終末、どこへ行きますか
八月一日。
「非常に残念なことですが、人類の寿命はあと一ヶ月と観測されました」
ただそれだけの、薄っぺらい言葉で世界はパニックになった。戦争か、飢饉か、それとも隕石でも降ってくるのか。素人から玄人までがせっせと議論しても答えは出ず。ただ唯一事実としてあったのは、八月になってから新生児が一人もいないということだった。
けれど人間の現実逃避の能力は凄まじくて、三日もしないうちにいつもの日常が戻ってきた。あの薄っぺらい言葉が放送されたビデオも、動画も、世界中どこを探しても無くなっていた。議論を続けているのは、頭がいい一部の人だけだった。
僕は好きだった人に告白した。最後の彼氏があんたは嫌だとフラれた。ちょっと泣いた。
親と数年ぶりに旅行に行った。神社のおみくじで凶が出た。結ばないで持ち帰った。結んできなさいよ、と親に苦笑された。
夏休みの宿題を図書館に持っていった。一ページも進まないでずっと本を読んでいた。
八月三十一日。いつもと変わらない朝が来た。
八月三十一日。いつも通りに家を出た。部活の準備と教科書を鞄に放り込んで。ビックリするほど蒼い空を見て。
明日もきっと晴れだろう。
きっと、明日も僕は学校に行って、なんでもなかったねと笑うんだろう。だって、今日まで何もなかったんだから。
今日も明日も生きていると、当たり前みたいに思っている。
八月三十一日。今日がきっと、人類最後の一日。
何の変哲もない一日を終えて、ベッドに横になった。目を閉じたら二度と開くことはないのかなと、少し感傷的になった。
九月一日。
僕は自分が「人類」じゃなかったと知った。




