30.竜の伝説
僕はアテラ王国に密入国した。
といってもイミグレのあるゲートを強行突破したわけではない。
ゲートから遠く離れたところで、国境の壁に空いた穴を見つけたのだ。
そこからこっそりと入っていっただけである。
ふと思いだしたことがあった。と同時に合点がいった。
先日のアンデッドの大集団は、その穴から国外に抜け出たのだろう。
さて、ここはもうアテラ王国だ。本来ならば僕が居てはいけない国。
てことで、焼き印のある額を帽子で隠した。
帽子のツバは大きいので、深く被れば空色の目も隠せる。
これでバッチリだろう。
まっすぐ続く石畳の道。建ち並ぶ店や家々。
見慣れた風景があった。人々のようすも穏やかだ。
もしかしてアンデッドは、すでに駆除されたのだろうか?
いいや、そうではなさそうだ。やはり以前より通行人が少ない。
アンデッドの出現を警戒し、外出を控える人々が多いためだろう。
などと思っていたところ……。
本当にアンデッドが出やがった!
おぼつかない足取りで前進するアンデッド。
大通りの人々はたちまちパニックを起こした。
しかしアンデッドはたったの三体だけだ。
これっぽっちだと、なんだか迫力に欠けるなあ。
何しろ、この前はアンデッドの大集団だったから。
おっと、ここはガッカリするところじゃなかった。
敵が少ないのは喜ばしいことなのだ。
逃げる人々とは逆方向に進み、アンデッド三体の前に立ちはだかる。
ファイアボールをそれぞれ三体に飛ばしてやった。
三体のアンデッドは炎に包まれ、きっちりと灰となった。
どんなもんだい。これが呪魔導の実力だ。
思った以上に楽勝だった。ところが……。
楽勝だったがゆえに、気の緩みが出てしまったようだ。
うっかり顔をあげたところを、人々に見られた。
空色の目が見つかってしまったのだ。
「じゅっ、呪竜の目だぁーーーーー!」
人々が騒ぐ。大通りはふたたびパニックとなった。
なんだよ。僕がアンデッドとまったく同じ扱いなんて。
三体のアンデッドから救ったのは僕なのに……。
とにかくここにいるのはマズい。
逃げるようにその場を立ち去った。
アンデッドはまだ根絶されていなかった――という事実が判明した。
ますます孤児院のことが心配になってくる。急いで行ってみよう。
なんだこれは!
道すがら僕が目にしたのは、破壊されたドラゴン像だった。
その壊れ方は大風や地震によるものではない。明らかに人為的なものだ。
まったく酷いことをする人がいたものだ。それともアンデッドのせい?
ヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ
突然、激しい耳鳴りに襲われた。こんな大音響の耳鳴りなんて初めてだ。
んっ? 生温かい風。壊れたドラゴン像から吹いてきたものだ。
うううううう……
頭がガンガンしてきた。痛い。
ヂヂヂという耳鳴りも治まらない。
堪らずその場にうずくまった。
ぎゅっと目を瞑る。
すると奇妙な文字が頭に浮かびあがった。
なんだ? この文字、読めるぞ。
頭に浮かびあがった文字を読んでみる。
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………………
…………
大昔、この地には莫大な富が集まっていた。それにもかかわらず、周囲の各地から攻められたり、襲われたりすることはなかった。何故なら、この地に住む人々は強い魔導を持っており、さらには一体のドラゴンを友としていたからだ。そのドラゴンの食料は『人々から分け与えられた魔導』のみだった。
およそ九百年前になると、この地に『高原の民族』が流入するようになった。彼らは相次ぐ自然災害による食糧難を抱え、ここまで移住してきたのだという。この地の人々は不憫な『高原の民族』を受け入れることにした。
やがて『高原の民族』は、人口の三割を占めるようになると、この地の乗っ取りを始めた。それには毒を使った。国じゅうの川に毒を流したのだ。ただし毒といっても、決して健康を害するようなものではなかった。しかし人々の魔導を枯渇させるものだった。
この地では川の毒により、強力な魔導を持つ者は皆無となった。人々の魔導を食餌としていたドラゴンも、餓死寸前にまで追いやられた。
『高原の民族』の族長は武力により、この地に国を築いて初代国王となった。同時に、この地の先住民族に対する迫害が始まった。
先住民族も黙ってはいられず、各地で反乱を起こした。しかし新しい支配者の武力には勝てなかった。それらの反乱は初代国王の怒りを買い、先住民族大虐殺へと繋がった。
極限まで衰弱していたドラゴンは、この状況を悲しんだ。そして死ぬ間際、最後の力を振り絞り、国の都を焼き尽くした。このため呪竜と呼ばれるようになった。ドラゴンの魔導はまだ僅かに残っていた。それを自らの死と引き換えに、先住民族たちの屍に注ぎ込んだ――。
数多の屍は蘇り、アンデッドが生まれた。
その大集団が征服者『高原の民族』を攻撃する。
国王としては、このままずっとやられっ放しというわけにいかなかった。
アンデッドに対抗するため、隣国から大魔導師を雇い入れた。
大魔導師はアンデッドを封印すべく、国内各地にドラゴン像を建てさせた。
生と死の境にあったドラゴンの肉片を、それぞれ像の核として使用した。
やがてアンデッドの駆除に成功。
迫害を受けた先住民の中には、生き延びた者が僅かばかりいた。
彼らは龍神族と自称し、この地を離れていった。
龍神族の中には、稀に『呪魔導』を持つ者も生まれた。
それがドラゴンの呪いである。
呪魔導――それはこの地を支配した民に復讐するため、ドラゴンが授けた置き土産。しかし幾星霜を経てもなお、この地へ復讐に戻ってくる子孫はいなかった。
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