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虹色の粒

 夏休みの間、父方の祖母の家に一週間ほど預けられたことがあった。祖母の家は、生垣に囲まれた広い庭があって、バラのアーチがあったり、古い井戸があったりと、洒落た洋風の屋敷だった。レンガ造りの離れがあって、そこは、いつでもハーブの香りがしていた。真ん中に黒い大鍋でも置いたらそのまま、漫画に出てくるような魔女の家になりそうだった。

 絵本を持てるだけ持って、そこにこもるのが好きだった。小さな窓から日差しが入っていて、乾燥中のハーブが風に揺れていて、絵本を読んでいるうちに寝てしまうことが多かった。


 その日も眠ってしまって、誰かが扉を開けた音で目を覚ました。日が差し込んでいたので、眠ってからさして時間は経っていなかったと思う。

 隣の家の子だと言っていた。古い大きな本を持っていて、一緒に読もうと誘われた。


「この本、虹の粒の取り方が書いてあるんだよ」


 虹の根元には宝物があると信じて疑っていなかった年頃だから、その男の子の話もあっさり私は信じた。虹の粒。絶対に綺麗に決まっている。


「虹の粒を探しに行こう」


 そう言われて、私は少し悩んだ。あんまり遠くに行ってはいけないと、祖母には再三言われていたから。


「おばあちゃんに聞いてからでもいい?」

「うん」


 私が出ていった後ろで、ぱたんと本を閉じる音がした。

 祖母は、真っ赤な顔をした私を水風呂に放り込んで、あんまり暑いところで寝ちゃ危ないよとちょっと怒った。その後すぐに眠ってしまったので、虹の粒のことなんてすっかり忘れていた。

 約束を破って、怒っているかもしれない。そう思うと、翌日からなかなか、離れに近付けなくなった。きっとあの男の子も帰ったろう。そう、勝手に思い込むことにして。

 迎えに来た母の車の中から、隣の家がちらっと見えた。鬱蒼と茂った木々の向こう。絶対に誰も住んでいないような廃墟があった。



 瓶詰の金平糖を持って、数年ぶりに祖母の家に来た。遺品の片づけがひと段落して、私はあのレンガの離れの鍵を貰った。気に入っていただろうからあげると言われた。車で三時間もかかるのに、貰ってもしようがない。そう思ったけれど、ありがたく貰うことにした。

 いつだったか置き忘れた絵本と、カサカサになったハーブの破片が落ちていた。汚れた硝子窓から日が差し込んでいて、床に四角い陽だまりを作っていた。


「あのときはごめんね」


 金平糖を陽だまりに置いた。

 いいよ、と、壁際の暗がりが言った気がした。

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