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11.アークトロール


「この呪われ人め、魔導勝負が望みかっ! ならば……」


 背後から声に振り向いてみると、兵士がファイアボールを作っていた。しかも超特大だ。もしそんなものを喰らったら一溜まりもない。


「……喰らうがいいっ!!」


 えっ、マジ!? 脅しじゃなかったの? 本当に僕にぶつけるつもりかよ。シャレになんないぞ。すぐなんとかしないと。よしっ、火には水だ。


 水系魔導で炎を消そうとした。


 しかしきのうのウォーターカッターのことが、ちらっと脳裏を横切った。あれは危険すぎる。あの兵士が死んでしまう。水は駄目だ。出かかっていた水系魔導を、すんでのところで取りやめに。だけどもう時間がない。


 兵士の手から特大ファイアボールが放たれた。


 わっ、来る!


「凍りつけぇー」


 僕が咄嗟に叫んだら、魔導が発動した。


 てのひらから白い霧のようなものが噴きだす。

 飛んできた特大ファイアボールに接触した。


 激しかった炎が、一瞬にして鎮火。


 白い霧のようなものは、その兵士にもかかった。

 彼はコチコチに固まり、動かなくなってしまった。


 仲間の兵士たちが慌てて回復魔導を施す。

 凍りついた彼のようすに、僕も動揺した。


 ヤバい、ヤバい、ヤバい。まさかまさか人を殺しちゃったか?

 死なないでくれ。生きててくれ。


「動いてよ……」


 彼の手がピクッと動いた。

 ああ、良かった。まだ生きているようだ。


 兵士たちからも安堵の溜息。


 足も少し動いたが、倒れそうになった。

 そんな彼を大勢で支え、館外に運びだしていく。


 副総監も皆に同行するようだが、ドアの前で振り返った。


「またすぐに来るからな。覚えていやがれ!!」


 広い館内で僕だけが残った。

 ぽかんとしながら立ち続ける。



 しばらくすると副総監たちは本当に戻ってきた。


 凍りついた兵士の具合はどうなのか?

 訊いてみたいけど、答えてくれるわけがない。


 副総監が僕の顔を見てニヤリとする。気持ちが悪い……。

 ただそのようすならば、あの兵士は無事だったってことだろう。


 あとからも新たな兵士がぞろぞろと入ってくる。

 大勢で何かを鎖で引っぱっているようだが。



 ん? あれって。



「はたして、お前の魔導でコイツを倒せるかな。ガハハハハ」


 副総監が自信たっぷりに笑う。


 兵士たちの引く鎖は、魔物を繋いだものだった。

 ここに戻ったときの副総監のニヤけ顔は、これが原因か。


 確かに恐ろしげな魔物だ。迫力のある顔をしている。

 初めて見る魔物だけど、何かに似ているぞ。


「あっ、トロール?」


 うーむ……。でもトロールとは少し違うようだ。


 一人の兵士がこう反応する。


「お前、知らないのか? これは単なるトロールじゃない。トロール族では最強種のアークトロールってやつだ。強さは並みのトロールの十倍、ホブゴブリンの三倍はあるだろう」


 また別の兵士はこう言った。


「どうだ、恐ろしいか? さっさと真実を吐かなかったお前が悪いんだからな。これは、病院送りとなった仲間のカタキ。そして正義のためだ。とっとと食われてしまえ!」


 あの兵士は病院に行ったのか。無事に回復してほしいものだ。


 そこの魔物はアークトロールという種らしい。大きくて強そうだ。

 じっとこっちを睨み、よだれを垂らして舌なめずりした。


 僕に襲いかかってくる。


 さっきの魔導を試してみよう。

 てのひらから白い気体が吹き出た。


 またもや一瞬で凍りつかせてしまった。

 しかも今回は、結構、巨体だったのに。

 アークトロールはまったく動かなくなった。


 ある兵士が叫ぶ。


「もうその手は食わないぞ!」


 周囲の兵士たちが魔導で熱風をアークトロールに送るのだった。

 しかしアークトロールは凍りついたまま何も変化がない。


「お、おかしいぞ? どういうことだ……我々の熱風魔導が効かないのか」


 兵士の言うとおり、よーく冷えているみたいだ。

 だったら僕が凍りついた巨躯をとかしてやろう。


 ファイアボールをぶっ放した。

 凍りついていた巨体が炎に包まれる。


 アークトロールは立ったまま丸焦げに。

 またもや兵士たちは大騒ぎするのだった。


「ひいいいいいいいいいいい! どういうことだ!!」

「我々の熱風じゃ、なんの効果もなかったのに」

「アイツ……。アークトロールを簡単に殺しやがった」

「ほ、本当に化けもんか、アイツは!!」

「瞳の周りの目の色……。やはり呪い人に間違いない」


 兵士たちは皆、館から逃げ出していった。


 僕はここで何をしていればいいのだろう。

 外に出ていいのかな。もう帰るよ? いいの?

 だけど、あとで怒られたらイヤだなあ。



 しばらくしてドアの隙間から風が吹いてきた。

 館内はたちまち甘い空気に包まれた。

 もしや、と思ったときには遅かった。


 やられた……。

 これは催眠魔導だ。僕は眠らされてしまった。




「おい、起きろ」


 目が覚めると、高い場所に立たされていた。

 ここは『東の神殿』のてっぺんのようだ。

 神殿の下は大勢の民衆で埋め尽くされていた。


 僕の手足は鎖で“がんじがらめ”にされている。身動きできない。

 兵士たちに囲まれていた。喉元には剣が突きつけられている。


 神官たちが神殿にのぼってきた。

 なんと新国王の姿もあるではないか。

 抵抗できない僕の姿を見てうれしそうだ。


 ある兵士が新国王にひざまずく。


「この者は取り調べ中、兵士に重傷を負わせました」


 まるで僕が悪いみたいな言い方じゃないか。

 真実を大勢の人々の前で話さなければ。


「待ってください。それは兵士たちが攻撃してきたからです」

「嘘を吐くな。皆、極めて冷静で穏やかに接していたはずだ。それなのに突然暴れだしやがって!」


 極めて冷静? 穏やか? 笑わせないでほしい。


「でしたら僕が理由もなく暴れたという証拠はあるのでしょうか」

「あるぞ。その両目の色が証拠だ。呪竜と同じ目ではないか」


 そんなのが証拠になるものか!


「この目は別に……」


 神殿の下で民衆が騒ぎだし、僕の声を掻き消してしまった。


「呪い人を追い出せ!」

「忌み人を追放しろ!」

「穢らわしい。出ていけぇー」


 民衆の声を聞きながら、新国王と目配せする神官たち。

 残念ながら、判決をくだすのは支配者層の彼らだ。



「この者を国外永久追放とする」と神官長。


 民衆が歓声をあげる。新国王も満足そうだ。


 どうして僕が国外追放になるんだよ。

 こんな理不尽なことがあっていいのか。

 そして…………。



 うわああああああああああああ



 僕は、熱さのあまり大声をあげてしまった。

 民衆の前で、額に焼き印をつけられたのだ。


 国外追放用の焼き印には、特殊な魔導がかかっている。

 普段は目に見えないが、帰国すれば浮かびあがるのだ。


 熱さに堪えきれなくなった僕は、てのひらから白い気体を発した。

 拷問館でアークトロールを凍りつかせた魔導と同じものだ。


 赤熱していた焼きゴテが、瞬時に凍りつく。

 焼きゴテを持つ執行者の手までも、カチカチになった。


 これを見て、騒然とする神官たち。


「呪竜の下部しもべだ」

「呪い人だ」

「忌み人だ!!」


 新国王はその場から逃げだした。

 民衆も大パニックとなった。


 ここで甘ったるい空気が漂ってきた。


 あっ、またもや催眠魔導か?

 僕は魔導耐性がないようだ……。


 意識が朦朧とする中、牢馬車に乗せられた。

 今回はまだ、かろうじて眠らずにいる。

 けれども抵抗する気力はなくなっていた。


 牢馬車が走り出す。


 そういえば国外追放を言い渡されたんだっけ。

 とすれば、いまから国境に向かうのだろう。


 神殿広場を牢馬車が進む。

 大勢の民衆が見えた。


 その中にクリルの姿を見つけた。

 孤児院の先生たちといっしょだった。

 心配そうな眼差しをこっちに送っている。


 牢馬車は停まることなく、走り続けた。

 僕の瞼は重くなり、とうとう限界に達した。



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