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15.広場の魔法陣


 ピンクのリボンの女の子が差しだした芋の花。

 それを受けとった。拒否なんてできなかった。

 でもこれをどうしていいのかわからない。


「こ……これ、ありがとう」


 あどけない顔がまた笑った。


「嗅いでみて」


 言われたとおりに嗅ぐ。


「わあ、いい匂い」


 女の子の得意そうな顔。


 その気持ちに、何か礼をしたくなった。

 僕に何かできることがあるだろうか。

 ああ、そうだ。アレを……。


 副業でやっていたアクロバットの大道芸だ。

 器具はないけど、できないことはない。


 まずはぴょんと後ろに宙返り。それを小刻みに何度も繰り返し、最後に大ジャンプでの宙返り。着地の際、ワザと大袈裟によろけてみせた。そこからどうにかバランスを持ち直す。これが僕のやり方だ。


 女の子は拍手で喜んでくれた。


「ねえ。もう一度だけ、お花の匂いを嗅いでみて」


 はて……。どうしてまた?

 とりあえず花を鼻に近づける。

 匂いを嗅いだ。


「うん。いい匂いだよ」

「もっとちゃんと嗅いで」


 もっとちゃんと? しっかり嗅いだつもりだったけど……。

 花の周りの空気をすべて吸い込むかのように、嗅げばいいのだろうか?


 再度、白い芋の花を鼻に持っていく。

 目を閉じ、匂いだけに集中する。


 息が続くまで吸い込み、目を開いた。



 えーーーーーーーーっ



 僕は夢を見ているのだろうか。

 風景が目を瞑る前とは変わっていた。


 一面が真っ白な花畑。すべてが白い芋の花だ。


 確かにさっきも様々な花が、ちらほらと咲いていた。

 しかしいまの光景は、まるで白い花の絨毯(じゅうたん)


 これはいったい……。もしかして女の子が僕に見せた魔導?


「これは、キミが?」


 女の子は笑うだけで返事をくれなかった。

 だけど何故か、僕の顔をひたすら見続けている。


「僕の顔に……何かついてるのかなぁ」

「空色の目。とてもいい色」


 呪竜の目のことか。


「でも僕はこの目が嫌いなんだ」

「綺麗な色なのに。触ってみていい?」


 指を伸ばしてきた。


「駄目に決まってるよ。目は触ると痛いから」


 僕が断ると、女の子はまた笑った。

 とにかく不思議な子だ。山頂に一人で居ること自体もヘンだし。


「キミはどこに住んでるの?」

「お父さんやお母さんはどこ?」

「どうして町から離れた山に来たの?」


 どの問いにも返答はなかった。

 返ってきたのは微笑だけ。


「僕はこの先の町に行かなければならないんだ。そろそろ山をおりるけど、キミは大丈夫?」


「うん。大丈夫」


 今度は返事がきた。


 子供をここに一人にしておくのは気が引ける。本当に大丈夫なのか。

 まあ、どうせ、あとから親が迎えに来るのだろう。



「じゃあ本当に行くけど……いい?」

「うん。バイバイ」

「バイバイ」


 幼い女の子と別れて山をおりた。



 僕は町に到着した。

 この町に魔導サロン『梟たちの茶会』があるはずだ。


 老人から聞いたとおりに町を横断する。


 もう町外れに来たようだ。民家はほとんどなくなった。

 こんなところに魔導師たちがいるのだろうか。


 木々に覆われた小さな丘がある。

 この上のはずだ。丘をのぼっていく。


 丘のてっぺんには、雑草の生い茂る広場があった。

 しかし人は誰もいない。


 広場の中央に石が重ねて置かれている。

 石には落書きのようなものがあった。

 風化していて読めない。文字ではないのかもしれない。


 そして石に触れた瞬間――――。


 石の近くに大きな魔法陣が現れた。

 なんだろう……。それ以上は何も変化がない。


 魔導サロンはここで間違いなかろう。

 でもどうすれば魔導師の人々と会える?

 考えろ、考えろ、考えろ。そうだ! 


 魔導サロンというくらいだから、こうするのが正解なのではないか。

 ――よしっ、ありったけの魔導をぶっ込もう!!


 魔法陣を目がけてファイアボールを打つ。

 周辺の雑草が焼かれ、土までも燃えだした。

 おかしいな……。燃える以外に反応ナシか。


 魔法陣周辺を焼く炎に『消えろ』と命じた。

 炎はすぐに鎮火。では次の魔導だ。


 ウォーターカッターを放つ。地面が切り裂かれただけだった。

 カマイタチを打つ。同じく地面が削られただけで、状況は変わらない。

 今度は冷系魔導。地面が少し凍りついただけだった。

 土系魔導による『底なし沼』……目立った変化はナシ。


 ああ、もう、やぶれかぶれだ!


「砕けろ、魔法陣!!!」




 ここで異変が起きた。


 一面を覆う魔法陣に亀裂が生じる。

 そしてパリンと割れた。成功か?


 たちまち闇に包まれた。

 な、なんなんだ……。何が起きた。

 緊張で鼓動が高鳴る。


 やがて周囲に光がもどった。

 眼前に人がいる。四人。


 左から順に……。


 一人目は三十歳前後の男だ。とにかくガタイが大きい。

 その隣は二十歳前後の女。おっとりした顔立ちなのに、色気はムンムン。

 そのまた隣は十歳前後の子供。女の子だ。

 右端は二十代半ばの男で、目の細いキツネ顔だ。


 これらの大雑把な年齢は、あくまでも僕の目で見た推測でしかない。


 皆、突然現れた僕をじっと見ている。

 これらの人たちが例のサロンの魔導師だろうか。


「は、はじめまして。僕、シドといいます」



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