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午前五時三十二分

 早朝に散歩に出る趣味がある。散歩は好きだが人が苦手なので、人の少ない深夜か早朝を天秤にかけた結果だ。仕事柄、出勤退勤の概念が存在しないので、暢気な散歩をたっぷりしても、さして苦ではない。

 朝五時前の、人も車も少ない閑散とした街が好きだ。太陽は昇っていて明るいのだけど、店はまだ閉まっているし、片側二車線の大通りを、猫が我が物顔で闊歩している。自分の足音はこんなに大きかったのかと思うほどで、風の音はこんな感じだったかと、毎日思い出させられる。お気に入りの音楽を聞きながらの散歩も好きだ。けれど、朝は、この静けさの方が好きだ。


 不思議な話だが、人は苦手で、人の多い昼間も苦手だというのに、街の風景は苦手ではない。むしろ、好きだ。不自然な色どりと、人間にだけ住みよく作られた環境。それなのに、まっすぐの大通りだとか、見上げた空に鎮座するバイパスであるとかが、なかなかどうして、いい、と感じる。

 ぐるりと大通りのあたりをまわっているうちに、段々と車の数が増えてくる。しかし、一本道を奥へ入れば、まだしんと静けさに包まれた住宅地だ。どこかの外国人がやっているカレー屋であるとか、昼から夕方にかけてしかやっていない、入り口の小さなカフェだとかを通り過ぎると、この散歩の目的地が見えてくる。いや、散歩に目的地があるのは、おかしいだろうか?


 ところで私は、幼いころ、コンビニもないような田舎で育ったのだが、毎週日曜には隣町の教会に通っていた。母の付き合いであったのだけど、子供向けの聖書の話などを聞いてからは、大人の礼拝が終わる昼過ぎまで暇になる。同じ教会学校に来ていた子どもと遊んだり、他愛のない話をしたりするわけだけど、私が何より待ち遠しく思っていたのは、その帰りに買う昼食だった。高校になるまで、通学路にコンビニなどなかったし、何より週に一度ということもあって、日曜の昼食は私のひそかな楽しみであった。


 コンビニの弁当も悪くはないが、私は、教会の近くにある小さなパン屋のパンがいっとう好きだった。ドアを開くとしゃららんとチャイムが鳴って、狭い店内にパンの香りが広がっているのだ。トレーとトングを持ってパンを物色する時間の幸福といったら!

 そんな思い出があったので、一人暮らしを始めたとき、近所に小さなパン屋があることが何より嬉しかった。


 パンの香りに腹を空かせながら思い出に浸っていると、もうパン屋の前にいた。ここのパン屋は、夜勤明けの人だとか、出勤する人だとかのために随分早くから開けている。

 私のお気に入りは、昔懐かしいチョココロネと、さくさくのクロワッサンだ。

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