大好きなあなたへ
ハロー、ハロー、大好きなあなたへ
僕の声は聞こえていますか
あなたの耳に届いていますか
ハロー、ハロー、大切なあなたへ
あなたの声は僕に届かない
「やあ少年。青春してるかい?」
話しかけてきた声に、僕は顔をしかめて「全然」と返す。高校生活は存外刺激がなかった。声のぬしは、ふんふん、とわざとらしく相槌を打った。
この声の主は、随分昔から僕のそばにいる。声からして、多分、若い女の人。声しか聞こえないので姿は見えないし、夢に出てきたこともない。よく晴れた日の、日の光で照らされた道端が、この声の居場所らしかった。
幼いころから当たり前に聞こえている声だし、話さない方がいいよ、と声自身に言われていたので、僕の秘密の友だちのようなものだった。
こういう言い方はどうかと思うけれど、この声は、とにかく僕にとって都合のいい存在だった。だって僕以外には聞こえない存在なのだから、何を愚痴ってもいい。毎回うんうんとかそれは大変だねとか、僕が欲しい相槌を打ってくれるし、誰かに話をばらされる心配もない。僕が十七年間心穏やかにいい子で過ごしてこられたのは、案外この声のおかげかも知れない。この声はどんな愚痴だって聞いてくれたし、結構的確で刺さるアドバイスをくれたりもした。
いつか大人になったら、その声の主が消えると思っていた。だから、声の主を名前で呼んで、それで覚えておきたいと言った。そうしたら、多分、笑ったんだろうなって声がして、
「いいのさ、忘れて。君が成長していく姿を見ることが、私の楽しみだ。子どもの時のころ見えていたものが見えなくなるのだって、成長なのだよ」
そう言った。
僕はその時、生まれて初めて女の人に告白した。
そして、生まれて初めてフラれた。
高校を卒業したその日から、声は聞こえなくなった。多分、僕の近くにいるんじゃないかって、何の根拠もなく思うけれど。
声だけで、姿も何も見えなかったあの人は、あっという間に僕の中からいなくなっていく。だから時々、僕は、あの人がいそうなところに呼びかける。
ハロー、ハロー、大好きなあなたへ
僕の声は聞こえていますか
あなたの耳に届いていますか
ハロー、ハロー、大切なあなたへ
あなたの声は僕に届かない
けれど今でもあなたが好きです




