表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/100

星屑のアリア

 仰いだ夜空の星空を、美しいと人は云う。私はしかし、降り注ぐ星屑の、燃え盛るその刹那にこそ真の美しさを見る。漫然と在るだけの星の何が良い? 塵へと還る命を燃やした煌めきこそが美しかろうに。


 流星群が来ると言う夜、私は天体観測に向かった。そこは普段から星がよく見える場所であるから、流星群でなくとも人が多いらしい。

 そんな絶好の場所であるから、流星群の日となると、夜中になるほど人が増える。一心に空を見つめているさまは、空に憑りつかれた末期患者のそれだ。私もそれに倣って、命の輝きを探そうと夜空を仰ぐ。


 近くで横になっているカップルが、あれはこの星、それはこの星、星座にはこんな神話があってと話に花を咲かせていた。星にかこつけて話をしたいだけのバカめ。人間が名付けて、人間が線を引いた星座の何が面白い? 流星を見れば願い事を言うつもりだろう。名もない星屑の墜ちる刹那に、私利私欲を挟む愚かしさよ。

 嗚呼、ああいう連中こそ、漫然と在る星そのものだろう。名があり、星座の一部であり、しかしただそこに在るだけの、生産性の欠片もない命。けれど、私も――――。


 漠然と生きている。生まれて育って死ぬまでの数十年は、本当に、ただ在るだけの星のようで、いずれなくなるただ一つ。燦然と煌めくこともなければ、命を燃やすこともない。

 きっとほとんどの人間がそうだろう。平凡を幸せと呼び、いずれの死の先に何かを残そうと躍起になる。百年もたたずに生きた証が消えようと、そんなことに思いもはせず。数千年の未来に、何かが残ると夢を見る。

 けれども、私は。やはり私の生は、燃え盛るその刹那の煌めきが相応しいと思うのだ。


 そろって口を開けた群衆を見下ろして、私はフェンスの外に立つ。高い。けれど、何といい景色だろう。ほんの半歩で、私は流星になる。


「あんたの命はどうでもいいけどさ」


 フェンスの上に立って、私を見下ろした少女がそう言った。


「でも、誰もあんたのことなんか見てないよ。あんたは星じゃないんだから」



 ……。

 言葉で殴られたのは、後にも先にもその時きりだった。

 振り返れば消えていた彼女には、まだ礼を言えていない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ