辻占
「よォよォ茂吉、調子はどうだね」
「どうしたもあるか。くだんの辻占のせいで商売あがったりだよ。あの占い師、つぎにあったらうんと懲らしめてやりてぇね」
「穏やかじゃねえなあ。どんな辻占だったんだい」
「なんでぇ八五郎、おめぇ知らねえのか。まあろくすっぽ働きもしねえで遊び歩いているお前さんには、関係のねぇ辻占だよ」
「へえ、するってぇと、商売に関係のあることかね。そいつぁいけねえ、茂吉の商いがとどこおっちゃ、誰がおれに仕事を融通してくれるんだ。どれ、この八さんが聞いてやろうじゃあねえか」
「何が八さんだ偉そうに。角のじい様に鶴のことで騙されたのはどこのどいつだい?」
「騙されてなんかいねえさ。あのじい様のホラ吹き癖をみんなに教えてやっただけじゃねえか」
「じゃあ八さんや。向橋の茶屋の娘がお武家に嫁ぐってぇ噂は知ってるかい」
「なあにぃ!? そりゃいけねえ、嫁ぐまでにうんと通わなきゃあ。あんな器量よしそうそうおりゃしねえ」
「へっへっへ、そぅら騙された」
「おう何だ茂吉、おめぇもホラを吹くのかい。商売人がそれじゃあお客も離れちまうぜ」
「商いで嘘は言わねえさ。返島のたなご屋にはなりたくねえからな」
「たなご屋と言えば、そこにある饅頭が美味そうだな」
「おう、好きに食え、そのたなご屋のさ。八五郎は食ったことがねえだろう」
「ありがてえ。たなご屋の饅頭と言やぁ猫も杓子も涎垂らして欲しがるというぜ」
「そうそう、そのたなご屋が、かびた饅頭を新しいと嘘言って売ったらしいのさ」
「ぶっ……。おいおい、食っちまったじゃねえか」
「そりゃあ大変だ。明日には顔がかびてくる」
「冗談じゃねえや。茂吉、そんときゃ医者にかかる金をくれよ」
「かびた饅頭なんて、俺が出すわきゃねえだろう。ちったぁ頭を使えってんだこの木偶のぼうめ」
「ちぇっ、バカにしやがって。親切な八さんが仕事を手伝ってやろうっていうのによ。朝から晩まで、おめぇはソロバン弾いて、飽きないかね」
「商いだね」
「割のいい仕事はねえかい。そろそろ向橋の蕎麦屋にツケを返さなきゃいけねえんだ」
「じゃあこの帳簿を、その蕎麦屋にまで届けてくれねえか。三つの童でもできる仕事だぜ」
「おう、どーんとこの八さんに任せておくんな。飛脚より速い足が自慢なんだ」
「……。やれやれ、ようやく行きやがった。やかましいあいつが居座るせいで、商売あがったりだ。本当に、よく当たる辻占だよ」




