星屑のアリア
仰いだ夜空の星空を、美しいと人は云う。私はしかし、降り注ぐ星屑の、燃え盛るその刹那にこそ真の美しさを見る。漫然と在るだけの星の何が良い? 塵へと還る命を燃やした煌めきこそが美しかろうに。
流星群が来ると言う夜、私は天体観測に向かった。そこは普段から星がよく見える場所であるから、流星群でなくとも人が多いらしい。
そんな絶好の場所であるから、流星群の日となると、夜中になるほど人が増える。一心に空を見つめているさまは、空に憑りつかれた末期患者のそれだ。私もそれに倣って、命の輝きを探そうと夜空を仰ぐ。
近くで横になっているカップルが、あれはこの星、それはこの星、星座にはこんな神話があってと話に花を咲かせていた。星にかこつけて話をしたいだけのバカめ。人間が名付けて、人間が線を引いた星座の何が面白い? 流星を見れば願い事を言うつもりだろう。名もない星屑の墜ちる刹那に、私利私欲を挟む愚かしさよ。
嗚呼、ああいう連中こそ、漫然と在る星そのものだろう。名があり、星座の一部であり、しかしただそこに在るだけの、生産性の欠片もない命。けれど、私も――――。
漠然と生きている。生まれて育って死ぬまでの数十年は、本当に、ただ在るだけの星のようで、いずれなくなるただ一つ。燦然と煌めくこともなければ、命を燃やすこともない。
きっとほとんどの人間がそうだろう。平凡を幸せと呼び、いずれの死の先に何かを残そうと躍起になる。百年もたたずに生きた証が消えようと、そんなことに思いもはせず。数千年の未来に、何かが残ると夢を見る。
けれども、私は。やはり私の生は、燃え盛るその刹那の煌めきが相応しいと思うのだ。
そろって口を開けた群衆を見下ろして、私はフェンスの外に立つ。高い。けれど、何といい景色だろう。ほんの半歩で、私は流星になる。
「あんたの命はどうでもいいけどさ」
フェンスの上に立って、私を見下ろした少女がそう言った。
「でも、誰もあんたのことなんか見てないよ。あんたは星じゃないんだから」
……。
言葉で殴られたのは、後にも先にもその時きりだった。
振り返れば消えていた彼女には、まだ礼を言えていない。