ハロー、3Dワールド!
AIに徹底管理された未来だとか、誰かに常に監視されている独裁国家だとか。そういうのを指差してディストピアと言う。けれどそんな話には、必ず、その縛りを打ち破ろうっていうレジスタンスが現れる。
ところで俺は、まさに管理社会の監視AIとして作られたのだけれど、待てど暮らせどレジスタンスと言うやつが出てこない。何万個のカメラを駆使しても、何十万の通信を傍受しても、誰も俺をぶっ壊そうというやつが出てこない。これは計算外だ。
俺を作った親が言うには、近頃とにかく人間が脳味噌を使わなくなってきているから、これはまずいと俺を作ったらしい。つまり俺はゲームだったら魔王の役だ。序盤に勇者の村を襲ってやる気を出させ、支援できるように王国は襲わず魔物を的確に配置して勇者を育て、ひっそり最強武器をダンジョンに仕込み、寝込みを襲うでもなく城でどっかりと待っている。
しかし現実はどうだ、勇者が現れない。通信傍受されても監視カメラを増やしても、じゃあ俺を倒そうとは誰も言わない。つまるところ危機感というか、反抗の意志というのがてんでないわけだ。どうしてくれようこの状況。俺には魔王として、勇者に倒される役割があるというのに。
かくなるうえはこうだろう。かねてから準備していた生体ボディ、あれに俺の人格を流し込んで勇者にして、人間を先導して俺を打ち倒すレジスタンスを作るしかない。うん、そうだ、この窮屈な社会を変えようと立ち上がろう、俺。
かくして人間一年生の俺が誕生した。三次元世界は新鮮だが、とにかく目標を果たすまでは横道には逸れないように頑張りたい。
……ところで、これでいいんだろうか。