共犯
言葉を届けたい相手がいる。
言葉には力があると万人が言う。けれど、それは相手が聞く耳を持っていればの話だ。こちらを一度も振り返らないような相手に何を言っても、なしのつぶてになってしまう。
そんな相手に、僕は何ができるんだろう。
「一緒に帰らねえ?」
露骨に嫌そうな顔をしたそいつを、昇降口まで引っ張っていく。気をつけて帰れ、と言う教師に「はーい」と返事だけをして、自転車に乗った。
「そら、乗れよ」
僕が言うと、二人乗りなんて、とそいつは首を必死に横に振った。でも僕は知っている。二人乗りに、青春ちっくな憧れをお前が持っていることを。
だから僕は、荷台にそいつを乗せた。高校からの緩やかな下り坂を、一緒に降りるために。
「危ないじゃないか!」
坂の下で怒るそいつの顔に、冷たいアイスを押し付ける。
「怒れるんじゃん、お前も」
褒められた行為じゃないっていうのは百も承知だけど、悪いことは、正直楽しい。やっちゃ駄目って言われるほどやりたくなるし、見つかったら怒られるっていうスリルもある。
「とにかく、二度と二人乗りなんかごめんだ。それに、今日は七時に母さんが迎えに来るから、それまで勉強しようと思って」
「溶けるから食えよ。ベンキョーは机の前でできることばっかじゃねーじゃん?」
「………………」
「七時まで三時間くらいか。んじゃ二時間カラオケ行って図書館でテキトーに勉強してるふりしてればいいじゃん」
「カラオケ……」
ほら、ちょっと行きたくなってる。
「カラオケ苦手なら、お前が行きたいところでもいいけど」
空になったアイスのからをゴミ箱に放り込んで、自販機の前に立つ。と、そいつが、僕の前ににゅっと腕を出した。
「これがいい」
「へえ、お前コーラとか飲むんだ」
「炭酸は身体に悪いって、いつもは禁止されてる」
僕はサイダーで、そいつはコーラ。日ざしの中で、缶の表面についた雫がきらきらしていた。
「……これ、俺の精一杯の悪いこと」
「へえ」
自転車に半分座って、僕は缶を差し出す。そいつが乾杯をして、重くて鈍い音がした。
「じゃ、僕も共犯だな」
「共犯……へへっ」
初めてのコーラに顔をしかめて、それから笑う。
「タピオカっていうのを飲んでみたい」
「へいへい、主犯様の仰せのままに」
「俺一人に押し付けようとしてる?」
んなわけねーじゃん、とサイダーを飲み干して、荷台にそいつを乗せた。
「でも生徒指導の先生に見つかったら怖いから、お前盾になってよ」
「ええ、やだよ。それに今の時間なら見つかりっこない。おっかない先生はみんな部活だからね」
結局コーラは半分くらい飲んでからギブアップしたので、代わりに僕が飲んだ。
「じゃ、駅に向かってしゅっぱーつ!」
某国民的ほのぼのアニメのBGMが聞こえてきそうだなと思った。いや、というか途中からそいつが口ずさんでいた。ご機嫌かよ。
「そういえば、机の前でできない勉強って?」
そいつが聞いてきたので、僕は精一杯のドヤ顔をきめた。
「社会勉強!」
今日おごった分は、試験対策にして返してもらう予定だ。




