残機
コンティニューの文字を見送って、スタート画面に戻るのを待つ。リスタートすると、残機が四つ追加されていた。
たった五回の命。それでも、たいていの人間は一度きりしか命がないわけだから、ずいぶん優遇されているんだろうけど。
「いいなあ」
たった五回死んだだけで終わりだなんて。
僕はどうやら、他人に「死」を押し付けられるらしい。
厄介なこれを、体質と呼べばいいのか、ただの運と呼べばいいのかは知らない。
はじめは交通事故だった。こちらに突っ込んできた対向車と正面衝突して、運転席の父は即死、後部座席の僕と母は無事だった。けれど、僕が痛いと思ったところに傷はなくて、無事だったはずの母が隣で死んでいた。
次は小学校に上がったばかりの頃だった。上から看板が落ちてきて、僕は、尖った看板の角が目の前に来るのを見ていた。けれど、目を閉じて開いた後の僕は無事で、隣にいた友人がぺたんこになっていた。人間はあんなに平たくなれるんだと少し驚いた。
それから毎年のようにそんなことがあって、当然のように、僕は死神と恐れられるようになった。もしカミサマがいるのなら、どうして僕を選んだんだと怒りたい。僕だって、死にたくないし、人を殺したくもない。僕を嫌そうに引き取った親戚の家の一部屋で、ゲームの中の死に憧れ続けた。
ゲームの主人公だって、何度も死ねば「はじめから」にされる。僕にはそれがない。
親。友人。次に僕の「残機」代わりにされるのは、誰なんだろう。
「あなた、死神なんだってね」
担任に説得されて出た卒業式で、そう声をかけられた。たぶん、同じクラスだったんだろうけど、なにせ出席日数がぎりぎりな僕だから、クラスメイトなんて覚えているわけがない。
「ねえ、卒パしよ!」
中学校になっても僕のせいで三人は死んでいるので、周りの誰もが僕を避ける。僕だって人を殺したいわけじゃないんだから、断った。けれどしつこく誘われれば、折れもする。
「私、ずっと死にたくってね」
僕の制服の袖を引っ張って、その子はずんずん歩いていく。
「でも、自分でいろいろ準備して、さあ死のう! って思っても、一人だとどうしてもできなくって。だから、殺してもらおうって思ったんだぁ」
僕に、こんなに明るく話しかけてきた人間なんていただろうか。それくらい、その子は楽しそうに話していた。
「ねえ、私、どう死ぬのかな。交通事故? それとも、びっくりどっきりな通り魔とか! 痛いのがずっとは嫌だなあ、痛い! って思った次の瞬間くらいには、死んじゃいたい」
それはもう、きらきらした顔で。
どうして死にたいなんて言うんだ、なんて、僕が言えるわけがなかった。
わざわざ遠回りをして駐輪場まで戻ってきて、それでも、僕もその子もぴんぴんしていた。その子はちょっと不満そうに、残っていた自転車に駆け寄る。
「たった一日じゃダメかなあ」
「ううん、たぶん」
もし、僕が人に死を押し付けている人間なのだとしたらだけど。
「僕が君を、これっぽっちも好きじゃないからだと思う」
困ったように笑うと少しだけ可愛いその子は、しばらく、サドルの上で黙っていた。
「高校はどこ?」
「行かないよ」
私も、と言ってまた笑う。
「ねえ、一緒に、逃げちゃおうよ」
卒業式が終わって、保護者も、最後だからと涙を流しあう級友もいない同士。
「ごめんね」
でも、僕は、もう誰のことも、好きにならないって決めたから。これから一人ぼっちで死んで、カミサマにざまあみろと唾を吐く予定なんだ。
病院のベッドで目を覚まして、僕は真っ先に、あの子のことを親戚に聞いた。けど、名前も聞いていなかったので、中学校のクラスメイト、としか言えなかった。
二時間待って、その子が来た。嘘みたいに元気だった。人の手はこんなに温かいものなのだと、その時初めて知った。
僕の残機はとっくにゼロになっていたんだと、その時ようやく理解した。




