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4.最高のパフォーマンス


 広間に到着。

 王族や貴族、高僧たちが僕たちのパフォーマンスを待っている。


 王女の声が聞こえた。


「シドーーーー」


 僕と目が合うと、笑顔をくれた。

 ところがここで殺気を感じた。


 この殺気は……。


 ああ、わかった。殺気の発生元を特定。

 先日即位したばかりの新国王からだ。


 新国王はまだ若い。僕の年齢より三つ上の十八歳だ。

 有名な話だが、王女の母と新国王の母は、古くから親友同士だった。

 そのため王女は幼い頃から何度もこの国を訪問していた。


 あくまでも噂に過ぎないが、新国王は彼女に一方的に惚れているらしい。

 もしかして新国王による殺気は、僕への嫉妬のせいなのか?

 王女が僕のパフォーマンスの熱狂的ファンだから……。


 仮にそうだとしたら、僕を憎むのは的外れだ。

 一国の王女が平民の僕なんかを異性として見るものか。

 彼女は『僕個人』ではなく『僕のパフォーマンス』のファンなのだ。

 新国王の誤解には困ってしまう。冷静に考えればわかることなのに。


 新国王の目が据わっている。

 僕の額から一筋の汗が流れ落ちた。


 何故か幼馴染みのクリルも、王子と同じように怖い目を僕に向けた。

 頬をぷうっと膨らませているけど、彼女についてはどうして……?


 王女の笑顔はまだまだ続いている。

 僕を見つめる瞳がキラキラと輝いていた。


 新国王が僕たちのパーティの前に出てくる。


「ようこそ諸君。急な要請に応じてくれたことに感謝したい。すばらしい芸を期待しているぞ」


 感謝なんていう言葉は明らかに嘘だ。

 本当は僕を呼びたくなかったに違いない。


 こっちに近づいてきた。耳元でぼそり。


「平民の分際で、調子に乗るなよ」


 ほら、やっぱりじゃないか。



 高貴な人々の見守る広間で、僕たちのショーが始まった。

 ちなみにクリルは隅で見ているだけだ。



 アクロバットを演じる冒険者は、誰しも格好良さを真剣に追求している。皆、技の美を競い合っている。この国にはそんな文化がある。


 冒険者は死と隣り合わせの職業であるため、身軽でなければならない。たとえ魔導師だろうとも、日頃から体を鍛えている。冒険者ならば、アクロバットくらいは軽くこなせるのだ。


 ただ僕の場合、他者のパフォーマンスとは違っていた。『誰よりも格好良く技をキメたい』という気持ちはなかった。だからアクロバットの際、敢えて三枚目っぽさを見せつけてきた。技を完璧にこなさずに、ワザと失敗しそう見せて、最後にはなんとか成功に終える。それが僕のやり方だった。


 実際、こっちの方が観衆に喜ばれた。しかしアクロバットを行なう冒険者としてかなり異質だった。


 同業者からは『そこまでして人気を得たいのか』『冒険者の面汚し』『恥知らずめ』などという声が大きかった。それでも僕はそのスタイルを貫いた。結果、多くの冒険者からは嫌われたが、国内屈指の人気を誇るパフォーマーとなった。このため僕のいたパーティの副業収入は、国内トップクラスだった。



 よしっ、いまから僕の最高のパフォーマンスを見せてやろう。

 これが最後だ。応援してきてくれた王女のために、頑張らねば!


 最初の玉乗りの芸では、煮えたぎる油の壺を頭に乗せての宙返り。

 着地の際にワザと大袈裟によろけてみせ、周囲をヒヤッとさせる。

 最後にはきちんと大成功。王族・貴族・僧侶たちから大拍手をもらった。

 そして何よりも王女が喜んでいる。


「シドーーーーーー」


 また王女の声だ。手を振っている。


 対照的に不愉快そうな面持ちの新国王。かつてはパーティ仲間の三人も、僕がパフォーマンスする度にそんなふうになっていた。


 しかしきょうは不思議とリーダーたちの機嫌がいい。

 今回で僕が最後となるからか?


 とにかく僕たちのショーは無事に終了した。

 これから退場……と思ったところで、リーダーが手をあげる。

 はて、なんだろう?


 あらためてリーダーが周囲の王族・貴族・僧侶たちに頭をさげる。


「皆様、次の演目で最後の締めくくりとさせていただきます」


 えっ? 僕たちのパフォーマンスは終わりじゃないのか。

 もうすべてやり尽くしたはずだけど……。


 リーダーがパーティの仲間二人に目配せする。彼らは大きな板を垂直に立て、僕の背中に置いた。さらには僕の頭上にリンゴを乗せる。


 僕の知らない新しい演目だ。何をするつもりだろう。


 リーダーは後ろ向きに立ち、布で彼自身の目を隠した。

 懐からダガーナイフを取りだす。大きくジャンプし宙返り。


 まさか! 目隠ししたまま?


 リーダーの投げたダガーナイフが飛んでくる。

 これが彼の新芸だったか。

 もし的を外せば、ダガーナイフは僕の体に……。



 彼の芸は失敗に終わった。



 周囲がどよめいた。

 王女とクリルの悲鳴も混じっていた。


 慌てて駆け寄るクリル。

 王女が大声で叫ぶ。


「誰か回復魔導を!!!」


 僕は大量出血で気絶した。



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