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10.牢馬車


 クリルは僕を心配し、この日も泊まってくれた。

 そして翌朝……。


 目を覚ますと、何やら外が騒がしい。


 窓のカーテンを開けてみる。大勢の人々がいた。

 アパートの前はぎっしりと人で埋め尽くされている。

 僕が窓から顔を出すと、彼らの声が大きくなった。



「ここから出ていけ」

「町から出ていけ」

「呪い人は出ていけ」



 わかってる。僕が呪竜と同じ空色の目を持っているせいだ。

 ただ、出ていけと言われたって、これじゃ外に出られないじゃないか。

 きのう大家にも言われたので、仕方なく出ていくつもりだったけど……。


 もうこれは朝ご飯どころじゃないな。

 それより、ここからクリルを逃がしてやらないと。


「僕が窓から皆の視線を引きつけるよ。その間にクリルは裏から逃げて」

「イヤよ。シドを置いてけるわけないじゃない」

「でもこれは僕のせいだ。クリルはなんにも悪くない」

「シドだって悪くなんかないでしょ」


 クリルは一人で逃げていくつもりはないらしい。

 ああ、僕は彼女に迷惑をかけっぱなしだな……。



 六台の馬車がやってきた。

 アパート前の人々が道を空ける。


 あれは軍用馬車だ。何故ここに?


 しかし六台のうち一台だけ、見た目の異なる馬車があった。

 車両は地味だし、小さいし、窓もない。なんだろう。


 まさか、まさか、そんな! 牢馬車じゃないか。

 どうして軍用馬車の中に牢馬車が混じってる?


 六台の馬車が停まった。軍用馬車からゾロゾロと兵士がおりてくる。

 そのうちの一人が叫ぶ。


「アパートは我々が囲んだ。おとなしく出てきなさい」


 なんで なんで なんで なんで

 まるで犯罪者扱いじゃないか!


 だとしても抵抗するつもりはない。

 おとなしく出ていく。


 クリルにはしばらく部屋に残るよう言っておいた。

 それなのにいっしょに出てきてしまった。


 兵士たちが僕を捕らえる。


「やめてぇー、シドは何もしてないでしょー」


 クリルの声を背中に残し、僕は牢馬車に乗せられた。

 牢馬車が走る。彼女の声は遠くなっても聞こえていた。


 どうしてこんな理不尽なことになった?


 牢馬車ってことは……。

 案の定、到着した場所は監獄だった。

 僕がどんな犯罪行為をしたというのだ!



 牢馬車からおろされ、小さな部屋に入れられた。

 そこで五人の兵士から尋問を受けることとなった。

 名前や出生日、現住所などの確認から始まった。


 そして……。


「お前の目はどうしてそんな色をしている?」

「僕にもわかりません。突然こうなりました」


「人間か?」

「人間です」

「嘘を吐くな!」


 嘘じゃないっ。


 僕はぜんぜん信用されていなかった。

 この空色の目のせいで……。


 どうしてこんな思いをしなくちゃならないのだろう。

 どうして瞳の周りが白くないのだろう。

 僕だって、こんな目は望んでいないのに。


 尋問中の兵士が溜息を吐く。


「どうしてもシラを切るつもりだな。ならば力づくで白状させてやる」


 彼は四人の兵士に目配せした。

 そのうちの一人が部屋を出ていく。


 しばらくしてその兵士が戻ってきた。


「準備完了です」


 なんの準備が完了したのだろう?

 僕は場所を移された。そこには『拷問館』との記載がある。

 ちょっと待った。拷問って……。


 中に入れられると、大男が待っていた。


「我は国王護衛官・副総監。新国王陛下の命を受け、お前の正体を暴きにきた。きのうから町は大騒ぎだったらしいな」


 国王の命を受けって……。


 やっぱりあの新国王が絡んでいたのか。牢馬車なんてヘンだと思った。

 で、僕をどうするつもりだ? それより何より無実を主張しなきゃ。


「すべて誤解です。僕は普通の人間、一般人です。何も悪いことはしていません」

「貴様の言葉を誰が信じるものか。無理やりにでも吐かせてみせよう」


 館内には数々の拷問器具が並べられていた。

 ガクガクと足が震える。やめてくれ……。

 どれも絵で見たことのある器具だった。


「まずはこれだ」


 兵士が僕を『針のベッド』へと歩かせる。

 しかし副総監は兵士に『待った』をかけた。


「忙しいんだ。そんな面倒なことはいい」


 剣を構える国王護衛官・副総監。

 僕を斬って終わらせようとしている。


「な、なんのつもりですか」


「罪を認めなければ殺してもいい、と新国王陛下より仰せつけられている。吐かないのならば、そのまま殺されろ」


 またもや新国王の名が出てきた……。


「待ってください。僕は無実です。吐くって、具体的に何を吐けばいいんですか」

「人間を呪いにきたドラゴンの下部しもべだ、と素直に言ったらどうだ」

「違います!!」

「吐かぬのだな。ならば――」


 副総監は剣を向け、襲いかかってきた。

 このままだとマズい。殺される!


 咄嗟に魔導を発動。


「吹き飛べ!!」


 僕が唱えたのは風系の魔導だった。


 しかし風系魔導は不得意だ。

 人間を吹き飛ばしたことなど一度もない。


 当然、彼を吹き飛ばすほどの風力はなかった。

 にもかかわらず…………。


 びゅんっと吹いた一筋の白い風。


 副総監の盾を切り裂いた。さらにそのまま彼の肩を掠っていった。

 鎧の肩先部分が切り落とされ、出血もしている。


「「副総監殿ぉ!!!!」」


 副総監に駆け寄る兵士たち。


 僕は自分の両手をじっと見つめた。いまのはなんだ。

 あれほど苦手だった風系魔導が……。信じられない。

 開花したばかりの呪魔導、こんな能力もあったのか。


 兵士たちが騒いでいる。


「なんてことだ?」

「何が起こった!!」

「どうなっているっ」


 副総監も驚愕の目で僕を見ていた。

 一人の兵士が彼に告げる。


「聞いたことがあります。鋼鉄を切り裂く風系魔導の伝説……。まさしく【カマイタチ】そのものです。しかも副総監殿の盾と鎧はミスリル合金。いま見たものは伝説以上の魔導かもしれません」


 この魔導、カマイタチってものなのか。

 僕自身のことなのに、知らないことばかりだ。


 僕の火系魔導は、焼き尽くすまで消えないファイアボールだった。

 僕の水系魔導は、切れ味抜群のウォーターカッターだった。


 そして今回、明らかになったのは風系魔導――。

 ミスリル金属すら切り裂くカマイタチ。

 他にもまだ眠っている力があるのだろうか?



 背後から殺気を感じた。


「この呪われ人め、魔導勝負が望みかっ! ならば……」


 慌てて振り向くと、また新たな兵士が立っていた。

 てのひらには、大きなファイアボールが乗っているではないか。



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