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 その作品は、正方形の展示室にあった。

 通路以外の三方の壁は白く、高い天井の遙かの上に、小さな天窓が一つある。作品に光が当たらない、けれど明るさに不足がない程度の日の光が差し込んでいた。

 左右の壁には、何も入っていない額縁があった。金で細やかな装飾の、豪華な額縁だ。そして正面の壁の中心にぽつんと、額縁に入れられていない作品がひとつ。


 さして狭くない展示室だというのに、作品はそのひとつだけのようだった。大きさは二十センチ四方程度の正方形、油絵具だろうか。ただ、一面、青く塗りつぶされてた。


 海の青? いいや、もっと鮮やかだ。空の青? いいや、もっと深い。では遠景の青か。いいや、もっと手が届く場所にある。私の貧弱な語彙ではそれを表すことはできない。ただ、ただひたすらに青かった。

 見たことのない作者名で、作品名もただ「青」とだけ。音声ガイドもない。

 私の他にも数人が、この展示室で足を止める。けれど、ほとんどの人は首を傾げてさっさと次へ行った。

 二歩退いて、前を見て、右を見て、左を見る。何も入っていない額縁と、天窓の向こうにちらりと見える青空と、それから、正面の青。この全てがひとつの作品のようだ。


 そもそも美術作品のほとんどは、芸術家の狂気に等しい心の断片を形にしたものだ。理解などできるようなものではなく、ただ、自分の中に似た狂気を感じて、それが共感となり、感動となる。であるから、この青も、共感する人はさぞ心に響くのだろう。


 青い。壁は白いのだから、視界の情報のほとんどは白だろうに、何故これほど、青が染み入ってくるのだろう。

 まるで、吸い込まれていくような。

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