17.魔導サロンの入会試験
強面先輩は白い花を見るや、怒りを露わにした。
にもかかわらず、僕に入会試験を受けさせてくれることになった。
試験ということだが、何をすればいいのだろう……。
僕と強面先輩との間に、巨漢先輩が入ってくる。
「待て待て。お前の手を煩わせるまでもない。この小僧は火系の魔導が得意らしいんだ。ならば俺としては黙っちゃいられない。圧倒的な実力の差を見せて、精神的に立ち直れなくしてやる」
「うるさい! お前は引っ込んでいろ。そいつは俺が……」
強面先輩が言い終わらないうちに、今度は狐目先輩が大声をあげる。
「さあさあ、勝負はこの棒で。先に燃やし尽くした方の勝利としよう!」
「おい、お前ら勝手に……」
という強面先輩を、狐目先輩は無視。
僕と巨漢先輩に謎の棒を一本ずつ渡す。
「棒は燃えにくくしてある。灰にするのは難しいぞ。さあ、勝負開始!」
「おーう!」と巨漢先輩。
巨漢先輩は謎棒に大きなファイアボールを放った。
こっちまで熱が伝わってきた。かなり高温なのだろう。
近くにいるだけで、肌が焼けそうなほどだ。
なんだか知らないが、勝負は始まったみたいだ。
ポカンとしている暇はない。僕もやらなくちゃ。
謎棒に呪魔導で着火させる。
「待て、こんなの認められるかっ」
と強面先輩。しかし皆、僕と巨漢先輩の勝負の行方に集中していた。
巨漢先輩の謎棒は大きな炎に包まれたが、それは一瞬のことだった。
激しい熱を出していた炎が、すぐ消えてしまったのだ。
彼は何度も強烈なファイアボールをぶつけ、炎を起こしている。
それでもすべて燃やし尽くすまでには、だいぶ時間がかかりそうだ。
一方、僕の謎棒にも炎があがっている。
巨漢先輩の炎とは違って、消えることはなかった。
だけど炎は小さい。さっきの杖のように、簡単には燃え尽きそうにない。
ああ、そうだ。簡単なことだ。
僕も巨漢先輩のように、何度もファイアボールを放てばいいのでは?
ということで、棒に向かってファイアボールをぽんぽんと連発。
謎棒の十ヶ所以上から炎があがっている。
そのどれもが一度も消えずに燃え続けた。
僕は手を緩めない。
次々とファイアボールを浴びせ続ける。
一本の謎棒に、何十ヶ所と火がついた。
謎棒全体が小さな炎に包まれたと言っていいくらいだ。
結局、僕が先に謎棒を燃やし尽くした。
僕の圧勝だった。
巨乳先輩、幼女先輩、狐目先輩がそれぞれ驚愕の声をあげる。
「信じられないわ。あの子ったら、火系魔導で勝っちゃったのね」
「ほええええ。ビックリ! 炎が最後まで消えなかったよ」
「彼の魔導、普通ではなかったねえ。何かがおかしい」
そして再度、巨乳先輩。
「うん。さっきも特殊な杖を瞬時に燃やしちゃったし」
しかしその巨乳先輩の顔は、驚愕から心配に変わるのだった。
「でもどうしようかしら。実のところ、あの子には敗者として、とっとと帰ってもらうってことで、丸く収めるつもりだったのに……。そうすれば、あの怒りん坊もしつこく言わないでしょうから」
幼女先輩が首肯する。
「そうだよね。勝っちゃうなんて思わなかったから。でもいい手がある! あの子を本当に入会させちゃえばいいのよ」
「彼が承知するかねえ」と狐目先輩。
勝負に敗れた巨漢先輩がやってくる。
「入会のことは考えるな。勝ち逃げでもなんでもいい。いま魔法陣を浮かびあがらせるから、すぐにここから立ち去れ。さもなければアイツに半殺しにされるぞ」
魔法陣が浮かびあがった。
しかし強面先輩がそれを魔導で掻き消してしまった。
「逃がしはしない。この泥棒め」
僕は泥棒じゃない。
「芋の花は本当に盗んだんじゃありません」
「誰が信じるか!」
「それに僕は勝負に勝ちました」
「あんなものは認められない」
幼女先輩がぴょんとジャンプし、僕の正面に立つ。
「ねえ。当然、風系魔導も使えるでしょ?」
「僕? 当然とか言われても。火系よりは苦手かなぁ」
「はっきりして。使えるの? 使えないの?」
「使え……ます、一応」
「じゃあ決まり。あたしと風系魔導の勝負よ!」
ムッとする強面先輩。
「おい、勝手に……」
狐目先輩がニタッと笑う。詠唱を始めた。
結果、現れたのは二つの大きな球。
「この二つ、どちらも大きさと重さが同じ鉄球だ。重力魔導をかけておいた。ちょっとやそっとじゃ動かないだろう。これを風で動かして競争すればいい」
巨乳先輩が鉄球の片方に手を当てる。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ。本当だわ。わたしが押しても動かない。これを風で動かすって……できるの?」
「さっさと始めるんだ。ゴールはここだぞ」
巨漢先輩が手を振っている。いつの間にあんなところへ?
とにかく、彼の立ち位置まで鉄球を転がした者の勝ちのようだ。
「勝負開始っ」と狐目先輩。
僕と幼女先輩の風系魔導の対決が始まった。
「悪いけど手は抜かないからね。その代わり、あたしが勝者となったら、あたしの手であなたを罰するの。彼の手じゃなくてね。全部あなたのためだから、感謝してほしいなぁ」
幼女先輩が魔導で風を起こす。強烈なものだった。
ちょっとした建造物だったら、吹き飛ばしていたかもしれない。
ゴロッと幼女先輩の鉄球が動いた。
鉄球に重力魔導をかけた狐目先輩が、さらに目を細めて感心している。
「ほう、あの鉄球を動かしたか。さすがだね」
僕もモタモタしている場合ではない。
さっさと動かさなくっちゃ。
だけど僕の魔導では……。
とにかくやってみた。
「風よ、吹けー!!」
何も起こらない。
当然、この重量物をカマイタチで動かせるわけがない。それで普通の送風を試みたが、思ったとおり駄目だった。そもそも普通の風などで動くはずもないだろう。困ったぞ。
一方、幼女先輩の鉄球は、いったん動き始めたので、あとはもう楽だろう。ゆっくりと順調に転がっていった。ゴールとなる巨漢先輩の位置へと近づいている。
このままだと僕の負けか。
僕の風系魔導で鉄球を転がすことはできそうにない。
ならばどうする?
あっ、こうしたらどうだろう。
鉄球からいったん離れた。両手を前方に突きだす。
それっ、カマイタチぃーーーーーーーーーーっ!
風が鉄球を切り裂いた。
さらにカマイタチを連続打ちする。鉄球は薄く小さく細かくなっていく。それはまるでおがくず。いいや、砂粒のようだと言うべきか。とにかく無数の破片と化した。
なおもカマイタチを続ける。
カマイタチといっても風は風だ。鉄球の粒もいっしょに運ばれていく。繰り返し放ち続けた。もうほとんどの鉄粉がゴールを通過したのではなかろうか。
巨漢先輩が宣告する。
「しょ……勝者、新入りの彼」
風系魔導の対決は、僕の逆転勝利に終わった。
目が点になっているのは、巨乳先輩と狐目先輩。
「なんなの……あの魔導。さながら伝説のカマイタチね」
「あんな勝ち方するなんて! うん、勝ちは勝ちだ」
幼女先輩が僕に笑顔を向ける。
「すごいじゃない! あたしの負けだよ。てことで、きょうからあたしたちの仲間だね。よろしく」
それでも強面先輩は、目を三角にして怒っている。
「仲間じゃない! 泥棒など仲間にできるかーっ」
他の先輩たちは強面先輩のもとへと寄っていった。
彼をなだめようと、幼女先輩、巨乳先輩、狐目先輩の順に声をかける。
「仲間にするってのはナシでいいけど、せめて許してあげようよ」
「彼、真面目そうだし、盗みなんて何かの間違いよ」
「二つの勝利に免じて、半殺しは勘弁してやらないか?」
強面先輩は顔をしかめたままだ。憤怒の眼が僕を睨む。
「いいだろう。仙花のことは問わないことにする……」
どうやら許してくれたようだ。
他の先輩も僕も安堵の溜息を吐いた。
しかし彼の言葉には続きがあった。
「……ただし俺を倒すことができたらな」
えーーーーーーーーーっ。
この人、駄目だ。
何を言っても話を聞かない人だ。
それなら……。
「わかりました。あなたを倒せばすべて丸く収まるんですね」
幼女先輩「あちゃー。もう知らない」
狐目先輩「ボクの努力が水の泡だ」
巨乳先輩「あの子、殺されたいの?」
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