14.老人と少女
呪魔導でミニドラゴンを倒してしまった。
ミニドラゴン――。名前にミニがついていても、ドラゴンには変わりない。これまで多くの冒険者の命が、そいつらに奪われてきたのだ。
また呪魔導については、日常生活であまり使えそうにないことが判明した。攻撃特化型なのだと考えるべきだろう。回復系が使えないのはかなり残念だ。
さて。なんとか徒歩で荒野を抜けた。
ポツリ、ポツリ、と民家が見え始めた。この先はちょっとした田舎町のようだ。てことは……国境の壁のようなものはなかったけど、どこかの国に入ってきたわけだ。
町の人々とすれ違った。公園のベンチに腰をかけた。公共の井戸で水を飲んだ。皆、僕の目を見ても平然としている。怖がったり、怯えたり、追い払ったりとかはない。呪竜のような目に対して偏見は見られない。
その意味で、僕のいた国とは違っていた。呪竜の伝説など知らないのかもしれない。とても居心地がいい。
「ううう……。こりゃ、まいったな」
そう言いながら溜息を吐く老人がいた。
長い白髪に長い白髭。おとぎ話の仙人のような風貌だった。
「どうかされましたか?」
「これでは煙草に火がつかん」
肩をすくめてみせる老人。
小箱から水がしたたり落ちる。
「水に浸かっちゃったようですね」
「なーに。どうせ安物だ。買い直せばいい」
「もったいないです。僕のファイアボールで、つけてあげましょうか?」
老人は不思議そうな顔をするが、すぐに笑い出した。
「ハッハッハッ。何を言うか。ファイアボールなぞで点火しようものなら、煙草そのものが一瞬で灰になってしまうわい」
僕はにっこりと微笑んでみせた。
「火力を最小限に弱めればいいだけです」
「それだと濡れた煙草に、火がつかなくなってしまう」
「できるんです。とにかく見ていてください」
僕の呪魔導によるファイアボールは消えない炎。
小さな炎の調節は少々難しいけど、不可能ではない。
老人の手にあった煙草に、極小ファイアボールを放った。
「おおおおおおおおお!」
驚愕する老人。
きちんと着火に成功したのだ。
「ふう。良かったです」
「いいや、これでは駄目だ」
「えっ?」
老人が呆れ顔をしている。
「煙草とは火をつけたまま吸うものではない。煙だけを残して吸うものだ。確かに極小の火だが、これでは……」
そっか。失敗だったか。
やっぱり呪魔導って、日常生活じゃ役に立たないな。
「……だが、少年」
「僕は大人です。もう十五ですから」
「ハハハ、すまん、すまん。ところでさっきのは、奇妙な魔導だったな」
「はあ。まだ僕にもよくわからないんです」
それが呪魔導だということしか。
「ならばいいことを教えてやろう」
「いいこと……ですか?」
大きく首肯する老人。
「そうだ。世の中には多くの魔導師がいるが、中には変わり者も存在する。そんな変わり者の集まっているところがある。ある種の魔導サロンといったところだ。興味はあるか?」
僕はその話に強く惹かれた。魔導サロンとかいうところに行けば、僕のまだ不完全な魔導をうまく磨けるような気がしたのだ。
「はい、ぜひ行ってみたいです。そんな人たちと会ってみたいです」
老人は場所を教えてくれた。隣町にあるという。
その魔導サロンには正式名があり、『梟たちの茶会』というらしい。
老人と別れて隣町へと向かう。目指すは魔導サロン『梟たちの茶会』。どんな魔導師たちがいるのだろう。早く会ってみたい。僕は胸を膨らませた。
隣町といっても、小さな山をいくつか越えなければならなかった。
思ったよりもハードだ。途中でオークやトロールにも遭遇した。
途中に奇妙な山があった。
それは二つの大きな山の間にある『小さな山』だった。
人がめったに来ないような場所なのに、この小さな山には石段があった。
石段は頂上まで続いているのだろうか。
もし続いているとしたら何があるのだろう。
隠れ神殿? 仙人の家? とても気になった。
ふと気づいてみれば、僕は石段をのぼっていた。
てっぺんに到着。
平らな地面が広がっている。そこを覆うのは草花だ。
中央には石造りの簡素な家が建っていた。四阿といった方が正しいのか。
花の甘い香りがするので、大きく息を吸い込んだ。
「わっ」
突然、背後から声。
驚いて背筋を伸ばした。
振り返ってみると、そこにいたのは幼い女の子。
あどけない笑顔をこっちに向けていた。
大きなピンクのリボンが、いっそう幼く感じさせる。
な、なんなんだ……。
こんな山奥に子供が一人で?
親はどうしたのだろう。
「これあげる」
女の子が差しだしたのは一輪の白い花。
僕は首をかしげた。
「えーと?」
「お芋のお花だよ」
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