「政府」
ミラナを後にして、車は都心部に向かった。都心部では、横断シャトルと言われる地下十キロメートル、全長二千キロものシャトルが地下空洞貫き何本も走り、端から端を二時間で繋いでいた。都心はそのちょうど中間地点であり、建物は頂上が見えないほど大きく、映画で見たような未来都市がアスカの前に広がっていた。
大統領と会う前に、アーノルドはアスカと一緒に正装を買った。店で服を選ぶとホログラムに覆われ、指定した衣服をそのまま着た感覚で試しはきすることが可能だった。また、食事は、ステーキを食べたが、機械的に細胞分裂された肉であることを伝えられた。遥か昔は、養殖してそれを捌いて食べていたそうだとアーノルドは言っていた。今は植物や動物は殺さずに細胞を培養してレーザーにて細胞分裂させて食事をしている。自然界は手をつけていないのだと話していた。
街を歩いている人は、細いリング状のティアラを身につけている。アーノルドさんが言うには、リングシステムと呼ばれる。政府が推進する事業の一つでいずれハルスと繋げ、人類の情報を一つに管理し生活水準の向上を図る。それは、表向きな推進事業。裏には、ハルスを使用し、脳波の制御を政府側から実施出来るようにするシステムだ。しかし、ハルスのディープランニングが予想を上回るスピードで終了し、ハルスは政府の手から離れてしましい。もはやハルスを制御出来なくなってしまった。
ハルスは、独自に科学機関か研究機関のシステムを作動し、自然界の電化を利用、魂の粒子を作り出し、人間の魂を乗っ取ろうとしている。そして、人間の集まりそうなホログラムを作り出し人間が入ったところで、魂を侵食するのだと再度説明した。ハルスの作り出したホログラムは一見すると区別がつかない、そのために、リングシステムを利用し、アプリを政府から特別発令しハルスのホログラム半径100mに近づくとアラーム、警告をホログラムにて表示されるシステムを導入するように大統領に伝えるつもりだとアーノルドさんは話していた。
街中には、魔女のような黒いマントに身を包みホウキのようなステッキで先端からホログラムで破滅的な映像を写し出し叫んでいる年老いたおばあさんがいた。
「この世界の破滅はもうすぐじゃ。みんな急げ、避難した方がいい。早く地下シェルターに移動するんじゃ」と大声で伝えていた。
アーノルドは、それを横目で見て、あながち嘘じゃないなと呟き、私たちも大統領邸に急ごうとアスカに伝えた。
アーノルドとアスカは車に乗り込み大統領官邸に向かい、セキュリティを通過した。アスカは、アーノルドの補佐官の名目で同行の許可が降りた。
大統領邸の中に入ると大統領補佐官が待っていましたとばかりにアーノルドを大統領室に案内した。扉を開けると、大統領が近づいてきた。
「アーノルド君、ハルスが制御出来なくなり、アプリの発信を余儀なくされている。そこでお聞きしたいのだが、ハルスの制御は可能か?」とアーノルドに質問した。
「私達が、ハルスの中に侵入することはほぼ不可能です。ハルスを止めるには、二つの方法があります。一つは、全世界のシステムを一度シャットダウンしなければなりません。それは、文明の崩壊を意味します。もう一つは、ゼノスを使用するかです。さらに、ハルスは独自のホログラムシステムにより、人間の魂を侵食しています。精神病院の原因不明の患者は、魂を侵食されている可能性が高いです。そして、動物の変死体なども報告されていています。すでに生き物にも影響を及ぼしていると考えます」とアーノルドは的確に伝えた。
「では、人類が生き残るには、横断シャトル建設時に同時に建築していた地下シェルターmassGodを利用するしかないのか」と大統領は呟いた。
マスゴッドとは、人類最後の砦とされ、外部と完全に遮断された空間であり、内部空間で大気、重力が設定が可能。食べ物も機器による細胞分裂と培養により永久的に作り出すことが出来る。そこは、人工知能ゼノスが管理し、同時に核エネルギーシステムも兼ね備えている危険な場所でもある。
「アーノルド君、ハルスの侵食にあった人間とそうでない人間をどう区別できるんだね」
「現状では、非常に難しいです。一刻も早く、リングシステムに特別発令のアプリを警告し、ハルスのホログラムに入ったものとそうでないものとを分けて、入っていないものから順に地下シェルターに誘導する方法がいいかと思われます。また、精神病院のデータから体に変異が出現している患者の統計を取り分析、身体に変異が出ていない人達も一度、地下シェルターに入る前にスキャンシステムを通り抜けてもらい選別していくしかないかもしれません」とアーノルドは答えた。
「確かに、その方法が妥当か。至急、大統領発令の準備、精神病院へのデータ開示とその分析と統計を出してくれ。何よりも最優先で進めてくれ」と大統領は補佐官に伝えた。
「アーノルド君、ありがとう。国民に説明に行って来るよ」と大統領はその場を去った。
アーノルドとアスカは、駐車場に戻り車を発進させようとした時に大統領補佐官が走ってきて、これを使いなさいと空中車のキーを渡して来たが、アーノルドは何故か断り挨拶をして大統領邸を立ち去った。
「なぜ断ったの?」とアスカは疑問に思った。周りの車はタイヤがなく浮いている車もある。単純にそっちの方が移動が早そうに思えたのだ。
「もちろん重力制御装置の車は早いが、膨大な情報を政府が管理している。どこで何をしているかすぐに分かってしまうのだ、だから私は必要最低限の情報を自分で管理し、政府側に情報が漏れないようあえてしているんだ」と答えた。
「何故、政府の人間が政府に情報を与えないようにしているの?」さらに疑問をアスカは投げかけた。
「今から行くところがその答えだ。まあ少し休もう」と言って自動運転に切り替えシートを倒して寝はじた。アスカもシートを倒した。モニターには、先ほどの大統領がマイク越しに特別発令の説明を行なっていた。アスカも眠りについた。
アスカが目を覚ますと林の中、雨が降っていて、車は止まっていた。アーノルドは、ボードのモニターを見ながら作業をしていた。
「おはよう、起きたのかい? これを食べたら、また、ついて来て欲しい」とアーノルドは、パンとミルクを差し出した。
「ここはどこですか?」とアスカはパンを食べながら質問した。
「ここは、反政府組織サーセット本部だ」とアーノルドは答えた。
「アーノルドさんは政府の人間じゃないんですか? スパイ的な感じ? どっちのスパイ?」とアスカは、パンを食べずに聞いた。
「そうだね。私は、どちらでもある。今、このような事態になってしまうことは、想定出来ていたが、その時期が早すぎた。生きている人間を守るには、政府の力が必要、しかし、自然界の残された動植物を守るためにはサーセットの力が必要なんだ。政府は法律で、自然界の動植物は手をつけてはならないと厳しく罰則を設けている。また、研究機関は政府の管理下に置かれて全ての情報が政府に管理されている。この状態だと、政府の機関が停止するか、または、動植物の情報が人工知能の影響を受けかねない。そのために独自の機関を立ち上げて、人工知能を排除した純粋な種の保存を行っている。今からサンド博士に会って今後の計画について話し会う」とアーノルドは言った。
アスカは慌ててパンを口に運びミルクを飲んだ。アーノルドがリモコンのスイッチを車の中から押すと、ガチャンと止まっている車ごとエレベーターが下がるように地面の下に降りて行った。
「地下にサーセットがあるんだ」とアスカが窓を見ながら呟く。