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最終話



 クリルの表情が固まった。


 ルーラ王女は返答を待っている。

 ようやくクリルの唇が動いた。


「いっ、いいえ……」


 と否定してから、真っ赤な顔で言葉を続ける。


「……こ、恋人とかではなく……単なる幼馴染みです」

「まあ、それはそれは。単なる幼馴染みにすぎなかったのですね」


 ルーラ王女は目を細めて笑った。

 クリルも笑みを返す。


「ですが……。シドとはとても親密な関係を、築かせていただいております。先日、久々の再会を果たしました際には、部屋に泊めていただきましたほどです」


 向かい合っての微笑が続く。で、何がそんなに愉快なのだろう。

 両者とも笑っているのに、ちっとも愉しそうでないところが不思議だ。


 てか、その話! 誤解されたらどうする? ただ泊まっただけじゃないか。


「つまり異性であることを(・・・・・・・・)意識されないご関係(・・・・・・・・・)ですのね。羨ましいですわ」


 そうなのか? 羨ましそうな顔には見えないのだが。

 どちらかといえば、赤子をあやすような笑顔に似ている。

 またクリルの笑顔は、どこか引きつっているようにも見えた。

 この二人、ちょっとヘンだ。どうしてしまったのだろう。


 謎のガールズトークが終わると、ルーラ王女は馬車で帰っていった。


 僕もあまり時間がなかった。命の魔水を持ち帰れなかったことを、早くフィアに伝えて謝らなければならない。



 ムーリア王国に帰ってきた。

 フィアに会うため山をのぼる。



 頂上で少女の姿を発見。フィアだ。

 僕は彼女に頭をさげて詫びる。


「ごめん、フィア。命の魔水は手に入らなかった」

「ううん、仕方のないこと。シドのせいではないから」


 そう言ってくれたが、顔に少し落胆が見られた。

 本当にゴメン。僕が役立たずなばかりに。


 ここの芋はどうなっただろうか。

 もうすべて枯れたなんてことがなければいいのだけど。


「あの……いま残っているお芋は?」

「元気なのは一つだけになっちゃった」


 元気なのは一つ。それを僕に差しだす。


「えーと?」

「これはシドの分」


 最後の芋を僕にくれるつもりのようだ。


「いやいや、受け取れないよ」

「シドが食べれば、さらに高い魔導の能力が、引きだされるかもしれない」


 だったら、なおさら受け取れない。


「フィアが食べればいいんじゃないの?」

「わたしはすでに最大まで能力を引きだした。これ以上は無駄」

「だけど最後のお芋を食べるなんて、僕には………」

「シドが食べなければ、このまま枯らしてしまうだけだよ」


 そう言われても。


「元気なお芋が一個だけなのはわかったけど、残りはどんな感じなのかな」

「ほら。全部しなびてる。可哀想に」


 フィアは弱った芋を見せてくれた。

 どれも小さく縮んでいる。


 僕はこれらを目にしてハッとした。


 一つの案が浮かんだ。

 もしかしていけるかもしれない。


 フィアに頼む。


「しなびたのを全部もらえるかな」

「いいけど、シド、元気なお芋は?」

「そっちはまだフィアが持ってて」


 彼女は小さく首肯した。


 しなびた芋をもらった。でも食べるつもりはない。

 それらの芋を持ち、急いで山をおりた。




 数日後――。


 ふたたび山にのぼる。

 少女がいた。


「やあ、フィアっ」


 彼女が歩いてくる。

 僕の正面に立ち、無邪気な笑顔をくれた。


「お芋食べた?」

「ううん、食べなかった」

「もったいない」

「だけどね……」


 僕は背中に担いだ袋を地面におろした。

 その中から芋をとりだしてみせる。

 フィアは目を見開かせた。


「あ、それは?」

「これ返すね」


 彼女に芋を渡す。


「お芋がこんなにいっぱい」

「うん、増えたんだ」


 彼女は芋の一つ一つを確認した。


「ぜんぶ元気。ぎゅって魔導が詰まってる」

「そう? 良かったぁ」


 不思議そうに小首をかしげるフィア。


「これらはどうして?」

「命の魔水の代わりにと思って」

「ん?」

「実はさあ……」


 数日前、僕はフィアとの約束を果たせなかった。

 命の魔水の持ち帰りに失敗したのだ。


 どうしても持ち帰ることのできない命の魔水。

 そこであることを試してみた。もらった芋を使って。


 命の魔水の豊富な峠に、しなびた芋を植えてみた。

 湧きだしている命の魔水を、しなびた芋が短時間で吸ってくれた。


 不思議なことに、わずか一晩で芋がそれぞれ増えていた。

 一つの芋が五つに、あるいは十になっていたのだ。 

 しなびた芋は元気いっぱい、みずみずしいものに。


 二日後には、白い花もたくさん咲いた。

 その場所が無数の花に囲まれた。すさまじい生命力を感じた。


 増えた芋をすべて持ち帰ることはできなかった。

 運ぶには多すぎたからだ。


 峠から持ちだしても、芋から命の魔水が抜け出ることはなかった。

 こうして無事にこの山まで運ぶことができたのだ。


「山が蘇る……」


 フィアがつぶやいた。


「まだたくさんの芋を、北の国の峠に残してきたんだ。また持ってくるよ」

「ううん。もう大丈夫。命の魔水はじゅうぶんな量に達したから」


 じゅうぶんな量って……。

 持ち帰った芋は百個か、あるいはそれにも満たない程しかない。


「本当に? 少なすぎると思うけど」


 するとフィアは芋を一つだけ拾いあげた。

 小さな指先で芋の表皮を傷つける。


 するとどうしたことか、芋の傷口から緑色の水が噴きだした。

 噴きだした水は地面に吸われていった。

 フィアが言う。


「一つの芋で小さな池がいくつも作れる。皮の内側に、命の魔水をたくさん溜め込んでいるから。これだけあったらもう……以前より多いくらい」


 フィアといっしょに芋を植えた。

 また命の魔水が少なくなったら、北の国から運んでこよう。


 疲れたので地面に座った。

 フィアはまだ立っている。小さな手を空に向かって大きく広げた。

 その瞬間――。


 一面に白い花が咲いた。

 かつて見たことのないほどの白さだった。



 ガサガサと音がした。

 聞こえる方に振り向いてみる。


「シドっ」


 そこにいたのはクリルだ。

 クリルがこの国を訪れていたとは。


「まあ、綺麗な花」



 姿を現したのは彼女だけではなかった。


「「「「シドぉー」」」」


 梟たちの茶会の仲間たちも、頂上にのぼってきた。

 アンデッド退治の仕事が終わったのだろう。


 皆、真っ白な花畑に目を奪われている。

 感嘆の声をもらすのは、順に巨乳先輩スウ巨漢先輩ファンモ強面先輩オーグヌス仙人先輩ガロット


「えっ? この花って」

「以前はこんなんじゃ……」

「これマジかよ」

「なんと神々しい」



 さらにもう一人、ここにやってきた。

 ただし護衛の兵士を連れている。


「シド」


 ああ、ルーラ王女まで……。


 彼女には王女という立場がある。あまり親交のない国への訪問は、簡単にはいかないはずだ。さぞかし苦労したことだろう。そして彼女もやはり花畑の美しさに、恍惚としている。



 僕とフィアは互いに顔を合わせて笑った。


「これすべてシドのおかげ」

「そんなことはないよ。真っ白な花畑にしたのはフィアじゃないか」

「ううん、シドがいなかったら、花が咲くことはなかった」


 そう言われると照れくさい。


 梟たちの茶会の仲間たちが寄ってきた。

 クリルやルーラ王女もこっちに来る。


「もうシドったら、一人でずっと何しゃべってるのよ」


 クリルがおかしなことを言った。


 一人ってなんだ?

 そんなはずはない。だって……。

 フィアに横目を送った。


 ほら、ちゃんといるじゃないか。

 クリルは何を言っているのだろう。

 いまのは冗談のつもりなのか?


「フィアと話してたんだけど」

「ふふふ。何よ、その冗談」


 はあ?


 梟たちの茶会の仲間たちも、こんなことを口にする。


「きょうもフィア様はいなかったか。今度こそ、お目にかかれると思ったのに」

「だけどこの花畑、フィア様がお作りになったんじゃないかしら」

「うん、そんな気がする。一度お会いしてみたいよなぁー」


 どういうことだ?

 皆には見えていないのか。


 あらためてフィアの顔をうかがう。

 彼女は人差し指を立てて唇に当てた。


 シーーーーーーィ


 そして少し大人ぶったようなウインク。

 ここにいることを、内緒にしてほしいようだ。


 耳元でフィアがぼそっと言う。


「シド。これほどの魔導が集まれば、空色の目を治すことができるかも」


 僕は呪竜の目が嫌いだった。

 この目のせいで、どれほど苦労したことか。

 だけど僕は首を横に振った。小声で言う。


「いまはこの目が気に入ってるんだ。だってこれが本来の僕だから。それにこの国では、皆が空色の目を受け入れてくれるし」


「わたしもその目が好き。とても綺麗だから」


 彼女は頬を赤く染め、消えていった。





―――― 完 ――――







最後までお読みくださり、ありがとうございました!!

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[良い点] 最初から一気に読みました。 楽しく読ませて頂きました!
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