十二年前の記憶
私が住んでいた田舎には、近付いちゃいけないっていう小さな祠があった。
子どもなんていうのは、近付いちゃいけないってところこそ近付きたくてしょうがない。第一危ないってことすら知らないわけで、危ないから近付くな、と言われたって、好奇心の方が絶対に正義になってしまう。五人もそんな仲間がそろえば、気分は無敵だった。
それでも怒られるのは嫌だったので、こっそりその祠に向かった。雑木林の獣道の木の枝に、白い紐が括り付けて合って、それを辿っていくと祠についた。今思うと、あの紐は、私たちみたいにこっそり見に行く子どもが、迷わないで帰ってこられるようにという大人の気遣いだったんだろう。丁度、子どもの目線くらいの高さで、まだ新しい枝に括り付けてあったから。
それだから祠には迷わないでついた。祠は話に聞いた通り、窓の所に鉄格子があって、ちらりと見える天井も真っ黒だった。木の板を壁のように貼り付けただけの、檻なんだと何となく理解した。前に張り出した屋根の下には、薄汚れたしめ縄が吊るされていた。高さは、子どもの私達が肩車をすれば、屋根の上に乗れてしまうくらい。三段の階段を除いたらもっと低いだろう。ギシギシとか、ガリガリとか、木が軋む音がひどかった。ずいぶん古いらしい。
怖いものなんてない、と粋がった一人が背伸びをして窓から中を覗き込んだ。裏山の古い井戸を覗き込んだ時のような顔をしていたから、きっとすごく怖かったんだと思う。井戸の中には虫しかいなかったけれど、祠の中に何がいたのか、結局教えてもらえなかった。私はというと、覗く勇気がなかったので、すごいや、とその子を称えて難を逃れた。
紐を辿って戻ると、腕を組んだおばさんが立っていた。近所の、本名は知らないけどとにかく怖いおばさんだ。あの祠に行ったんでしょ、と物凄い剣幕で怒られた。
そんな昔の思い出を、正月に帰った時に祖母に話した。もう時効だろうと思っていたけれど、祖母も父も苦い顔になった。あのとき中を覗いた子も、今も元気で大学に通っている。あの祠の中には、もしかしたら何もなかったんじゃないかと、今は思う。
「昔、あそこには深い井戸があってね。誰が掘ったか、石で周囲を固めた大きくて深い井戸だよ」
祖母が、低い声で言った。もしかして、そこに誰かが落ちて亡くなったんだろうか。それで、祠を造ったとか。祖母は首を横に振った。
「鉄の分厚い板は高いから。隣村の裕福な家が、大きな獣を飼っていてね。その檻を貰ってきて、置いたんだ。それから目立たないように、それを祠にしてね」
そこまで聞いて、嫌な予感がした。
「あれは、ね。蓋なんだよ」
あの時のことを思い出して、今更のように足から力が抜けた。
ガリガリと、音がしていた。




