27.<新国王視点>セリオン王国・第六王女ルーラの来訪
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俺は朝からそわそわしていた。
側近が片膝をつく。
「陛下、はるばるセリオン王国より、ルーラ王女殿下がお見えになりました」
ようやくルーラ王女の到着か。
ルーラ王女については、いずれ王妃に迎えたいと思っている。父である前国王の時代から、彼女を迎えるべく裏交渉を進めてきた。しかし……なかなか話がまとまらない。
いったいどうなっているのか。
もしかして、今回の訪問はそれに関わる話があってのことなのか?
いいや。この話について、まだルーラ王女本人は知らないはずだ。
では訪問の目的は……。
ルーラ王女が玉座の間にやってきた。ああ、いつ見ても美しい。
しかし表情が険しいぞ。機嫌が悪いようだ。
「ようこそ、アテラ王国へ。ルーラ王女の訪問を歓迎する」
「ありがとうございます、ウィリンヘル王」
実は前もってルーラ王女にプレゼントを用意していた。
宝石が散りばめられた高価なブレスレットだ。喜んでくれればいいのだが。
「さっそくだが、ルーラ王女にプレゼントしたいものが……」
「さっそくですが、ウィリンヘル王にお伺いしたいことがございます」
話している途中でルーラ王女が声を被せてきた。
きちんと最後まで話を聞いてくれないのか。
「な、なんだろうか」
怒ることもできず、愛想笑いしてしまった。
やれやれ。これでは国王として威厳ゼロだ。
「ウィリンヘル王。最近、一人の国民を国外追放にされたそうではありませんか」
「記憶にないなあ……。誰のことだろう」
「とぼけないでください!!」
怒りに満ちたルーラ王女の声。
実際、さっきはワザととぼけたのだ。誰のことなのかは見当がつく。あの大道芸人の小僧のことに間違いない。しかしどうしてルーラ王女は、それほどまで小僧に肩入れするのだろう。
とりあえず、とぼけていても仕方がない。
「いま思いだしたぞ。確かにそのようなことがあった」
「いったい、シドが何をしたとおっしゃるのですか」
マズい。ルーラ王女は本気で怒ってる……。
シドだかなんだか知らないが、小僧め、憎たらしい。
「彼は不吉な呪竜の目を持っていた。国が呪われぬうちに追放とするのは、国王として至極当然のことだ」
ルーラ王女の表情は、ますます怒りが濃くなった。
「それは外見のことだけではありませんか」
「し、しかし国民たちの強い要望もあったことだし……」
「シドは何も悪いことをしていない、と正しく説明するのが国王の仕事では?」
いいや、それ、国王の仕事ではないと思うが。
ルーラ王女はなんとしてでも小僧を擁護するつもりのようだ。
とりあえず、ここは彼女に合わせた方がいいのかもしれない。
俺は大きく首肯してみせた。
「いかにも。だから国民にはきちんと説明した。しかし判決をくだすのは神官長の仕事だ。俺は神官長に抗議した。その後も撤回を求め続けてきた」
嘘だけど。
「では、もうじきシドの国外追放は無効となる、と考えてよろしいのですね」
えーーーっ。
「当然だ。無辜の国民を国外追放にできるわけがない」
「まあ、さすがはウィリンヘル王! 現在の進捗はどうなっていますか?」
ルーラ王女は途端に笑顔になった。
ああ、やってられない……。
「神官長への説得はきのうの晩までかかってしまった。彼を早急に国へ連れ戻すよう、指示を出したばかりだ。すぐに実行されるだろう」
「安堵いたしましたわ、ウィリンヘル王」
ルーラ王女は一泊もせずに、帰国してしまった。
結局、彼女とは小僧の話しかできなかった。
ああ、ムカムカしてきた。
玉座を蹴った。
誰が小僧を国に戻すものか!
しかし連れ戻さないままでいると、問題が生じるだろう。
ルーラ王女がまた文句を言ってくるかもしれないのだ。
ではどうしよう……。
そうだ! いい手を思いついたぞ。
さっそく側近を呼ぶ。
「陛下、どのようなご用事でしょうか」
「国外追放にした呪い目の罪人の件だ。まずは神官長に判決の撤回をさせろ。次にその罪人を国に連れ戻すのだ」
「畏まりました」
「待て。話はまだ終わってない。その罪人を捕らえたら、帰国させる途中で殺せ。うまく事故を装ってな。証拠は注意深く消すのだ」
側近の額から一筋の汗が流れた。
「かっ、畏まりました」
小僧の死が事故ならば、ルーラ王女から何も言われまい。
これで邪魔者は消えるわけだ。今宵は酒が美味くなりそうだ。
ふと、部屋の隅に立っているドラゴンの石像が目に入った。
この王宮内の至るところに、さまざまなドラゴン像が置いてある。
それらのドラゴン像を目にするたび、小僧を思いだしてしまうではないか。
ああ、憎たらしい。憎たらしい。憎たらしい。
呪竜と同じ小僧の目……。
呪竜に限らず全ドラゴンが憎たらしく思えてきた。
石像も木像も絵画も含め、ドラゴンすべてが憎たらしい。
ぜんぶ小僧のせいだ。
俺は王宮内のドラゴン像を破壊して回った。
ストレス解消のためでもあった。しかしまったく気は収まらなかった。
だからまた側近に命令した。
国内すべてのドラゴン像を破壊せよと。
このとき俺は知るよしもなかった。
ドラゴン像破壊の行為が、国内を大混乱に陥れることになるなんて。
数日後――。
セリオン王国の第六王女ルーラから、早馬による速達書簡が届けられた。
俺は大喜びした。しかしその速達書簡を読んでみると……。
書簡の内容は、俺が国内のドラゴン像を破壊させていることについてだった。
なんと耳が早い。どうしてこんなくだらないことに、いちいち手紙を寄越すのだろう。ドラゴン像の破壊が小僧への苛立ちの表われなのだと、感づかれてしまったか? ルーラ王女の直感は、幼い頃から鋭かったからなあ……。
ルーラ王女はドラゴン像破壊の意図について、俺に尋ねている。とりあえず適当に誤魔化さなければならない。あとで側近にでも考えさせよう。
いいタイミングで側近がやってきた。
書簡の返答について話をしようとしたが……。
側近の顔を見て、すぐに取りやめた。
表情が硬い。何か問題でも発生したのか。
「陛下、国じゅうが大変なことになっております」
「落ち着いて話せ。どうしたというのだ」
「アンデッドが次々と出現し、国の至るところでパニックが起きております」
「アンデッドだと……。ではすぐに冒険者を集めろ。軍隊も出動させろ」
俺は援軍要請の書簡を、周辺国に送ることにした。
ふと、いいことを思いついた。
側近に命じる。
「直ちに国じゅうに噂を流すのだ。『アンデッドの大発生は、呪竜の目を持つ者の復讐』なのだと」
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