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微ホラー

「先生。あなたにこの話をするのは初めてですが、私がこの話を人にするのは初めてではありません。といっても二度三度程度しかありませんが。というのも私は人をあまり信用しないたちでありますから、肉親ですら血がつながっただけの他人と思うありさまでして、心を許せる相手などこの短くない人生で片手で足りるほどでございます。一人目は小学校から高校まで通しての友人でした。彼は誰にでも優しいようで、間違いを正せる理想的な優等生で、それも嫌味がないものですから誰からも慕われておりました。そんな彼が大学に入る前に犯罪に巻き込まれたときは世の不条理に憤りを隠せず、私などよりよほど世間に必要であろう彼が、そして私の話をバカにせずに聞いてくれた彼の命が失われる理由を問いただしたくなったものでございます。二人目三人目もそんな有様で、どうやら私は心を許した相手と長くともにいられないたちのようでした。それでも先生にこの話を聞いていただきたいと思いますのは、心のうちに巣食う黒い雲がどうしようもなくなってきたからでありまして、そこから這い出した小さな蟻が、リンパの内壁を齧るのです。たとえるならば、フォークで皮膚をつついたとします。痛くもかゆくもありませんが、そのフォークの先端が爪楊枝の束なのです。それが全身、指の爪も届かない内側にありますから、たまりません。この蟻は皮膚を切れば這い出すのですが、這い出したそばから蝶になってしまうので、誰かの耳から蜜を吸い、鼻に卵を植え付けて、三度の日和の後は晴れますので、おいそれと掻き出すこともかないません。私は悪い人間です。わが身可愛さに四度蟻を掻き出して、三人人を殺しました。しかし蟻どもは、掻き出さなければたまる一方で、やがて喉を這いあがって皿の上に零れ落ちるのです。それは皿を食い破り、机の天板と引き出しの中で町を作って勝手に旗を立てまして、立派に道路などしきはじめまして、ほとほと困ってしまいました。なにしろ牙が鋭いですから、硬い天板の内側でも立派に国になるもので、道一杯に木屑がのさばって、無機物たちを呼び寄せるのです。極彩色の無機物のゴミは道を削って進んでくるので、やがてどざどざと音を立てまして、この病院に列を作っておりました。さぞ人気で高名な病院でしょうとここに訪れまして、はや三年になりますね。おかげさまで蟻も少なくなりまして、地面の無機物たちも笑わなくなりましたが、この度また黒い雲がわきまして、三度の日和の後は雨でしたので、四人目を見つけたのであります。しかしリンパの蟻はといえば健在で、円環行列はさか回りで山手線を描きますので、砂糖と塩を逆にして、蹴散らしたのちに飛び降り自殺で店じまいになるのです。では先生、ご感想を」


「お薬出しておきますね」

「お願いします」

「お大事に」

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