101輪目の愛の花
初めて会った時。君は、僕専属の女中だった。田舎から稼ぎに出されたのだと、慣れないメイド姿で笑っていた。
女中に恋をするなどあってはいけないことだろうけど、僕は次男だからか、言い寄ってくる女性も少なくて、結局一番長く共に過ごしたのが君だった。だから、それが仕事としての笑顔であっても、僕は君に恋をした。
屋敷の外にすら出してもらったことがなかったので、中庭の花を摘んで、握り締めて、夜になってからようやく渡した。萎れてしまった花を花瓶に飾って、やんわりと、花がかわいそうだとたしなめられた。
「身分だとか、君の立場なんて関係ない。僕は、あなたが好きなんだ。たとえ結ばれない運命だったとしても、この気持ちは偽れない」
そう言うと、君は困ったように笑った。
「光栄です」
次に会った時。君は、街角で花を売っていた。僕が一輪買うと、驚いたような顔になって、それから笑った。
その次に会った時。君は、靴磨きの仕事をしていた。僕を旦那さんと呼んで、安い代金にしては十分すぎるくらい、ピカピカに磨き上げてくれた。
その次に会った時。君は、有名な女子校の制服を着て走っていた。遅刻しそうだ、と半泣きだった。
その次に会った時。君は、今をときめく売れっ子シンガーソングライターだった。ヘッドホンの向こうから聞こえる声に、僕だけが違う理由で涙した。
その次に会った時。君は、白く美しい翼を持っていた。
その次に会った時。君は、小さな花弁に朝露を受けていた。
その次に会った時。君は、僕と同級生の少年だった。
その次に会った時。君は、
「ずっと」
君は、焼けた丘の上から、大地を見下ろしていた。
「ずっと昔。夢をよく見たんだ」
兵士のコートを脱ぎ捨てて、僕と君は並んで夕日を眺めている。君の細い手が、夕日に向かって伸びていた。
「こんな夕日の中で、プロポーズされる夢」
日に焼けた顔で、君は笑う。
「うん」
僕は、懐から、一輪の花を取り出した。すっかり萎れて、色褪せてしまった赤い薔薇。
「……諦めようって、思わなかったの?」
「思わないよ」
君が。人間の世界から連れてこられた君の命の運びが、僕と交わらないままで終わったとしても。幾千万の夜を超え、命を超えてきた先に、結ばれる時がある。
それが、世界の終わりの日だったとしても。
「僕は、君を愛するために生まれてきたんだ」
女中だった君も。花売りだった君も。靴磨きの少年の君も、お嬢様の君も、歌手の君も、白鳥の君も、朝顔の君も、同級生の君も、少女兵士の君だって。
君という存在を愛するために、僕という存在は生まれてきたんだ。
「僕は君に恋をしたあの瞬間から、今日のために、幾度の生を重ねてきた」
たとえ君が全て忘れていたとしても。僕は何度でも、何度だって、君にはじめましてを言うだろう。
それが、刹那を生きる人に恋をするということだ。
「受け取ってもらえるかな」
萎れた薔薇を、君が握る。僕の驚きと喜びを吸って、薔薇が背筋をしゃんと伸ばした。
「もちろん」
ああ、ようやく、最後まで君の傍にいられる。




