ぼくらは
ふと気づいたら、あったはずの日常がなくなっているなんて、案外あり得ることだった。
渡されたのは、一本のサバイバルナイフと一枚の紙の地図。仲間は自分を入れて十人。年齢は十歳から十五歳まで、男女一人ずつ。
首には外せない首輪をつけられて、張りぼての町に放り出された。説明も何もない。十人が集合できたのも、目が覚めて十二時間後だった。
「町はずれのホームセンターに、まだ少しガソリンが残ってる。発電機が動けば、一時的にでも夜の寒さはしのげるはずだ」
十五歳のリーダーが指示をして、それ以外の九人が動く。この十日間、どうにかこうして生きてきた。
幸いこの町は、僕達以外の人間がいない以外は、普通の町だった。コンビニもあるし家もある。けれど電気はあっという間になくなったので、灯油やらガソリンやら、エネルギー源を求めてさまようことになった。食料だって、コンビニやスーパーのものはどんどん腐っていって、保存食だけを、「アジト」と呼んでいる場所に集めている。けれどカップラーメンやレトルト食品も、お湯がないとどうしようもなかった。
「プロパンガスの家ってあったっけ」
僕が聞くと、リーダーは難しい顔になった。
「町の西の方は全然探索が進んでない。台車はガソリンに使いたいし、車を動かすのもガソリンを使うからなあ」
「じゃ、僕が自転車でぐるっと見てくるよ。プロパンの家があったら、地図にチェックしておけばいいよね?」
「だけど、東の方は全部都市ガスだったろ? この町、プロパンは置かれてないのかも」
「行ってみなきゃ分からないよ。湿度も上がってきてるし、雨降りそうだろう? あったかいもの食べなくっちゃ」
「悪いな」
大きな自転車にまたがって、僕は地図を片手に探索に出た。
太陽が少し橙色になったので、慌ててアジトに戻った。アジトは、町の真ん中付近の一軒家だ。唯一鍵がかかっていなくて、窓を壊さなくても中に入れた家だ。オール電化だったのが本当に憎らしいけど。
「収穫あった?」
「プロパンはなかったよ。でも、何件かの家で、カセットコンロとガスボンベは見つけた」
「そいつぁありがたい」
家具を退けたリビングで、みんながそれぞれの収穫と報告をする。おとといくらいに決まったルールだ。
「あれ、リーダーは?」
「具合悪いって。上に行ってる」
僕は二階に行って、寝室を覗いた。マットレスを敷き詰めた部屋の隅で、リーダーがうつ伏せになって倒れていた。僕は、そばに、こっそり取ってきたチョコレートを置いて一階に戻る。
どうしてこんなことになっているんだって、答えを誰かが知っているはずもない。けど、彼はリーダーだから、毎日誰かが言う「どうして」に、見え見えの空元気で返事をする。僕からしたら十五歳は、一歳上なだけだけど、中学二年生にとっての中学三年生は、すごく大人に見えるんだ。だから僕も、遠慮も知らずにリーダーを頼っていた。
でもそろそろ、僕達は、誰かに手を引いてもらう子供でいられなくなってきた。
十三歳は反抗しなくなって、十二歳は十歳の手を引くようになって、十一歳は勝手にお菓子を食べなくなって、十歳は大声で泣かなくなって。十四歳はサブリーダーになって、十五歳はふたりで一人のリーダーになった。何でも手に入って、遊ぶのも勉強するのも当たり前にできる社会を、大人達が造っていたと、理解した。
僕らはいつだって、社会に、子供であることを許されてきただけなんだ。




