヘンだった――。


 たとえば火系・水系・風系などの魔導は、弱小ながらも使えていた。それなのに回復系や補助系といった魔導は、いっさい使うことができなかった。これはかなり奇妙なことだった。原因もずっと不明だった。


 きのうの一件もヘンだった。普段、僕の魔導はどれも弱小だったはず。ファイアボールにしたって、敵に着火するのがやっとだった。なのに屈強な陸生巨大蟹亀を倒したではないか。とても長い時間をかけてしまったが。


 とにかく僕の魔導がもともと異質なものだったことは間違いない。それがいよいよ呪魔導として開眼したわけか……。この先どうなっていくのだろう。




 食休みのあと、二人で孤児院を訪れてみた。


 クリルが来るのは七年ぶりとなる。孤児院の先生たちは大喜びだった。ちょっと残念なのは、彼女を覚えている子供がいなかったことだ。


 僕については、呪龍と同じ空色の目のことがある。孤児院の皆に、怯えられたらどうしよう。逃げられたらどうしよう……。そんな不安でいっぱいだったが、すべて杞憂だった。逆にとても心配してくれた。



 ちなみにアパートから孤児院までを往復する際、あちこちでパニックを起こしてしまった。空色の目ってそれほど目立つものだったのか……。騒ぎのたびに、クリルが僕を庇ってくれた。彼女にはだいぶ迷惑をかけてしまった。




 家に帰ってくると、玄関前に白髪の老婆が立っていた。

 アパートの大家だった。僕に用事でもあるのだろうか。


「こんにちは、大家さん」


 彼女から挨拶の返事はなかった。

 その代わりに来たのは、とんでもない言葉だった。


「悪いけど、いますぐアパートを出てっておくれ」

「えっ! そんな急に……。どうしてですか?」

「どうしても何も、近所の皆が言ってるのさ。呪い魔を追い出せって」


 呪い魔って……。ああ、呪竜と同じ目だからか?

 僕の目のこと、こんなにも早く知れ渡っていたとは。

 だけど、出てけっていうのはあんまりだ。

 悪いことなんて、何もしてないのに……。


 僕は危険な人物じゃない。そう説明しようと大家に近づく。

 彼女は尻餅をついてしまった。明らかに僕に怯えている。

 地面に尻をつきながら、後ずさりするのだった。


「ひいいいい。来ないでっ。は……離れておくれ」

「そんなに怖がらなくたって。僕は何もしませんから」

「と、とにかく早く立ち退いてもらわないと困るんだよ。わたしが皆から責め立てられるんだからね」


 彼女はビビりながらも必死なようだ。


 こうなっては出ていくしかないのか……。でも出ていったとして、次はどこに住めばいいのやら。誰も僕に部屋を貸してくれないだろう。ならばどうする? 国外に出るしかないのか。きのうパーティをクビになったことだし、いい機会なのかもしれないな。


「とりあえずわかりました。だけど急になんて無理です。せめて明日まで待ってください」


「明日だね? 必ずだよ」


 大家はそう言い残し、アパートの前から去っていった。



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