20.魔法陣の向こう側
魔法陣の中に入れなくなってしまった。皆、途方に暮れている。
力なく空を仰ぐのは、巨乳先輩スウと狐目先輩テチオン。
「五人合わせて魔法陣に魔導を流し込んだのに……」
「ドラゴン並みに強力な魔導がないと、入るのは無理っぽいね」
首をかしげるのは、巨漢先輩ファンモと幼女先輩ミリイ。
「だけど何故こんなことになったのだろう?」
「こんなときに限ってガロットがいないなんて。どこ行ってるのかしら」
巨乳先輩スウが、僕の顔を覗き見る。
「ねえシド。この前みたいに、強引に魔法陣を破壊できない?」
「とりあえず、やってみるよ」
魔法陣に触れた。
わっ、これは……。そこから伝わる魔導の感じだけでもわかる。きょうの魔法陣はいつもとまったく違う。ずいぶんと強化もされている。この魔法陣を壊すのは難しそうだ。
「シドにも無理さ。この魔法陣は特殊すぎる。いくら前回、壊せたとしてもね」
狐目先輩テチオンがつぶやいた。
そのとおりかもしれない。
「もしシドでも無理なら、お手上げね。誰もできやしないわ」
という巨乳先輩スウに反応したのは、強面先輩オーグヌスだ。
「うるせ! シド、俺に代われ。本気を出すから見ておけ!」
えっ。五人で力を合わせても駄目だったのでは?
もしかしてこの無茶は、僕への対抗意識なのか。
いったん僕は魔法陣から離れた。
強面先輩オーグヌスが、魔法陣に魔導を注ぎ込む。
しかし魔法陣に変化はなかった。つまり失敗だ。
幼女先輩ミリイが僕の背中を押す。
「オーグヌスが駄目だったんで、今度こそシドの番」
僕だってできる気がしない。たぶん失敗する。
まあ、やるだけやってみよう。
魔法陣に魔導を注いでみる。
それぇーーーーーーー
魔法陣が揺れた。嘘っ。いけるか?
しかしそれだけだった。今回は壊れなかった。
気を落とさず、もう一度……。
やはり駄目だった。それでも再々挑戦。
微動だにしない。一回目は魔法陣が揺れたのに。
ならば思いっきり揺らしてみてはどうだろう。
ぬおおおおおおおおおおおおおおおお!
グラッ パキッ パキパキパキパキパキパキパキパキパキ
幼女先輩ミリイは跳びあがり、巨漢先輩ファンモは両手を広げるのだった。
「魔法陣にヒビよ! 嘘みたい」
「シド……。お前、なんてヤツだ」
魔法陣が壊れた。僕はそこに吸い込まれていった。
しかし他の先輩たちは、不思議と吸い込まれなかった。
僕はいつもの空間に一人で来てしまった。
おや、なんだろう? ヒトの気配がする……。
僕以外、誰も入ってこられなかったはずなのに。
あっ、キミは!
そこにいたのは小さな女の子。
無邪気な笑顔を向けている。
「フィア、どうしてここにいるんだ」
「シドが教えてくれたから。毎日ここに来てるって」
夕べは確かにそんな話をした。
丘の上にある特殊な空間で、魔導を学んでいるのだと。
「だからって、なんでワザワザこんなところに来たのさ」
「シドが勉強してる場所を見てみたかったの。ここすごいね」
単なる見物か。
「うん、すごいと思う。僕も初めて来たとき驚いたから」
「だけど……」
フィアは手を伸ばして光魔導を放った。
あまりの眩しさに、僕は目を瞑った。
ゆっくり目を開ける。
「わっ! これって」
殺風景だった空間が、綺麗に色づけされていた。
フィアが得意そうに笑う。
「今度はわたしの質問の番」
「いいけど……。何が聞きたい?」
「シドは魔法陣から入ってくるのが遅かったね。どうして」
「魔法陣を越えるのに苦労したんだ。強力な魔導が施されてて」
「シドの魔導の力があれば、これくらいは簡単だったはずだよ?」
魔法陣に細工した犯人は、フィアってことで確定だな。
「いやいや、何度も失敗したし」
「おかしいな。じゃあ手を出して」
「こう?」
僕が両手を前に突きだすと、フィアの小さな手に握られた。
「詰まっちゃってるね」
「は? 何が?」
「魔導が体から出るときの通り道。ゴミみたいのがいっぱい溜まってるの」
「痛いっ」
フィアの手から静電気のようなものがビリッときた。
「シド、どう?」
「あっ、へんなの。なんかすっきりした」
「詰まりを取り除いたから。今度は魔導がすんなり出られるよ」
「本当? あ、ありがと……う?」
「きょうはここを見にきただけ。シド、また山にきて」
フィアは小さな魔法陣を作った。そして消えていった。
ほぼ入れ違いに、壊れた魔法陣から先輩たちが入ってきた。
皆、様変わりしたこの空間に驚愕している。
「これ……シドがやったのか?」
「僕にできるわけはないよ。実は……」
女の子が来ていたことを皆に話した。山に一人で住んでいることや、山頂を白い花畑に変えたことや、魔法陣に細工したこともいっしょに。
強面先輩オーグヌスは、壊れた魔法陣を改めて見据えた。
「魔法陣にこんな細工ができるとは、ただもんじゃないな」
また新たな魔法陣が生じた。
そこから仙人先輩ガロットが現れた。
「これはいったい……」
空間の風景が色づけされていることに、彼も驚愕している。
「実はさっきまで例の女の子が来てたんです」
「仙花をくれたという彼女か。これを……。ふむ、不思議な子だ」
「はい。彼女が見せてくれた魔導は、不思議なものばかりです」
「おっと、それどころじゃなかった。突然の豪雨で濡らしてしまったんだ」
仙人先輩ガロットが懐から書類を取りだす。
「書類、びしょびしょですね」
「おお、そうだ! 悪いがシド。また火を出してくれないか」
「いいですけど、火がついたらマズいんじゃないですか。燃えちゃいますよ」
「今回は炙るだけだ。温度がほどほどのシドの炎が最適なのだ」
「わかりました」
小さなファイアボールを打つべく、てのひらに炎を生じさせる――。
うわっ
僕は尻餅をついてしまった。炎の大きさが予想外だったからだ。
いつもなら、もっとずっと小さいのに。大きさだって加減したはずだった。
たちまち書類に着火。
あっと言う間に燃やし尽くしてしまった。
「ああ、ワシの大事な書類が……」
「すみません、すみません」
僕は仙人先輩ガロットに謝ることしかできない。
ほかの先輩たちは僕の炎に目を丸くしている。
最初に口を開いたのは巨乳先輩スウだった。
「どうしたの、シド。あんな大きな炎を出せたっけ?」
「オーグヌスが作る炎並みにデカいな」
という巨漢先輩ファンモに、強面先輩が首を横に振る。
「いいや、俺以上だ。むしろガロットの炎に近い」
「もともと才能は認めていたが、成長が急激すぎる。どういうことだ?」
仙人先輩ガロットに問われたが、僕だってワケがわからない。
ただ心当たりはあった……。
「僕が話した女の子のおかげだと思います。僕の魔導、通り道のようなものに何かが詰まっていたようなんです。さっき彼女がそれを取り除いてくれました」
「ふむ。眠ってる能力を、一瞬のうちに引き出してもらったか」
試しに他の呪魔導もやってみることになった。
水系ではウォーターカッターが超巨大になっていた。
風系では竜巻も起こせるようになっていた。
「もはやシドの魔導は、ワシを越えてしまっている。しかしワシが教えてやれることは、まだまだ山ほどあるぞ。また皆もシドに刺激を受け、魔導に磨きがかかるだろう」
仙人先輩ガロットはこの日の勉強会のあと、僕たちに、修行のための課題を出してくれた。
巨漢先輩ファンモ、巨乳先輩スウ、幼女先輩ミリイ、狐目先輩テチオン、強面先輩オーグヌスと僕の六人で、『ある剣』を持ち帰るというものだった。
しかしその剣がどこにあるのかは不明。皆で探さなければならない。
範囲を絞れないのは、課題としてキツすぎやしないか。
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