表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/35

1.追放と再会


「おい、シド。お前はここでクビだ。どこへでも行ってしまえ」


 僕に追放を宣告したのは、パーティのリーダーだ。他のメンバーもうなずき、彼に同意を示している。


「どうして僕が? いままでいっしょにやってきたのに」

「お前の魔導が役立たずだからに決まってるだろ」


 ここはダンジョンの中。凶暴な魔物を狩ってきた帰り道。この先も魔物に出くわす可能性は高い。僕のような経験の浅い冒険者が一人きりになるなんて、それは死ねと言っているようなものだ。


 僕はこのパーティのために、一生懸命に頑張ってきたつもりだ。本当に追放されるほど役に立ってなかったのだろうか? いや、そんなはずはない。だって……。


「さっきホブゴブリンを倒せたのは、僕のファイアボールがきっかけじゃないか」


 僕なりにアピールしてみた。

 リーダーが聞き返す。


「お前の極小ファイアボールが何になったって?」

「そ、それはホブゴブリンの足に命中して、少し火傷やけどしたようだったし……」


 嘘ではない。小さな炎だったが、ちゃんと着火はしたのだ。


「たったそれだけだろ。ファイアボールの炎が小さすぎる。あんなのがダメージになるものか。結局、首を切り落としたのは俺だし、お前以外の仲間二人の活躍も大きかったぞ」


 仲間の一人はリーダーに褒められ、得意げな顔になった。僕に横目を送る。


「リーダーの言うとおり! だいたいシドの魔導はどれもお粗末なんだ。この前、ファイアボールの大きさを比べたときだって、リーダーに完敗だったじゃないか。わかるか、リーダーは剣士だぞ? お前は魔導師のくせに……。恥ずかしいヤツめ」


 もう一人の仲間もこんなことを言う。


「まったくだわ。シドが報酬の『分け前』をもらうの、ずっと納得できなかった」


 そんな……。

 僕だってパーティには貢献してきたのに。

 だから反論させてもらう。


「でも例の副業(・・・・)では、僕がいたからこそ成功したんだ」


 このパーティでは皆である副業(・・・・)をしている。

 僕はそこで大いに役立っていたはずだ。


「うるせ! あのくだらない副業はもう終わりだ。いまじゃ、本業の『冒険』だけでじゅうぶん食っていけるんだ。つまりシドはこのパーティに不要。完全に用ナシだ。とっとと失せろっ。二度とその顔を、俺たちに見せるな」


 だからって……。


「いくらなんでも、危険なダンジョンの中で追放ってあんまりじゃないか」

「煩わしいっ。ついてくるな。お前はあっちの通路を行け」


 リーダーが細い通路を指差す。


「いや、だってそっちは出口方向じゃないし」

「黙れっ」


 リーダーの怪力パンチがとんできた。

 僕は腹を打たれ、地面に倒れた。痛みでしばらく動けない。

 暴力を受けることは日常茶飯事だが、なかなか慣れるものではない。



 やっと立ちあがった頃には、もはやパーティ仲間の姿はなかった。


 仕方なく一人で出口へと向かう。心細い。

 僕一人で倒せる魔物なんて限られている。

 この先、恐ろしい魔物と遭遇したらどうしよう……。

 何がなんでも皆に追いつかなくちゃ。


 しかし、いくら進んでもリーダーたちに追いつかない。

 どこまで先へ行ったのだろう。



 きゃああああああああああああああああああ



 ダンジョン内に響く悲鳴。先に進んだパーティ仲間の声ではない。見知らぬ冒険者のものだろう。凶暴な魔物に襲われたのか? もしそうだとしたら、僕が一人で行ってどうなるものでもない。助けようとしたところで、ただいっしょに死ぬだけだ。


 それでも僕の足は悲鳴の方へと向かっていた。

 放っておけるわけがなかった。助けなきゃ。


 いた。あそこだ!


 若い女が魔物に襲われていた。片足を引きずっている。負傷しているようだ。それにしても、どうして一人で危険なダンジョンにいる? 仲間はいないのか? あるいは、他の仲間が食われてしまったとか……。おっと、いまは考えている場合ではない。


 しかし魔物を目にした瞬間、僕は恐怖で身がすくんだ。


 あの魔物……ギルド図書館の資料で目にしたことがある。陸生巨大蟹亀リク・ザラタンだっけ。黒くて巨大な図体。鉄の剣では傷すらつけられないほどの硬い甲羅。分厚い鎧さえも簡単に切り裂くハサミ。実際に見てみると、想像していた以上に迫力がある。


 それでもやるしかない。たとえ強敵だろうと。

 てのひらに意識を集中し、火を起こした。


 陸生巨大蟹亀リク・ザラタンに向かってファイアボールを放つ。

 見事命中! 陸生巨大蟹亀の甲羅に着火した。小さな炎をあげている。


 だけどやはり炎は弱々しい。

 少しはダメージになってくれればいいのだけど……。


 甲羅の小さな炎はまだ消えていない。このまま燃え続けてくれ。


 彼女を追う陸生巨大蟹亀の足が止まった。

 どうやらヤツのターゲットは、彼女から僕に切り替わったようだ。

 こっちに向かってくる。いいぞ。このまま囮になろう。


「いまのうちに逃げて!」


 彼女に向かって叫び、ファイアボールをもう一度生成。

 陸生巨大蟹亀に喰らわせる。また着火に成功。今度は大きなハサミに。


 僕は背中を見せながら逃げていく。


 陸生巨大蟹亀は恐ろしい魔物だが、足は速くなかった。

 僕がゆっくり走っても、追いつかれることはなさそうだ。

 だからといって、全力疾走で引き離してはならない。

 ふたたびターゲットが彼女に戻ってしまうからだ。


 不思議なことに、甲羅やハサミの炎はずっと燃え続けていた。

 火ってなかなか消えないもんだな。


 陸生巨大蟹亀の走りが徐々に遅くなっていく。

 体が大きい分、スタミナがないのか。

 とうとうヤツの動きは止まってしまった。


 あれっ、どうした? もう追うのを諦めたか?


 ヘンだな。ぜんぜん動かなくなったぞ。

 ヤツにそっと近づいてみる。


 えっ!?


 どうしたことか、ハサミ全体が真っ黒に焦げている。

 もともとヤツの体が黒っぽかったので、気づかなかった。

 甲羅も全体が焦げてただれているではないか。


 これってまさか、僕が倒した? 

 弱々しい炎がこんな強敵を?


 ありえない。だって僕は劣等魔導士じゃないか。

 陸生巨大蟹亀を倒せるはずがない。いったいどうなってる?


 もしかして僕のファイアボールって……。

 いやいや、まさかな。


 僕はやっぱり劣等魔導師。地味な魔導しか使えない。

 ファイアボールにしたって、剣士のリーダーにも劣るほどなのだ。


 ――このときの僕は、まだなんの自覚もなかった。弱々しい魔導の上辺うわべだけしか見ることができなかった。しかし、もうじき自分の魔導の恐ろしさを知ることとなる。それは世にも恐ろしい【呪魔導】と呼ばれるものだった――



 僕の視界に人影が映る。


 足をひきずっている。さっきの彼女だ。逃げるように言ったはずなのに、こっちに来ちゃったのか。それじゃ僕が囮になった意味がないよ。陸生巨大蟹亀は死んだからいいものの……。


 徐々に近づいてきた。

 その姿が鮮明になってくる。


 あらためて彼女を目にすることとなった。

 眩しすぎる笑顔。それはまるで天女。

 二つの美しい瞳にドキッとした。


 あれっ?


 古い記憶がふわりと蘇ってきた。彼女の顔に見覚えがある。

 悲鳴に駆けつけたときは、ぜんぜん気がつかなかった。

 だけど昔の面影がちょっと残っている。


 僕は彼女のことをとてもよく知っていた。

 見ないうちにすっかり成長したものだ。


 ああ、なんだか涙が溢れそうだ。

 キミは……と、僕の口が開きかかる。


「あなた、シドよね?」


 彼女の方が早かった。

 僕も遅れて声を発する。


「クリル……」


 それが彼女の名前だ。口にするのも懐かしい。

 でもどうしてこんなところに?



この第一話をお読みくださり、ありがとうございます!!


もし少しでも

「面白そう」「続きも読んでみよう」「暇つぶしになったかも」

と思いましたら、

【ブックマーク】【星マークの評価ボタン】

で応援をいただけますと、大変うれしいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ