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26.山頂のフィア


「ガロット! 課題の剣よ。見つけて持ち帰ったわ。ぶっちゃけ、ほとんどシドが一人でゲットしたようなものだけどね。ほら、シドっ」


 巨乳先輩スウが僕に目配せする。

 仙人先輩ガロットに、課題の剣を渡した。


「ふむ。確かに古の魔剣。これに間違いない。こんなに早く達成するとは正直驚いた。しかもほとんどシド一人の力だったとは……。さすがは呪魔導の保有者。鳥肌が立ってきたわい」


 そんなふうに褒められると、なんだか照れ臭い。

 だいたい入手できたのは、偶然のようなものなのだ。


 ところでずっと気になっていたけど、その剣はなんのためのものだろう。刃先はあまり鋭くないので戦闘向きには思えない。ただ特殊な強い魔力を感じる。仙人先輩ガロットに訊いてみることにした。


「ちなみにその剣、どうするのでしょうか」

「山に行って納めてくるつもりだ」

「剣を納めるって? 領主様とかにですか」

「いいや。魔仙フィア様に納めるのだ」


 仙人先輩ガロットの口から、フィアという名前が出てきた。


「えっ……」

「どうした、シド。驚いたような顔をして」

「フィアって、前に僕が話しました女の子と同じ名前なんです」

「ほう? だが何百年も生きていらっしゃるはず。子供というのは……」


 すると横から巨漢先輩ファンモ。


「どうせ単なる同名だと思うけどな」


 狐目先輩テチオンが首肯する。


「うん。あるいは両親がフィア様を尊敬して、子供に名づけたとか」

「皆でその山に行ってみれば、すべて判明するんじゃない?」


 という幼女先輩ミリイに、巨乳先輩スウが賛成する。


「そうよ。会わせてもらいたいわ。いいでしょ、シド?」

「はい、僕は構いませんけど」


 こうして全員で行ってみることになった。



 翌日、『梟たちの茶会』の皆を、くだんの山へと案内した。

 麓に到着したところで、仙人先輩ガロットが僕に確認する。


「本当にこの山なのか?」

「そうです。てっぺんで女の子に会いました」

「ワシが魔剣を納めに行こうとしてたのも、実はこの山だ」

「この山……?」


 すなわち魔仙はこの山にいることになる。

 ならば僕の知っているフィアが、魔仙フィア様ってことでいいのか。

 とにかく、いますぐ皆で会おう。


 僕たちは小さな山をのぼった。

 あれ? おかしいなあ。


 四阿あずまやがあるだけだった。他には雑草しか見えない。

 肝心なフィアの姿はなかった。どこ行っちゃったんだろう?


 名前を呼んでみようか。


「フィア」


 返事はない。もう一度呼んでみる。


「フィア?」


 何度も呼んだが同じだった。

 どうしたんだろう……。


 ポンと背中を叩く強面先輩オーグヌス。


「おいおい。この山に子供がいたって本当なのか?」

「嘘なんて吐きません。ここで例の白い花をもらったんです」


 狐目先輩テチオンも訝しそうな顔をする。


「夢じゃなくて? そのとき寝ぼけてたとか」

「そんなことはありません。ちゃんと会いましたよ!」


 今度は巨漢先輩ファンモ。


「じゃあどうしていないんだ」

「僕だってわかりません」


 フィアが現れないから、ちょっと疑われたようだ。

 せっかく仲間を連れてきたのに。フィアには困ったものだ。


 残念だけど、彼女に会うのは諦めることとなった。

 それはそれとして、ここで他にやることがあった。


 古の魔剣を納める儀式が始まる。

 仕切るのは仙人先輩のガロットだ。


 詠唱が始まると、魔剣は光り輝いた。

 そして地中に沈んでいった。


 僕は儀式の間、ガロットの魔導をずっと体に感じていた。

 彼の魔導は混じり気がなく澄んでいて、羨ましい限りだ。


「フィア様が受けとってくださった」


 ガロットがぽつりと言った。

 これで儀式は終わりらしい。

 僕たちは皆で山をおりた。



 翌日、一人で例の山をのぼった。


 今度はちゃんとフィアの姿があった。

 四阿あずまやから屈託のない笑顔を見せている。

 僕は手を振りながら、彼女のもとへと歩いていった。


「シド、待ってた」


 待ってたって……。きのうはいなかったのに。


「僕、きのうこの山にのぼったんだ」

「うん、知ってる」

「でもフィアはいなかったね」

「うん、隠れてた」

「…………。えーと、どうして?」


 僕の顔を下からのぞき込むフィア。


「シド、怒った?」

「ううん。姿を見せるのも隠れるのも、そりゃフィアの自由だからね」

「よかった。もしかして怒ってるかもって思った」

「逆にきょうは、お礼を言いに来たんだ。きのうは言えなかったけど」

「お礼?」


 フィアがきょとんとする。


「フィアのおかげで、僕の魔導がビックリするほど強力になったんだ。本当にありがとう」


 ふたたび笑顔が見られた。


 その途端、ここ山頂の風景が変わった。

 初めてフィアと会った日のように、一面が芋畑となった。


 しかし真っ白というわけではなかった。

 芋の花はあまり咲いていなかったのだ。


「前は白い花がたくさん咲いてたけど……。もう季節外れになっちゃったのかな」


 小さな顔を横に振るフィア。


「あのお花が少なくなっちゃったのは、お芋の生命力がとても弱まっているから。もうじき、ぜーんぶ枯れるの。お芋も大きくならない」


 そうなのか。残念だ。綺麗な花なのに。


「花が少なくなってるのなら、僕なんかにくれなかった方が……」

「ううん。どっちみち枯れる運命だったから」

「枯れる運命か……。なんとかならないのかなぁ」


 フィアはまた首を左右させた。


「もう、なんともならない。この山は『命の魔水』が不足してるの。それでお芋が元気をなくしちゃってる。あと二十日くらいしか保てないかも」


 命の魔水ってなんだ……。


「フィア。命の魔水ってどんなもの?」

「これだよ」


 フィアの手から何かが浮きあがった。

 シャボン玉のようにフワッとこっちに飛んできた。

 やや緑色がかっている。


 僕に当たった。やや熱めの水玉という感じだった。


「たとえば魔導とかで、これを作る方法ってないの?」

「作るのは無理。でも……」


 フィアは『でも』と言った。

 てことは何か方法があるのか。


 彼女はこう続けた。


「……命の魔水は遠い北方の国にもあるの。深い山の峠から少しずつ湧き出てた。だけどね、それは昔の古い話。いまはどうだかわからない」


 僕は彼女に笑顔を送った。


「そこへ行ってみるよ。僕、取ってくる」



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