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13.呪魔導の恐ろしさ


 彼女に墓を作ってやった。

 こんな場所で申しわけないけど、安からに眠っておくれ。


 僕は広い荒野で一人となった。兵士も馬もいなくなった。

 多くの車両もボロボロだ。もう馬車での移動はできなくなった。

 周囲には何もない。草も生えない大地に一筋の川が流れているだけだ。



 日が暮れたので、車両内で一泊。


 翌朝、呪魔導というものをいろいろ試してみることにした。

 ここならば誰にも迷惑がかからずに済む。

 まずは夢で見た言葉を思い返した。


『開眼により封印は解かれた 呪魔導を唱えよ』


 この呪魔導って、どこまで可能なのだろう?


 一般的な魔導訓練において、基礎中の基礎といえば『火』だ。

 火系から始めてみよう。さっそくファイアボールを作ってみた。


 おや? いままでよりも、さらに炎が大きくなってるぞ。

 僕の呪魔導、まだまだ成長過程にあったのかもしれない。


 これが『消えない炎』であることは知っている。

 ただ絶対に消えないのか、もうちょっと実験してみよう。


 川辺に行った。岸にあがっている流木を発見。

 水を吸っているため、普通ならば火は点かないはずだ。

 ファイアボールを飛ばし、着火を試みる。


 火が点いた。びっしょり濡れた木でもちゃんと燃える。

 これまでのことを考えれば、まあ驚くべきことでもない。


 燃え続ける木を蹴り、川に落としてみる。

 うん、やっぱりだ。水に浸かっても消えなかった。


「消えろ!」


 そう叫んだ瞬間、火は消えた。


 よしっ、ちゃんと消えたぞ。

 ここから難易度をあげてみよう。


 川の浅瀬に沈む大きな石に狙いを定める。

 そこにファイアボールをぶつけてみた。

 さあ、どうかな?


 石が炎に包まれる。


 おお、なんで燃えるんだよ。

 石だぞ? 水中だぞ? しかもなかなか消えないぞ?

 これはまるで反則みたいな魔導だ。


 やがて水中の石は燃え尽き、炎が消えた。

 もしかして呪魔導の火って、実は火ではないのだろうか。

 ただ外見が火に似ているだけの別物だとか……?



 火系はここまででいいや。今度は水系の魔導を試してみよう。


 ウォーターカッターの威力ならば確認済みだ。

 でも僕が期待しているのは、攻撃用ではなく、飲料水としてのものだ。

 ノドを潤すものがあれば、イザというときに便利なんだけど。


 しかしウォーターカッターは、危なくて飲めたもんじゃない。

 安全な水をイメージしよう。安全ねえ……。流水は駄目だな。

 そうだ。しずくだ。大きな雫をイメージすればいい。


 まん丸な水玉が生じた。


 ところが突如、水玉は勢いよく飛んでいった。

 その圧力で地面を削り、どこまでも続く深い溝を作るのだった。

 威力はゾッとするほど凄まじい……。


 はあ。失敗だ。

 初めから上手くいくわけないよな。

 ではもういっちょ!


 その後、何度やっても失敗に終わった。


 しかし水量についてだけは、僅かばかり調節が可能となった。

 それでも僕が生成する水は、危険な凶器にしかならない。

 まあ、攻撃魔導としては頼もしいけど……。

 飲料水への利用は、夢のまた夢だ。



 風系魔導も同様だった。カマイタチは危険なものしかできなかった。

 攻撃魔導としてはじゅうぶん満足できる。だけどそれだけだった。

 凶器にしかならない。心地のいい微風みたいなものは不可能なようだ。



 冷系魔導も試した。しかし使えそうで使えそうにないことが判明。


 川を凍らせることくらいは余裕だと思っていた。しかし失敗の連続。

 拷問館ではアークトロールを氷漬けにできたのに……。

 凍らせる対象に得手不得手があるようだ。


 やはり攻撃魔導としての使い道しか思いつかない。



 土系魔導は初めから諦めた。

 どうせケルベロスを倒したときのように、底なし沼にしかならないのだろう。



 他にまだ試していない魔導は何があったっけ?


 そうだ。岩石系魔導なんてどうだろう。

 希望としては石が変形して、皿やスプーンとかなってくれれば……。


 足元の石に魔導を施す。


 はい。失敗。


 手を当ててみても、石は皿やスプーンに変形することはなかった。

 しかしビュンっと飛んでいき、大樹の幹を貫いてしまった。

 魔導をほとんど込めていなかったのに、なんたる貫通力だこと。


 飛んでいった石を発見。拾ってみた。


 よく見てみると、若干の変形が確認できた。

 丸かった石が細くなっていたのだ。しかも先端は矢尻のように鋭い。

 さらに他の石に当ててみると、それを切ってしまった。

 硬度も増していたようだ。うーむ。やはり攻撃向きの魔導だったか。



 ほかにも挑戦したい魔導があった。

 僕が最も欲している系統の魔導だ。


 それは回復魔導――。


 きょう、前神官長の孫に使用を試みたものの、残念ながら成功できなかった。

 才能がないことは理解している。でもまだ諦めたくない。

 あのときは慌てていたからかもしれない。落ち着いて試してみよう。


 さっきの石で、岩を擦って傷つけた。

 その部分に回復魔導を施してやる。


「それ!」


 岩の表面に変化はない。元には戻らなかった。

 いやいや、なんの、なんの。想定内、想定内。


 対象を生物にしなかったのが悪かった。

 だいたい岩を回復させたってあまり意味がない。

 回復させる対象は、人間でこそ意味があるのだ。


 てことで…………僕自身で試してみよう。

 さっきの石の尖った部分で手肌を傷つける。


 痛い。


 一筋の傷。少量ながら血が出てきた。

 これでいい。さあ、僕の回復魔導だ!



 ……………………?



 傷は治らなかった。やっぱり失敗。

 僕、回復魔導とは縁がないのか。


 ガックリと肩を落とした。

 地べたに腰をおろし、溜息を吐く。



 ここで殺気を感じた。

 なんだ? 顔を向ける。


 あれはミニドラゴン!!!


 名前に『ミニ』があっても、やはりドラゴンはドラゴンだ。

 デカい! ダチョウかモアくらいの大きさがありそうだ。

 角や牙は鋭く、またその目も鋭い。睨まれただけで失禁しそうだ。


 上空から急降下。こっちに来る。


 僕は座ったまま後ずさりした。恐怖のあまり足に力が入らない。

 逃げたくとも逃げられなかった。


 このままではマズい。駄目だ、食われる……。


 ならばやるしかない。最後まで抵抗してみせるのだ。

 僕の使える呪魔導をすべて使ってやれぇー。


 まずはファイアボールを打ち放つ。


 見事に着火。ミニドラゴンから炎があがった。

 よし、いいぞ! 炎は消えてない。これはいけるかも。


 続いてカマイタチを放ってやった。

 ドラゴンの皮膚は鉄より硬いと、一般に言われている。

 しかしそいつの皮膚に、無数の切り傷が生じた。

 巨躯のそこかしこから血飛沫があがる。


 ほらほら。どうした、ミニドラゴン?

 もしかして僕一人でドラゴンに勝っちゃう?


 ミニドラゴンはたまらず再度上昇していく。

 空からの攻撃に転じようとしているのか。


 そうはさせないぞ!


 飛行する巨体を目がけてウォーターカッターを放った。

 一発目で左の翼を切り落とし、二発目で右の翼も。


 ドシン


 ミニドラゴンが地面に落下。大きな首を持ちあげた。

 こっちに向かって歩いてくる。まだ戦意があるようだ。


 しかし途中でバタンと地面に倒れた。

 やはりダメージはしっかり受けていたようだ。

 ファイアボールの炎もまだ燃え盛っている。


 ではトドメとしよう。


 土系魔導で周囲を『底なし沼』と化す。

 厳密には『底なし土』というべきか。


 土に呑み込まれていくミニドラゴン……。

 頭まで地中に埋まり、咆哮も聞こえなくなった。


 これで恐ろしいミニドラゴンをやっつけたわけだ。

 呪魔導…………これ、やっぱりすごいぞ。



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