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プロローグ

 宇宙の果て遥かな地に、機械と幻想の星があった。かつては共生していた機械の一族と幻想の一族はいつしか仲たがいをはじめ、幻想の一族と、多くの機械の一族はその星を去った。現在宇宙で文明を築いているのは、星を去った機械の一族の系譜である。

 のちに機械の一族が生み出したのが、時空を超越する巨大なからくり、『機械仕掛けの神』である。この発明を最後に、星に残った機械の一族は滅亡の一途をたどる。機械仕掛けの神がその後どうなったのか、知る者はいない。



「……以上が第十三銀河史における最大の転機である。この機械仕掛けの神は、現在に至るまでその存在が明確には確認されていない」


 先生の言葉を聞き流しながら、僕はペンを指先でくるくると回す。歴史の授業は嫌いではないけど、銀河史は抽象的な部分が多くて、覚えるのが手間だ。こういう座学より、体力育成の方が僕は好きだ。どうしてこんな退屈な時間を、みんなは平気な顔で過ごせるんだろう。

 きっと、僕の方が変なんだろう。適正テストで素直に答えたらいつも赤点だし。母さんは、適正テストのたびに嫌な顔をする。

 別に、勉強が嫌いなわけじゃない。教室でみんなと同じ時間を過ごすのが苦手なだけだ。



 その日もギリギリまで図書館にいた。僕は、授業で習った、機械仕掛けの神様のことを調べていた。果ての星は存在が確認されていて、無人探査船が行った記録もあるのに、そこにあるはずの機械仕掛けの神だけは、どうしてか見つかっていない。それについて、ほとんどの論文が、『幻想の一族によって、第七次元に隠された』と結論付けていた。


「でも、幻想の一族が星を出たのは、機械仕掛けの神ができる前ですよね」

「まあね」


 司書さんは、僕の疑問に含み笑いで答えた。

 第七次元。機械の一族には観測できないから、きっちりした定義がない。昔は四から六までをまとめて異次元と呼んでいたそうだけど、現在じゃ、性質で三つに分けられている。いつか、第七次元も定義される日が来るんだろうか。


「そういうの好き?」

「……まあ」


 他の人はそうでもないらしいけれど、僕は、抽象的なものが好きだ。抽象的なものがきっちり定義される過程も、嫌いじゃない。これから先、第七次元、機械仕掛けの神の謎が明かされる時が来たら、僕は真っ先にそれを知りたいと思うだろう。



 知りたいとは思っていたけれど、別に、その機械仕掛けの神様に会いたいわけじゃなかったんだけどな。


「わるい幻想の一族が、機械の文明をほろぼそうとしているんだ! 君も手伝ってくれるよね?」

「なんて?」


 とりあえず腹の上から退いてほしい。


「幻想の一族には、幻想の一族の力でしか勝てないんだ。お願い! 君が、この星の最後の希望だ。……ああ! 自己紹介がまだだったね。僕は」

「言わなくていい、言わなくていいから、どいて!」


 思い切り突き飛ばすと、その子供はころんと地面に転がった。きらきらの髪の毛と、背中から広がる金属の翼と、銀色の両手足。首からは、大きな懐中時計をぶら下げていた。

 一目で、普通の子どもじゃないことくらいわかる。


「……機械仕掛けの神様?」

「よく知ってるね。前に会ったことあった?」


 ない。けれど、どうしてか、会ったような気がする。


「……一分待って」

「待ったよ」

「待ってない」


 遠くから、門限を告げるチャイムが聞こえてくる。ああ、もう。今までギリギリいい子でいたのに。


「……なに? 僕は幻想の一族として、星を守るためのヒーローになれってこと?」

「その通り!」


 いや、もう、うん。本当に。

 十五年間、がんばってきたのに。がんばって幻想の一族だってことを隠していたのに、どうしてくれるんだろう。父さんと母さんにどんな顔でヒーローになりますって言えばいいんだ。特に、父さん。機械の一族の特徴を煮詰めたみたいなあの人に。


「……神様。ご飯食べよっか」

「やったぁ! 僕とっても腹ペコだったんだぁ」


 僕はちょっとだけ、現実逃避することにした。

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