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「浮上する水分子」

「サンド博士、聞こえますか?」とクラシスから連絡が入った。

 サンド博士は爆心地が地下のマスゴット全領域であることを伝えこれから起こり得ることをクラシスに伝えた。

「クラシスは、アスカの任務終了後直ちにサーセットに戻って、アスカは、自分のやるべきことに集中して、いいわね」と励ますようにサンド博士は伝えた。


 アスカは、一度、車を出て崖の方に歩みより、都心部を見た。車の後ろの窓から見た大きな建物はどこにもなく砂煙が横断シャトルに沿って立ちのぼる。それはまるで、宇宙から地上へカーテンを引いて太陽の光を遮るような光景だった。

 アスカは震える手を力強く握り、両手で震えを止めようとした。震えが治ると、みるみると体が軽くなって行くのを感じた。

「重力制御装置が停止してた可能性がある」と冷静だったはずのクラシスが叫んでいた。


 アスカの立っている崖から左方向を見ると海が見え、そこから水蒸気であろう。水分子が水面から蒸発しているように空へと立ち上っていた。

「海から雨が逆さまに降ってる」とアスカは呟き、強く握りしめた拳を目の前でゆっくり開いた。手汗がゆっくりと手から離れて空へと舞い戻って行くのをアスカは逃さないように目で追った。


「アスカさん、シミュレーションが整いました。来てください」とクラシスに呼ばれた。

 クラシスによると、重力制御装置が停止したことで、気圧も下がり、重力も減少したため、条件を整えるために、重りを腰にくくりつけると説明を受けた。近くにある石を集めホログラムに通し重さを測り、袋に入れて腰に巻き付けた。パラシュートを背負い、空中車に乗り込み、目指すは、高度四千メートルだ。空中車がフワッと浮き四千メートルに向かう途中、クラシスは、前を見ながらアスカに伝えた。


「やがて、この星は、ゼノスにより、物質は粒子まで紐解かれる。また、バリアフィールドも機能停止し、隕石の落下と太陽フレアの影響も避けられない。サンド博士はこの星の生命を手のひらサイズの超小型ロケットに集約し飛ばすはずだったけど、この状況下では、それは、もはや不可能だ」とまっすぐ前を見ながら話した。バックミラーに映るクラシスは泣いていてアスカは言葉を発することが出来なかった。


「アスカさん着きました。どうかご無事で」とクラシスは振り返り、片腕で握り拳を作り、ガッツポーズ、ニッコリと笑った。

「ありがとうございます。行ってきます」とアスカは、安心して、両手袋を装着して顔をパンパンと叩き、気合いを入れ直した。

 空中車の扉を開き、クラシスにガッツポーズをして、スカイダイビーングと言いって、空中車を蹴り出し外に出た。


 やがて、身体は、自由落下し始めて、体の重さを感じなくなり、フリーフォールポジションを取ると、体が安定した。横目で都心部を見ると、ゼノスの消去コードが発動したのか、都心部から円状に物質が気体に変わって行くように消えて行く。都心部と境界であった緑の森はみるみるうちに消えアスカの方に押し寄せてくるのを感じた。


 アスカは、目を閉じて、意識を集中した。心の中でお父さんがヨッシと叫んだ瞬間、ピーッとリングからアラームが鳴ると同時にパラシュートを開いた。時が止まるような感覚に襲われたアスカは、ゼノスの消去コードに飲み込まれたのだと思った。


 身体が優しく紐解かれ全ての感覚が大気と同化し、それは暖かくていつまでも漂っていたいと思う気持ちとなった。アスカは、ゆっくりと目を開けた。パラシュートを開き速度が減速して行くのを感じ、アスカの涙は頬をつたい下に流れていることを感じた。目を開けると、白い雲の下には、当初の目標地点であった。芝生が見えた。「私、生きてる」とアスカが呟いた。


 体にくくり着けた重しにより、パラシュートが、耐えきれず中心からへしゃげるように折れ曲がり始めた、急いで重しを体から外した。戻り始めたパラシュートはやがて、スピードが安定し、雲を抜けて目標地点に到着した。


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