文学少女幻想
白百合のような娘。
それは、文庫本の中にしか存在しない、そうあれかしと願われた美しい少女の幻想。小鳥のように笑い、蝶よ花よと可愛がられ、ハイカラな話に花を咲かせているような。
穢れを知らない、無垢で、愛らしくて、誰もが守らなければと思うような存在。
「大人とデートして金貰ってるし、それで化粧して夜遊びに行くし、土下座して頼むなら一発くらい許してやるけど?」
僕がそんな幻想と重ね合わせていた文学少女は、僕を足蹴にしてせせら笑った。
白百合のようだと思った君は芯まで真っ黒で、外見ばかり毒々しいほど美しくて、同じ年ごろの男女全員を見下していた。だから、取材と称して近付いてきた僕みたいな存在は、一番気に入らなかったんだろう。
「いーよ、学校新聞に書いてもさ。優等生の裏のカオ! とかショッキングな見出しつけたらウケるんじゃない?」
そんなことをしたら、いろんな意味で問題になる。それに、どうせデマだと僕が教師に怒られておしまいだ。
「どうして?」
だから僕は、無害ですよって顔でそう言った。
「君は優等生だ。だから、そんなことをして、評価を下げる意味なんかないだろうに」
「……何? 理解者にでもなろうっていうわけ?」
僕が読むような漫画や小説では、優等生ほど腹黒くて、家庭環境がきつくて、親子関係が冷え込んでいたりする。現実にそんな人間はそうそういないと思いつつ、彼女を見ると、心の奥底が沸き立つような気持がした。
幻想だと思っていた存在が、実在する。こんなにゾクゾクすることはない。
「ならないよ。君の事情なんて、僕はどうでもいい」
胸についた足跡を払って、僕は精一杯の笑顔を見せた。昔から、作り笑顔が気持ち悪いと言われている。だから、今彼女が見ている僕の顔は、さぞ。
「だから、君を取材させてほしいんだ。君がどうなろうと、僕は知ったことじゃないから」
知られることを、君が、嫌がっているとか。
暴かれることを、君が、恐れているとか。
優等生の仮面を、君が、捨てたがっているとか。
他人の無理解を、君が、望んでいるとか。
そんな君の事情は、僕にはどうだっていい。僕は君が白百合のような娘であると今後も思い続けるし、紙の上にしか存在しない幻想と君を重ねて、その裏にある穢れとのギャップにゾクゾクする。
僕はどうしようもなく利己的な人間だ。勝手に君に幻想を重ねて、勝手にその穢れを喜んで、勝手にその現実を観測しようとしている。そんな、醜悪な存在。
カメラ越しに、物凄く嫌そうな君の顔が見えた。最高だ。
「君が望むなら、最高の優等生を演出してみせよう」
だってその方が、面白そうだから。
綺麗なものは汚したい。無垢な瞳は濁らせたい。文学の中にあった少女幻想はいつしか反転して、少女にこそ業を背負わせて、その中に残る美しさを求めている。
完璧な少女。白百合のような娘として君を飾り立てて、ありもしない幻想と彼女が重なっていった瞬間、現実を見たら。誰もが、騙されたと怒るだろう。ただ現実を見ているだけなのに。幻想と現実の区別がついていないだけなのに。
「君は最高の題材だ!」
その瞬間、針のむしろに座るのが君だとしても、僕は一向にかまわない。
「……気っ持ち悪い」
吐き捨てた君が、ほんの少し、笑ったような気がした。




