走れ
まっすぐな道を走っている。
白い土の道が、地平線までずっと続いていた。古びた二輪車のエンジンが、一定のリズムを刻んでいた。荷台に満載の荷物が、時々大きく上下に揺れる。
旅人は、ゴーグル越しに道のずっと先を見ている。カーキ色の厚手のコートが、時折風にひるがえった。
「やあ、やあ」
声をかけられて、旅人は二輪車を止める。歯の抜けた老人が、草の上に布を敷いて、露店を作っていた。
「魚はどうだい」
老人は、枝のような手で商品を示す。木箱一杯に、みずみずしい魚が入っていた。帆布の日よけの下で、一匹の魚が派手に跳ねる。
「活きがいいね」
「獲れたてだとも」
旅人は、ぐるりとあたりに視線を巡らせる。
「どこに湖が?」
地平の果てまで、味気のない草原が広がっている。
「そこかしこに」
老人は、ひゃっひゃっと間の抜けた笑いを漏らした。
魚を数匹買って、その場で捌いてもらった。満載の荷物から金属棒を引っ張り出して、そこに開いた魚をくくりつける。
「どちらへ?」
老人の問いに、旅人は道の先に視線を向けた。
魚がすっかり干物になったころ、道端に小さなテントがあった。旅人が二輪車を止めると、中から少女が顔を出す。
「もう朝?」
「ずっと朝だよ」
「そう。何か買っていく?」
少女はテントの中から、小瓶が入った箱を引っ張り出す。
「星の砂を集めているの。溶かして飲むと病気が治るよ。どれも新しい」
「どこに流星地が?」
「そこかしこに」
少女が笑う。旅人は瓶を一つ買って、二輪車にまたがった。
「こんな夜更けに、どちらへ?」
少女の問いに、旅人は、白く輝く道の先に視線を向けた。
道の眩しさに目が痛くなったころ、白い道を、一人の男が塞いでいた。さび付いた二輪車の横にしゃがんで、熱心に手入れをしている。
「すまないね」
男は振り返らないでそう告げる。旅人と同じカーキ色のコートは、地面に擦れて砂に汚れていた。
「どちらまで」
旅人が問う。男は立ち上がって、黙って道の先を指差した。
男をよけて、旅人は道に戻る。
「どちらへ」
男の問いに、旅人は振り返らずに答えた。
「この道の先まで」
道の先からの風に、海の香りが混ざっていた。




