31.恐ろしげな巨体
「ふう」
奇妙な文字を読み終わり、思わず溜息を吐いた。
イヤな話を知ってしまった……。
僕の呪魔導はドラゴンから託されたものだったとは。
とりあえず先を急いだ。
途中、またもやアンデッドに遭遇。今度は大集団だった。
兵士が戦っている。数人の冒険者らしき姿もあった。
皆、アンデッド相手に聖水や回復魔導で挑んでいる。
しかし明らかに苦戦していた。
いま僕は帽子のツバで、焼き印も空色の目も隠している。
なので兵士たちが僕を見ても、騒ぐことはないはずだ。
彼らが僕を見咎める。
「やったぞ、助っ人の参上か……あれ? たった一人だけかよ」
あからさまに落胆する兵士。
助ける気が失せるなぁー。
そもそも僕の呪魔導は、この国の人々を守るためのものではない。
また、アンデッドを攻撃するためのものでもない。その真逆だ。
高原の民族の子孫――すなわちこの国の人々を、呪うためのものなのだ。
とは言っても、やはり放ってはおけない。
アンデッドに向かって、ウォーターカッターを放った。
水平に伸びた刃が飛んでいく。
スパッ スパッ スパッ スパッ スパッ スパッ
いっぺんに二十体くらいは切り裂いただろうか。
呪魔導でダメージを負った体は、再生することがなかった。
兵士が驚愕している。
「馬鹿な! 一瞬でアンデッドを倒しやがった。しかも再生してこないなんて。聖水も回復魔導も使わずに何故だ!? いまのはただの攻撃魔導だったよな?」
ただの攻撃魔導? いやいや、これはあなたたちを葬る呪魔導だけど。
てか、兵士さん。僕の顔をボーっと見てないで、そろそろ手足を動かしたらどうですか。ほらほら、どうしました? まだ多くのアンデッドが残ってますよ。もしもーし。
自分の仕事を忘れている兵士については、放っておくことにした。
今度はカマイタチを放つ。多数のアンデッドが切り刻まれた。
「おおおおお! こんな頼もしい助っ人が来てくれていたなんて」
その兵士、体は動いていないのに、口だけは動かしている。
だけど、最初の台詞とぜんぜん違うじゃないか。
あれ? なんだろう、この音は?
ズドン…… ズドン…… ズドン…… ズドン……
これは地響き……足音か? 目を凝らし、遠くを見つめる。
デカい! 巨大なアンデッドが歩いてくる。
アンデッド側にも、助っ人が現れたってわけか。
またもや兵士が騒ぐ。
「あれは伝説の……? そうだ、間違いない。アンデッドの中でも最強最悪とされる化け物。アンデッドギガースだ!!」
アンデッドギガースねえ。そんな大層な名前が付いてるのか。
兵士や冒険者たちが聖水や回復魔導を仕掛ける。
しかしダメージをまったく与えられてはいなかった。
聖水も回復魔導も効かないとなれば、お手上げだ。
…………彼らとしては。
「何をボケっとやってる? さっきの攻撃はどうした。さっさとやらないか」
なんか兵士に怒鳴られた。
さっきまでボケっとしてたのは、そっちの方だったのに。
「ああ、僕ですかぁー」
はいはい、すんません。いまやりますよ。
アンデッドギガースは強敵らしいけど……。
呪魔導は有効だろうか。有効だよな?
巨大な相手にファイアボールを飛ばしてみる。
ぎゅおおおおおおおおおお
アンデッドギガースの悲鳴のような声。
屍の巨躯が炎に包まれる。灰となって消えていった。
思った以上に早く倒すことができた。
僕の力を伸ばしてくれたフィアのおかげだ。
兵士や冒険者たちは大歓喜。
「おおおおおおおお! あのアンデッドギガースを一撃で仕留めたぞ。やはり最後には我々が勝利するのだ。死体の化け物などに負けるものかっ」
いやいや、アンタたちが倒したんじゃないから。
ここにちょっと冷めた僕がいた。彼らと喜びをともにすることはできなかった。
悲痛そうなアンデッドギガースの声が、いつまでも耳から離れなかった。
後ろめたさを感じる。呪魔導はアンデッドを倒すためのものではないのに。
溜息を吐いた。僕は何をやっているのだろう。
また歩きだした。兵士の声が僕の背中に届く。
「おい、どこへ行くつもりだ。まだアンデッドは少し残ってるんだぞ」
「ごめんなさい。そっちはあなた方に任せます」
振り返って、兵士に頭をさげた。
当然、兵士は納得できないようだ。
「勝手な真似は許さない。助っ人ならば兵の指揮官の言うことを聞くものだ」
「助っ人に来たわけじゃありません。偶然ここを通りかかっただけです」
ひゅーーーーーー
風が吹いて僕の帽子が落ちた。
それを拾い、被り直す。
「あっ、その目は!? お前、まさか……」
「ええ、そうです。僕は事故を装って殺されるべき人物みたいです」
「はあ?」
ポカーンとする兵士。
下っ端は国王の命令を知らないのか。
僕はそのまま歩き去った。
しかし兵士や冒険者たちは僕を追うことができなかった。
まだ少し残っているアンデッドに、対応しなくてはならなかったからだ。
孤児院の前に到着。
皆は無事か? 無事でいてくれ……。
祈るような気持ちで庭に入っていく。
建物から先生や子供たちが出てきた。
なんと、幼馴染みのクリルまでもいるではないか!
彼女はまだ国に帰っていなかったようだ。
皆が無事だったことに安堵した。
笑顔で手を振ってみせる。
ところが……。
「来ちゃ駄目ぇ-ーーー」
えっ?
叫んだのはクリルだった。でもなんで?
背後に殺気を感じた。
振り返ってみる。
まさか……。
大勢の兵士たちがいる。庭を囲んでいたのだ。
僕が来ることを予期して待ち伏せていたのか。
だけど国じゅうにアンデッドが出現しているはずだぞ。
僕一人のために、こんな多くの兵士を当てていいのか。
兵士たちが弓を構える。
彼らは僕を殺すつもりだ。
その後、事故に見せかけるための細工でもするのだろう。
ふと、ほんの少しだけ思った。
だったら返り討ちにしてあげようか。
僕の呪魔導ならば可能だ。
そもそもの呪魔導は『高原の民族』の子孫たちを葬るためのもの。
『高原の民族』の子孫たちとは、この地の人々を意味している。
しかしそうもいかないようだ。
兵士たちの弓が僕の大切な人たちにも向けられていた。
孤児院の先生や子供たち、それからクリルが人質となっている
僕が抵抗すれば殺すつもりのようだ。
なんて卑怯な。一般人を人質にするなんて!
許せない。
まるで昔の『高原の民族』のようではないか。
『高原の民族』の子孫は皆、そうなのか。
……そうじゃないのはわかっている。
孤児院の先生も子供も、きっと『高原の民族』の子孫だ。
クリルだって、その可能性は高いのだ。
兵士たちだって命令に従っているだけだろう。
僕は抵抗せず、兵士たちに捕らえられた。
罪人用の牢馬車に乗せられる。二度目だ。
でもここに来た甲斐はあった。
孤児院はアンデッドに襲われていなかった。
クリルも含めて皆、無事だったのだ。
それらを確認できただけでも大満足だ。
僕を乗せた牢馬車が走る。
この道は国境へ続いているはずだ。
国外へ出る前に、事故を装って殺すつもりだろう。
あるいは国外に出してから殺すのか。
別に怖くなかった。
兵士たちは僕の呪魔導を甘く見過ぎている。
タイミングを見計らって、牢馬車から逃げよう。
いまの僕には簡単なことだ。
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