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不自然

 小さい頃から不思議な夢を見た。


 私の家は小さな借家で、玄関は引き戸だった。開くとがらがらと派手な音がする。だからというわけでもないけれど、田舎で近所は顔見知りばかりだというのもあって、日の高いうちは鍵をかけておかないのが当たり前だった。


 それで、夢というのはいつもこの防犯意識のない家の中で目が覚めるところから始まった。昼寝してしまったかな、と思って私は散らかしたものを片付け始めるのだけど、日は差しているのに妙にあたりが静かだ。田舎だからこそというか、人の声やら犬や猫や鳥の鳴き声だとか、農作業の音とかがいつもは聞こえるものなのだけど、時計の針の音だけが、家の中でやたら大きく響いている。


「ごめんくださいな」


 そんな声が玄関からして、


「はーい」


 私は気楽に返事をする。

 それから、がらがらと音がする。いつもそこで、おかしい、と気付く。玄関の戸を開けてからでないと、あんなにハッキリ声は聞こえないはずなのに。

 そう思ったとたん、背中をぞっと悪寒がはしって、私は玄関に駆けていく。玄関の戸は閉じていて、日の光がガラス越しに、コンクリートを照らしているだけだ。けれど、私は、あの返事をしてはいけなかった、ということだけが頭の中に残って、大急ぎで部屋に戻って座布団を被る。


 そうするとふっと目が覚めて、片付けもしていない部屋の中にいて、ああ、またあの夢だったと思い出す。夢の中では夢だと自覚できないので、目が覚めるまで、とにかく得体の知れない恐怖に怯えていた。



 ある日、私は昼寝から目を覚まして、開きっぱなしだったテキストを閉じた。やっぱり昼間で、やたら静かだった。


「ごめんくださいな」

「はーい」


 いつも通りのやり取りだった。それから、がらがらと音がして、おかしい、と気付く。


「あの夢だ」


 そのとき、唐突にそう思った。それから、今の返事が、してはいけないものだったと分かって、ぞっとした。

 玄関を見に行って、座布団をかぶって寝る。そうすればこの夢は終わるのだけど、足に力が入らなくて、どうしても玄関まで行けなかった。大切に使っていたはずのノートのページが破られていたとか、今まで夢だと自覚することはなかったとか、そういう、小さな違和感も手伝って、玄関に見に行ってはいけないような気がした。ただでさえ、何か分からないものに返事をしてしまっているのに。


「ごめんくださいな」


 もう一度声がした。私は心臓がひっくり返りそうになる。

 夢だ。そう呟いた声が、情けないくらいに震えていた。覚めろ、覚めろ、覚めろと自分の頭を叩く。それでも一向に、眠気は襲ってこない。意識が遠のいたりもしない。

 そうだ、と私は座布団に視線を向けた。さあ目を覚まそう、こんな怖い夢のことは忘れて。


 そう思って座布団を掴んだ瞬間に、がらがら、と玄関の音がした。


「ただいま。あらどうしたの? 真っ青で」


 買い物に行っていた母が立っていた。


「今そこに、だれかいなかった?」

「え? ううん、誰も。今田植えの時期じゃない。みんな田んぼに出てるわ」

「……そう」

「また、嫌な夢でも見たの?」


 そう、あの、何かに返事をしてしまう夢を、私は何度も見た。何度も見ていたけれど、ちゃんと、最後は目を覚ましていたんだ。

 私は今、目を覚ましているんだろうか?



 あれから三年ほど経つ。

 もうあの夢は見ない。

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