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アオハル

 スポーツっていうのは、必ずしも楽しいばかりじゃない。というか、大抵のスポーツというのは、苦しいことがほとんどだ。

 楽しいのはほんのはじめ。ボールが上から落ちて跳ねてるのがおもしろいだとか、それを自分で叩いて思い通りに動かすのがおもしろいだとか。子どものころしか味わえない、「できた」の瞬間の感動だ。それが当たり前になってくると、山ほどの「できない」に直面する。

 できない。できない。できないに直面した瞬間、スポーツは苦しいと思い出す。



「しんどくないの」


 空の弁当箱を俺に突き出して、姉さんが唐突にそう言った。いっしょに洗えってことだ。仕方ないので、俺は自分の弁当箱と一緒に姉さんの弁当箱を流しに突っ込む。


「何が?」

「あんた受験生なのに、毎日毎日バスケ漬けでさ」

「しんどくねえよ」

「……ふうん」


 姉さんはバレー部だった。高校一年の冬で辞めてそれっきり、ボールに触っているのを見たこともない。


「バスケも強豪だったっけ。あんた、見かけによらず熱血系だったんだ?」


 からかうような口調にちょっとイラついて、俺は不機嫌な顔で振り返る。


「別に、運動部イコール熱血でもないだろ」

「でも、続けてるってことはそれだけ熱があるってことじゃん。朝練行って勉強して部活してロードワークして、帰ってきても筋トレしてプロの動画見て。よく続くね」


 嫌味じゃないのは分かってる。姉さんのいたバレー部もかなり厳しくて、それが嫌で辞めたのも知ってる。


「……だってさあ」


 分かってる。苦しいことは多い。バスケよりゲームしたいときもあるし、ロードワーク中にサボって帰りたいこともあるし、練習だって週にもう一日くらい休みたいと思ったりする。


「俺、バスケ好きなんだもん」


 多分、俺は高校でバスケを辞める。プロになりたいとか思っているわけでもないし、大学でやろうとも思わない。

 才能というのは確かにあって、所詮高校生の俺達には「できない」が山ほどある。それが、鍛えて鍛えて鍛えて鍛えても、超えられない壁になっている。

 吐きそうになるような練習も、強くなるための正しい生活も、きつい。それでいて、自分ができないことに直面すると、メンタルが一気にやられる。ああ、バスケは苦しいモンだったと思い出す。


「……あっそ」


 呆れたように笑われた。姉さんには、俺がさぞバスケ馬鹿に見えるんだろう。

 高校でだって、最後の大会で何回勝てるか分からない。試合に出られるかすらも。苦しいことを乗り越えて、やりたいことを我慢して、それなのに最後の大会でベンチにいたら、きっと、がんばったのに可哀想とか言われるんだ。


 だから、どうした。


 ボールを触って、バッシュが鳴る音を聞いて、走って、投げて。そのいちばん単純な動きを、何度だって楽しいと思う。もっとやっていたいと思う。苦しくても、その楽しい瞬間のためと思えば、しんどくない。


 そうしていつも、バスケが好きなんだと思い出すんだ。

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