「アスカができること」
「私が、この体験を言葉にして、地球人の記憶として残しておいて、いずれ火星に行く宇宙飛行士が私の物語を知っていて、地下に住むサンド博士の子孫に会った時に、この物語を伝えて欲しいの。そして、DNAを見て欲しいと頼むの、もし、火星の人たちが、私のことを伝説として語り継がれていたら、話が噛み合うんじゃないかなって思って」とアスカは話す。
「それって、なんだか、素敵な話だよね」とユイは、アスカを見て微笑んだ。
「確かに、四十六億年の話が噛み合うなんてそれ以上素敵なことはないか、しかも、DNAが証拠の裏付けとなると、当然争いもしないよな。なんだか、アスカは、火星の最後の記憶を再び火星の人たちに伝えるような役割を持っているみたいだな」とヨシキは頷きながら、アスカの話を聞いた。
「それ、パソコンでなんて言うんだった?」とユイ。
「記憶がなくなっても大丈夫なように保存すること? バックアップ?」とアスカ。
「そうそう、バックアップ! 重力波に波乗りしたから、アスカは、バックアップ重力波だね」とユイは満足げに微笑んだ。
「何それ」とヨシキもアスカもつられて笑った。
「これから、大学の入学式まで春休みじゃん。文章が苦手なアスカでも時間をかけながら、書けるんじゃない。火星の人たちと今後、火星に行く地球人に向けて物語として、小説として、書いて見たらいいじゃん」とユイはアスカを促した。
「そだね、文章は苦手だけど、私が体験したことを私なりの書き方で書いてみようかな」とアスカはユイに伝える。
「そうそう、下手でもいいじゃん。書かないと、火星の人たちと仲良くなれないんだからね。私は、火星の人たちと仲良くなりたいな」とユイはアスカに念を押した。
「ヤヒコが大人になったら、宇宙飛行士となって、火星に行くかもしれないから、大きくなったら、ヤヒコにも伝えておいた方がいいんじゃないか。もしかしたら、火星人とのファーストコンタクトは、案外、ヤヒコかもしれないぜ」とヨシキもアスカを後押しした。
「火星人とのファーストコンタクトは、アスカでしょ。もう。少し抜けてるんだから」とユイはヨシキにツッコミを入れた。ヨシキもそうだったと頷き笑った。
ガラガラと美術室のドアが開き美術の先生が入って来た。
「あなた達、まだいるの? 他の卒業生は帰ったよ。早く帰りなさい」と言った。時計を見ると、五時半を過ぎ夕日が教室に差し込んでいた。
「先生を待っていたんです!」とヨシキは、タブレットをセッティングして、先生を真ん中に誘導して、記念写真を撮った。
三人は、アスカが言葉に書き記した時に会う約束をしてそれぞれの帰路につく。その帰り道でアスカは、火星の人たちに伝えたい、壮大な記憶の物語が存在していたことを、この記憶があれば、きっと火星の人と仲良くなれるかもしれない、そう思いながら自転車を漕いで自宅に帰った。
アスカは、家に帰ると部屋に篭り当時の日記を見ながら早速書き始めた。
「アスカご飯出来たよ」と一階からフミカの呼ぶ声がして、「はーい」と行くとトンカツが食卓に並べられいい匂いがした。
「今日の晩ご飯はうまいぞ」と言いながらマコトは席に着く、フミカは「今日もでしょ」と突っ込んでいた。
そういえば、あの日の夕飯もトンカツだった。日常の繰り返しは日々の積み重ね、思い出の記憶は時間を超えられる。それは、記憶がある限りどんな時も一瞬で超えられる。でもそれは、一人の記憶の中。しかし、言葉で記すると、万人が一瞬で時を超えられる。時代を超えて来たシェイクスピアの小説のように。
それからアスカは家に篭りひたすら書き続けてようやく完成した。
アスカは、ユイとヨシキに連絡をして、近くの神社で集合した。
一番に到着したアスカは、自転車を駐輪場に止めて、神社の前のベンチに座り二人を待った。
「久しぶり! 書けたの?」とユイが駆け寄って来た。
「久しぶり! なんとか書けたよ。読んで欲しいの」とユイに印刷したプリントを渡した。
二人でベンチに座っているとキキッーとブレーキ音をたたて一台の自転車が止まった。
「ヨウ! 遅くなった。書けたんだな」と自転車に座ったままヨシキは挨拶してきた。
「危ないじゃない。引かれるところだったよ」とユイが言う言葉に触れずヨシキは、アスカのプリントを手に取りそのまま読み始めた。
しばらく二人は読み進めた。
時間が立ち「どう?」とアスカは聞いた。
「まあまあ伝わるよ、神主さんにも話してたんだね。俺の言った言葉も言った通りだし、思い出すよ。ユイに足を踏まれたのを」とヨシキはユイを見た。
「私も踏まれたでしょ。痛かったんだからね」とユイ。
「それにしてもよくここまで詳細に覚えてるな」とヨシキはアスカに聞いた。
「私、毎日、日記にその日合ったことを綴っているの」とアスカは答える。
「だから、完成も早っかったんだ。アスカが完成と聞いてビックリしたもんな。卒業式からあまり時間経ってなかったからさ」とヨシキは感心したようにアスカに伝えた。
「私、日記は書けないな。何を書いていいか分からないもんね」とユイが言うと、「対して何もないから書けないじゃない」とヨシキが嫌味そうにユイに伝えると「ほら、また私が何もしてないみたいな言い方してる。私だって毎日、色々あるんだからね。ただ書いてないだけだもんね」とユイが返す。
「まあまあ、みんな毎日色々あるし、大変だよ」となだめるアスカ。
「それにしても、これ何処に出すんだ?」とヨシキは、アスカに尋ねた。
「それが、公募しているSFかファンタジーになりそうだけど、字数が決まってて、字数が足りないんだ」とアスカ。
「字数制限があるんだ。せっかく書けたのに出すところがないなんて、ショックじゃん」とユイがアスカの変わりに嘆いた。
「字数が決まってなくて、期間に制約されず、世界に発信できるところが必要か」とヨシキは考えた。
「ネットに投稿してみたらどう?」と思いついたようにユイがアスカに伝えた。
「ネットはなんだか抵抗あるな」とアスカは首を傾けながらユイに話す。
「そうだよね。でも、このまま、字数を無理やり増やして応募して、もしダメだったら、日の目が当たらないままアスカが体験したことが何もなくなったら、当初の目的である、サンド博士の先祖との仲良しもなくなるじゃない」とユイは続けた。
「確かに、そうだな。長い期間待って、ある特定の審査員の判断でボツになると、その待ってた期間も勿体ない感じがするからな、その時間でたくさんの人が読んでくれた方が、いいんじゃないか」とヨシキはユイに同意した。
「そう考えるとネットもありか」とアスカは、頷いた。
「でも、ネットの投稿難しそうだよね」とユイはヨシキを見る。
「原稿のデータは、タブレットに入れてるのか、一緒にやってみようか」とヨシキはアスカに伝えた。
三人は、ネットの投稿サイトを開き、投稿するやり方を調べ始めた。
「なるほど、なんとなく分かったわ。ネットの方にも応募とかもあるんだね」とアスカは、頷いた。
「せっかくだから、投稿して応募もしてみたらどう?」とユイはアスカを見た。
「そうだね。やってみようか」とアスカは、ネットに投稿し始めた。
「投稿出来た!」とアスカは顔を上げた。
「見せて」とヨシキが手を出し、アスカは、ヨシキにタブレットを手渡した。
「ちょっと待て、アスカ、投稿日の設定間違っていないか」とヨシキは言い、手を出すユイにタブレットを渡した。
「どれどれ、うん? 投稿日が、十年前の今日の日付けになってるよ」とユイは、タブレットをアスカに戻した。
「あれ? 2031と2021、3と2を間違えて投稿しちゃってる。大丈夫かな」とアスカは、心配そうにユイを見た。
「でも、十年前から投稿してることになると、たくさんの人に読まれるんじゃない。その方がいいじゃん」とユイは励ました。
「おいおい、表示が間違ってるだけで、十年前の人が読めるはずないだろう。パソコンのデータは、投稿した現在から、未来に向かって蓄積されるんだぜ。そこの時空は越えられないよ」とヨシキは、呆れた様子で二人に伝えた。
「そうだよね」と二人は笑った。
「まあ、大丈夫だろ、せっかく神社に来たんだ。お参りしにいこうぜ」とヨシキは、二人に提案して自転車を降りて駐輪場に自転車を止めた。
三人は、鳥居の前でお辞儀をして手を洗い、階段を上がった。両脇の狛犬に会釈をして、お賽銭を入れて、鈴を鳴らした。
アスカは、投稿した物語がみんなに読まれますように、新しい大学生活が順調でありますようにとお願い事をした。
お願い事を終えると、三人は、顔を見合わせて、宮司さんに岩を見せてもらおうと頷いた。
宮司さんを訪ねると、「おやおや、皆さん三人揃ってどうされました」と問いた。事情を聞いた宮司さんはお辞儀をされて、三人に座布団を用意して、三人は正座で座った。
宮司さんは、奥から岩を乗せた長三宝を両手で持ち三人の前に戻って来た。
「おおー!」とヨシキは、声が出た。
三人の前に長三宝が置かれて「どうぞ、ゆっくり見ていって下さいね。」と宮司さんは、また、奥に入って行った。
ヨシキとユイは、岩を覗き込み、ここかと割れた隙間を指さして覗き込んだ。
「これは、なかなか、ミステリー感があるな。」とヨシキは興味深く頷き。
「これが四十六億年の歴史だね。」とユイはアスカに顔を向けて笑顔で伝えた。
三人は、宮司さんにお礼を伝え、駐輪場に向かった。三人はまた会おうと自転車に跨り手を上げた。
これから三人は、地元を離れ、別々の道を歩み出す。それぞれの道に三人は自転車を漕ぎながら歩み出した。
終わり。




