水色
見下ろした空と海の境が遠くて、あの先に何があるのか見たくなった。
「大昔の人類は、そんな気持ちで舟をこぎ出したのかもね」
僕達の世代は、すっかり世界が暴かれていて、見えるものは全部解明されている。躍起になって、見えないものを追いかけていたのももう昔の話だ。
けれど、何もかも分かっていても、美しいものを美しいと思うことはあるんだと思った。
草を踏んで、僕は崖の際に立つ。裸足の足に、石が少しだけ痛かった。
「でも、人類は空を飛べなかったよ」
見えるものも見えないものもすっかり暴いた代償に、人類は鉄色の都市に引きこもるようになった。だから、この空も、海も、綺麗な大地だって全部、僕達のものだ。
「全部ぜんぶ、知っているのに見られないなんて、可哀想だね」
僕達は、空の上からの世界を知っている。風がうなりを上げて吹くさまを知っている。雲の上に出たときの、別世界を知っている。空と海の間の、自由な場所を知っている。
「飛ぼうか」
僕達は、竜。人間が夢見た翼を手に入れて、人間をやめた怪物だ。水色の髪と角、それから鱗が生えた尾。人間に要らないものばかりをくっつけて、ようやく、空を手に入れた。
人間だった時のことは、もう思い出せない。
朝日が昇ってきて、夜の闇が消えてきた。巣穴から這い出して、僕達は、お気に入りの場所に行く。
東の空のそのまた向こう、海の端を照らして上ってくる太陽。目が痛くなるくらいに眩しくて、くらくらする。
おはよう、世界。
今日も、綺麗な世界が始まった。




